祐紀・殿と老中への説得 1
佐伯に閻魔堂の話しをした翌朝、祐紀は滝行に向った。
滝の飛沫が来ない場所で白装束に着替える。
滝に一礼をし祈りを捧げた。
そしてゆっくりと滝壺に入り、轟音を響かせながら落ちる滝に身を投じた。
身を切るほどに水は冷たい。
水の勢いが強く押しつぶされそうだ。
滝の放つ轟音で耳が可笑しくなる。
祐紀は雑念を払った。
やがて無の境地に至り、水の冷たさは感じなくなる。
そして滝の勢いなど無いかのように体は微動だにしなくなる。
祐紀は今、静寂の中にいた。
幼きころより行っている滝行である。
ただ、今朝の滝行は何時もの滝行とは違う。
これから神にお伺いを立てようと思い、行っている禊ぎである。
そうは言っても、神は人の子に都合よく応えてくれるわけではない。
人は万物の一つだ。
神から見れば、人が足下の蟻を見るようなものだ。
一個人の願いが、神に届くなど希だ。
しかし、地龍の事は神様の許しと、ご加護が無ければどうしようもない。
民を救うための切実なる思いを何とか聞き届けてもらいたい一心である。
滝行を終えると、滝から出て着物を脱いだ場所まで移動した。
濡れた白装束を脱ぐ。
早朝の凜とした空気の中、ゆっくりと体を拭く。
滝から上がったというのに、まだ滝に打たれているように感じる。
耳にも滝に打たれていたときの轟音が残響しているかのようだ。
そんな余韻を残しながら体を拭き終え、服を着ると家に戻った。
家と言っても、居候している寺社奉行・佐伯の別宅である。
別宅で祐紀は狩衣に着替えると、縁のある神社に向った。
神社の宮司に神への祝詞を奏上したいと申し出る。
宮司は祐紀を快く神殿に迎え入れてくれた。
そして宮司は祐紀に気を利かせ、今、祐紀以外神殿には居ない。
祐紀は祝詞を奏上した後、只管に祈りを捧げる。
それは1刻ほど(2時間)も続いた。
そして、その神社を後にする。
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数日後、祐紀は佐伯とともに登城した。
案内の者が入り組んだ城中を連れ回す。
廊下の両側は部屋であったり、部屋と壁で外が見えず自分の居る位置が分からなくなる。
やがて、突然視界が開けた。
廊下の左側に広い庭園が現れた。
右は襖が開け放たれた大広間だった。
案内の者は此処です、と一言いうと踵を返して戻っていった。
広間には既に老中など重役が座って待っていた。
佐伯は老中に軽く挨拶をして、広間の末席に座る。
祐紀は廊下で平伏をし、名前を名乗る。
さすがの祐紀も錚々たる老中の面々に緊張した。
広間に入るように促され、姿勢を低くし畳の縁を踏まないようにゆっくりと入った。
横目で佐伯の顔を伺い、自分の座る場所を見定める。
佐伯が頷いたのを確認し、その場で平伏した。
やがて老中達が平伏する気配がした。
殿が入って来たようだ。
「一同の者、面を上げよ。」
殿の声に一同が面を上げた気配がした。
祐紀は面を上げてよいか迷い、平伏をしたままでいた。
「その方が祐紀か?」
殿から声がかかる。
「ははっ!」
「そうか、面を上げよ。」
平伏したままが正解だったようだ。
ホッとして、静々と面を上げた。
上段の間に殿が座っているのが見える。
ただ、離れているので顔色をうかがうことはできない。
老中の一人が、声を上げる。
「寺社奉行・佐伯よ、殿に本日の集まりの説明をせよ。」
「ははっ。」
佐伯は祐紀が大川の氾濫や、閻魔堂、地龍について話したことを要領よく述べた。
老中達は最初は静かに聞いていたが、地龍あたりでざわつく。
さらには陽の国の姫御子に来ていただくあたりでは目を見開いた。
そして、祐紀が《《陽の国》》に行くことを聞くと、思わず口に出す者もいた。
広間は騒然となった。
「皆の者、静まらんか。」
殿の声でピタリと静かになる。
殿は続けて話し始めた。
「寺社奉行の佐伯の言いたいことは、あい分かった。
さて、皆の者はこの件を何とする。」
殿の声に老中・土岐が最初に声を上げた。
「佐伯よ、姫御子様など呼べるのか?」
「御意、お話した通りでございます。」
「確実か?」
「御意。」
老中・坂田がその話しに割り込む。
「佐伯、祐紀を長期に陽の国に行かせるなど正気の沙汰とは思えん!」
「されど地龍の件がありますれば・」
「だまらっしゃい! 地龍など眉唾物だ!」
「恐れながら、御神託で御座いまする。」
「御神託なぞ、いかがわしいにも程がある!」
「・・・祐紀の御神託を信じないと?」
「当たり前だ!」
「では、今まで祐紀による御神託は嘘と?」
「ぐぅ! たまたま当たっただけではないのか!」
「たまたまでは、そう当たりませぬが?」
「う、ぬ・・。」
老中・堀田が坂田に援護をする。
「佐伯よ、では地龍がいたという証拠はあるのか?」
「・・・古文書にありまする。」
「ふん、古文書など信頼できるのか?」
「そ、それは・・。」
「確たる証拠もないのに、このような戯れ言を!」
「しかし・」
「黙れ! この痴れ者が!」
「う!」
このやり取りを聞いていた殿が、扇子で待てという所作をした。
それを見て堀田が押し黙る。
「祐紀よ。」
「ははっ!」
「地龍が居たということを証明できるか?」
「はい。」
「「「な!」」」」
祐紀の言葉に一同が息を飲んだ。
佐伯も同様だ。
祐紀は殿に頷きながら、横目で佐伯を押さえる。
佐伯が腰を浮かして、祐紀を止めようとしたからだ。
佐伯は、祐紀の横目を見て腰を落とす。
殿が呆れた顔をしながら祐紀に問いかけた。
「では、証明して見せよ。」
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参考)
老中や、奉行の名前について(今更ですが)。
よく時代劇では xxx守とかあります。
結構、諱、官職名とか色々あるようですね、武家には。
よく調べずに書くと墓穴を掘りそうなので、現代風にしました。
悪しからず。
また滝行には色々な作法があるようです。
この点については適当に書いております。
また、私は滝行はやったことがありません。
ですから想像で書いております。
リアリティがないと思います・・言い訳を先にしておきます。




