寺社奉行・佐伯 : 殿への説得 2
寺社奉行の佐伯は殿の右眉が少し上がるのを見ていた。
これは殿の癖だ。
なにか相手に違和感を感じたり、相手が真意を話していないと感じた時に出す。
「其方には何か対策があって進言しに参ったのであろう?」
殿の問いかけに、佐伯はやはり・・と、思った。
幼き頃より仕えただけに、お見通しのようだ。
さて・・、祐紀が陽の国へ行く許可をどう取るかだが・・。
佐伯が押し黙っているのを見て、殿はさらに言葉を重ねた。
「どうした?」
「・・・。」
佐伯は直ぐには答えず、一度深呼吸をする。
これから話すことは殿がおそらく激怒するだろう。
へたをすると蟄居(※1)かもしれな・・。
いや、蟄居ですめばよいが・・。
丹田(※2)に力を込め、覚悟を決めて佐伯は話し始めた。
「祐紀に閻魔堂が破壊されてもいいように結界を強化させます。」
「そんなことが、できるのか?」
「はい。」
「ならばそうせよ・・。」
殿は怪訝な顔をした。
祐紀ができるなら、儂になど報告する必要もない。
それなのに、態々儂との面会など求めてきたのだ。
訳が分からず、おもわず顔に出してしまった。
佐伯はそんな殿の顔を見つめながら、訳を話し始めた。
「一つ、問題があるのです。」
「なんじゃ?」
「祐紀一人では結界の強化はできないそうです。」
「?」
「霊能力者の協力が必要です。」
「霊能力者? ならば頼めばよかろう?」
「祐紀同等の霊能力者が必要とのことです。」
「なんじゃと!? そのような者などいないであろう!」
「いえ、居ります。」
「?」
殿は佐伯の言葉に呆然とした。
祐紀と同等以上の者など聞いたことはない。
多少の霊感のある者はおろうが、祐紀ほどの霊能力者がいるなどと聞いたことがない。
「そのような者がいるのか?」
「はい。」
「誰じゃ?」
「陽の国の姫御子様です。」
「バ! バカを申すでない!」
殿は激怒した。
無理もない。
姫御子は《《陽の国》》で崇められる最高位の霊能力者だ。
《《陽の国》》が自国と関係の無い事に、姫御子を寄越してくれるはずがない。
猫の子を貰うのとは訳が違う。
それに国賓として姫御子は祐紀の《《成人の義》》でお越し頂いたばかりだ。
立て続けに姫御子を呼ぶと誤解を招く。
姫御子を呼び寄せ、そのまま返さないのではないかと。
ましてや、今回の頼みは《《陽の国》》の利益にならないのだ。
もし我が国の求めに応じたとしたら見返りを求めるだろう。
それも我が国の足元を見て、無理難題な要求をしてくる可能性がある。
佐伯は殿の怒りに暫し沈黙をする。
殿に少し冷静になってもらうためだ。
やがて殿が怒りで握った拳が少し緩む。
それを見て佐伯は殿の説得を試みる。
「それでは殿にお尋ねします。」
「なんじゃ?!」
「祐紀のような霊能力者が他にいると思いますか?」
「!・・。」
佐伯の言葉に殿は押し黙った。
その様子を見て、再び佐伯は殿に聞く。
「もう一度お聞きします、他に霊能力者はいますか、殿?」
「・・・おらんじゃろうな・・。」
そう言うと殿は再び黙る。
佐伯は押し黙った殿を見つめていた。
しばらくの沈黙の後、殿が佐伯に確認を行う。
「結界は、本当に祐紀一人ではできぬのか?」
「はい。」
「・・・なんとかならんのか?」
「なりませぬ。」
「・・・。」
「それでは殿、結界を諦めますか?」
「・・・。」
「ご決断を。」
「結界の強化以外、方法はないのか?!」
「ありませぬ。」
「う、ぬ・・。」
殿は再び押し黙ると、腕を組み目を瞑ってしまった。
佐伯は殿の様子を伺うしかなかった。
重苦しい沈黙が続く。
佐伯の背中に冷や汗が流れる。
ひたすらに殿の言葉を待った。
しかし、いつまで待っても殿は姿勢を崩さず沈黙していた。
佐伯は覚悟を決めて殿に声をかけた。
「殿、《《陽の国》》の姫御子様をお呼び致しましょう。」
「《《陽の国》》が了承するわけがないであろう。
仮に了承する事があっても、法外な見返りを要求されるであろう。」
「見返り要求なしに、依頼ができるとしたら?」
「何?!」
「もし、できるとしたら如何いたしますか?」
殿は目を見開き固まる。
しかし、直ぐに冷静になり佐伯を見つめた。
佐伯も目は反らさずに殿を見る。
そして殿は、やれやれと首を横にふり、佐伯に語りかける。
「もし、そうできたとして《《陽の国》》が依頼を受けるかは別物であろう?」
「いえ、姫御子様は依頼を受けます。」
「なに?!」
「《《陽の国》》は依頼に乗ってきます。」
殿は佐伯の言葉に思わず息をのんだ。
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参考) 簡略して記載しております。参考程度にして下さい。
※1 : 蟄居 ちっきょ
刑罰の一つ。
家の中に閉じ込める刑。
※2 : 丹田 たんでん
おへその下、3cm位の場所にある気に関連する場所。
武芸などで気合いや、勝負を決める時、または座禅などで意識する場所。




