祐紀・殿と老中への説得 5 (注意:残酷な描写あり)
殿や老中が呆然としているなか、佐伯はすぐに我に返った。
そして、あわてて祐紀を見た。
祐紀は額に脂汗を浮かべ、ぐったりとしていた。
「祐紀!」
祐紀は佐伯の声に、のろのろと顔を上げ佐伯の方を振り向いた。
「祐紀、どうした!」
「・・大丈夫です・・。」
そういうと祐紀は、両手を突き上体を支えた。
慌てて佐伯は祐紀の元にかけより、祐紀を支えた。
殿や老中も我に返り、佐伯と祐紀の様子を見ていた。
殿が祐紀に声をかける。
「祐紀よ、いかがした?」
「・・・すみませぬ、神の力を借りるのは人には負担なのです。」
「?」
「本来、人には無い力を使うわけですから、霊力が枯渇するのです。」
「そう・・なのか? 大事ないか?」
「はい・・、少し休めば多少はよくなります。」
このやり取りに堀田が割り込む。
「茶番をするでないわ!」
この言葉に佐伯は、堀田を思わず睨んだ。
「堀田様、茶番とは酷い言いぐさですね。」
「ふん、あんな幻術など使いおって!」
「幻術?」
「そうであろう! 南蛮渡来の何かであろうが!」
「堀田様、祐紀が地龍を見せる前に言った事を覚えておいでか?」
「?」
「お忘れですか?」
「何かいったか、偽霊能力者が?」
「堀田様、祐紀は正真正銘の霊能力者ですぞ。」
「ふん、どうだか、な。」
「今までの祐紀の御神託をご存じでしょう?」
「たまたまであろうが、あんな御神託であたった災害など。」
「ば、馬鹿なことを申されるな!」
「思ったことを言ったまでよ。」
「ありがたい神のお言葉を、なんと心得まする!」
「ふん、御神託などとまがい事を!」
その言葉を聞いて、祐紀は荒い息をしながら堀田に忠告する。
「堀田様、これ以上は言われない方がよろしいかと。」
「何をぬかす、神主風情が!」
「・・・。」
「殿、こんな茶番を信じてはなりませぬぞ、神罰などあるわけがない。」
そう言い捨てると堀田は立ち上がり、広間の廊下に歩いて行った。
そして晴天の空を仰ぎ見て大声で言い放す。
「天罰とやらを儂にあたえてみよ!」
そう怒鳴ると両手を広げた。
晴れ渡った空は穏やかで、風がない。
「どうだ、祐紀、天罰なぞないであろうが!」
そういって堀田は大声で笑った。
「天罰だと! ふん、神など居るわけがない。」
その堀田の言い分に祐紀は再度警告をする。
「堀田様、本当にもうやめた方がよろしいですよ。」
「まだ申すか、この偽霊能力者が!」
「私のことは愚弄してもよいですが、神様へはお止め下さい。」
「ははははは、御神託なぞ・」
そういった直後であった。
晴天にかかわらず眩しい稲光とともに轟音が響いた。
ドン!
雷が落ちたのだ。
それも堀田に直撃した。
堀田は口を開き呆けたような顔をし立っていた。
やがて髷から煙が上がり、髪が燃え上がる。
しかし堀田は表情を変えない。
熱さを感じていないかのようだ。
髪は燃え続ける。
やがて、体が少し揺らいだ跡、ゆっくりとそのまま、俯せに倒れた。
殿、老中、佐伯は目を見開き、その様子を目に焼き付けた。
佐伯は祐紀から離れると、慌てて堀田に駆け寄った。
慌てて己の裃を取り払うと、裃を堀田の頭にかぶせたり叩いたりして火を消した。
髪の毛の焦げる臭いが広間に流れ込んでくる。
殿や、老中達は僅かに顔を顰め、この様子を固唾を呑んで見ていた。
佐伯は堀田を仰向けにし、鼻へ手を翳す。
そして、慌てて首に手をあて脈を見た。
佐伯はゆっくりと殿の方に顔を向けた。
そして首を横に振った。
殿はそれを見て、脇息にガクリとよりかかり俯いた。
そしてボソリと呟く。
「馬鹿者が・・・。」
その殿の声を聞いて老中は皆、俯いた。
誰も何も話さなかった。




