祐紀・殿と老中への説得 4 (注意:残酷な描写あり)
突然の天気の急変に驚いて庭をみていると、やがて雨が少し小降りになった。
急変した天気がすこし回復したのをみて、殿や老中らはホッとした。
あまりに異常な天気だったからだ。
そして皆が小雨模様の空を見上げた時だった。
上空に何やら光る小さいものが雲間に見えた。
皆が無意識に、その小さく光る点を見つめる。
その小さい光は、此方に向っているようで徐々に大きくなってくる。
かなりの速度だ。
異常な速度で大きくなりながら向ってくるため、思わず皆が後ろに仰け反る。
やがて、近づいて来る物が何か分かった。
地龍である。
目は不気味に赤く濁っている。
牙には血であろうか、べっとりとした赤い物がこびりついている。
よく見ると、口から赤いドロッとした液体が滴って糸を引いていた。
なんだろうと、目を眇めて口元を見ると・・
牙の間から、人の手と足が出ているのが見えた。
思わず息を呑んだ。
家老であろうか、 ヒッ! という短い悲鳴が聞こえた。
やがて地龍は目の前でUターンをした。
巨大なんていうものではない。
恐怖で目が離せない。
目の前で鈍く光るどす黒い鱗が列をなし、ウネウネと揺れながら通り過ぎる。
そして、太いなんていうものではない胴が目の前から急に遠のいていく。
その様子を皆が呆けて見ていた。
地龍が見えなくなると、恐怖から解放され我にかえった。
ホッとして、お互いを確認しようとして固まった。
自分達が城中にいないことに気がついたからだ。
何時の間にか荒涼とした場所に移動をしていたようだ。
今居るのは、おそらく元は城下町だったのではないかと思える所だ。
家屋は見る影も無く壊され、彼方此方で燻って煙が立っている。
屋根瓦の残骸が散乱し、折れた柱や木っ端が散乱している。
地震で壊れても、これほどに壊れることはない。
生やさしい壊れ方ではなかった。
辺りには人影はない。
しかし、遙か遠くで、子供であろう泣き叫ぶ声が聞こえる。
散乱しているを見ると、土がドス黒く変色している。
よく見るとドス黒い中に何かある・・。
あれは人の腕ではなだろうか? 千切れて見る影も無い。
すこし離れたところには千切れた右足が転がっていた。
それも見渡すとものすごい数の手足が、あちらこちらに散らばっている。
土がドス黒いのは、血の跡なのではないだろうか・・。
見るに堪えない光景に、皆は思わず目を瞑る。
しかし、再び目を開いて、さらに唖然とした。
景色が変わっていたのだ。
宿場町のような場所に自分達はいた。
自分達にいったい何がおきているかわからない。
分かるのは、先ほどと違う場所に自分達がいるということだけだ。
その場所は賑やかだった。
往来には人が溢れ、活気に満ちていた。
人々は太陽の光を眩しそう見て行き来している。
ある者は微笑んで連れと会話をしたり、井戸端で騒いでいる。
また、旅籠の呼び込みは威勢のよい声を旅人にかけていた。
そんな時、突然、太陽が隠れ急に暗くなる。
晴れていたのに、あれよあれよという間に黒い雲が空を覆う。
するとどこからともなく地龍が現れた。
地龍は急降下すると、旅籠のある道を歩くかのように道に沿って飛ぶ。
その時、地龍は口を開け道を歩く人々を次々と飲み込み、噛み砕いて駆け抜けた。
後には幾ばくかの千切れた手や足が残っただけだ。
喰われた人々は悲鳴すら上げる暇もなかった。
あれ程いた人々は一瞬で往来から居なくなった。
その直後、その様子を家の中や、路地にいて見た人々から悲鳴が上がった。
しかし、惨事はこれで終わらなかった。
次の瞬間、雷鳴が轟いたと思ったら、宿場町の彼方此方に幾つもの雷が落ちる。
落ちる度に旅籠などが木っ端みじんに砕け散り跡形もなくなる。
そして雷の落ちた所から火災が発生した。
やがて地龍が戻って来て、雷で壊れなかった家々に突っ込み破壊をする。
その光景を見て
「止めろ!」
思わず誰かが叫んだ。
その叫び声が合図となり、何時の間にか城中に戻っていた。
殿を始め、老中、佐伯は広間で呆然とした。




