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祐紀・殿と老中への説得 2

 殿から地龍がいる証明を迫られた祐紀(ゆうき)は、ニッコリと笑った。


 「証明する前に、殿様や老中の方々は地龍についてご存じですか?」


 祐紀の言葉に殿は(うなず)いた。

老中は頷く者と、目を泳がせる者がいる。


 土岐(とき)が祐紀に質問をした。


 「祐紀よ、地龍についての知識が何故必要じゃ?

 「先ほどの議論から、皆様方は地龍の怖ろしさを知らないのではないかと。」

 「それがどうした?」

 「地龍の怖ろしさを知らずに、地龍が居たとして対策をしますか?」

 「ふむ、まあ、それは一理あるかもしれぬな。」

 「ですから、地龍の怖ろしさを知って頂きたいのです。」


 それを聞いた坂田が祐紀に怒鳴る。


 「おらん地龍の怖さなど知りたくも無いわ!」

 「では、坂田様、もし地龍がいた場合、この国がどうなってもよいと?」

 「な! 儂を愚弄(ぐろう)するか!」

 「いいえ、そのようなことはありませぬ。」


 この坂田と祐紀のやり取りを見て、殿は関心した。

老中の怒りにも平然と受け答えをするなどたいした度胸だ。

物怖じ一つもしていない。

しかも理路整然としている。

それも、この歳でだ。

あの養父の息子だけのことはある。


 しかしだ、地龍が居ることを証明するなど馬鹿な事を言ってしまっている。

儂の前で公言をしてしまったのだ。

これで証明ができないとなれば、儂に嘘を吐いたことになる。

これでは儂はお主を救えんぞ?

明言などしおって馬鹿めが・・。

困ったものだ。

おそらく佐伯でも救う手立てを考えるのは至難の業(しなんのわざ)であろう。

宮司になった彼奴に何と言って謝ればよいものか・・。

そう殿は考えて眉間に皺を寄せながら様子を見ていた。


 そんな殿の思案など知らずに、祐紀は坂田に淡々と話しかける。


 「坂田様、地龍がいたなら、この国はどうなるか分かりますか?」

 「ふん! 地龍など居ないに決まっておろうが!」

 「居たら、です。」

 「・・・。」

 「お答え下さい。」

 「さて、閉じ込めていた辺りに雷でも落として天にでも帰るのではないのか?」

 「先ほどの話しを聞いていませんでしたか?」

 「?!」

 「国が滅びると。」

 「お伽話であろうが、それは!」

 「地龍が居たら、と、伺っています。」

 「ぐっ!・・・。」


 祐紀は坂田をジッと見つめる。

坂田はたじろいだ。

祐紀の凜とした態度に、思わず寒気がした。

別に威圧されているわけではない。

祐紀の言うことが真実だと本能が訴えてくるのだ。

しかし、地龍など居らんと言った自分の矜恃が許さない。

握った手が冷や汗で濡れる。


 「で、では、ど、どんな事になるというのだ。」

 「地龍はこの地の民がいなくなるまで人々を襲い、大雨を降らせ川を氾濫させます。」

 「な! 民が居なくなるまでだと!」

 「はい、地龍に宿った怨念とは、それほど怖ろしいものなのです。」


 「なら、地龍を成敗すればよいだけではないか!」

 「聖獣たる地龍を人が成敗できるとお思いですか?」

 「できるであろう? 所詮は生き物だ。」

 「天空から雷を落とし、大雨で川を氾濫させて人を流すのですよ?」

 「うっ!・・。」

 「どうやって天を駆け巡る地龍を捕まえるのですか?」

 「・・・。」


 祐紀の言葉に坂田は一瞬口を噤んだ。

しかし、直ぐに反論を始める。


 「地龍だとて地上に降りることもあろう!」

 「はい、確かにあります。」

 「地上に降りたところを狙えばよいのじゃ!」

 「何時、何処に降りるかわかりませんよ?」

 「あっ、い、いや、な、なんとかなるわ!」

 「人がこられぬ高山に降りてもですか?」

 「つっ!・・・。」


 祐紀にやりこまれる坂田は何とか論戦で勝とうとする。


 「ま、マタギなら高山であろうが、対処できようぞ!」

 「マタギは全ての山を登れるわけではないですよ?」

 「いや、登れないとは言えないであろうが!」

 「分かりました。」

 「分かったか!」

 「では、坂田様はマタギに鉄砲で地龍を退治させると?」

 「そうだ!」

 「本当にそうお思いで?」

 「鉄砲ならいくら地龍であろうと退治できるであろうが!」

 「鉄砲や刀など、地龍の鱗には蚊がさすほどの効果もないと思いますが。」

 「な!」

 「仮にも地龍は聖獣ですよ?」

 「・・・。」

 「もう一度、お伺いいたします。」

 「ぐ!・・。」

 「どうやって成敗するのですか?」

 

 坂田は押し黙った。

他の老中も初めて聞く地龍の怖ろしさに口を噤む。


 やがて堀田が口を開く。


 「地龍がいたらであろう? そんなお伽話のような話し、信じられるわけなかろう?」

 「信じられませぬか?」

 「ああ、そうじゃ。」


 そういうと堀田はしてやったりという顔をした。


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