寺社奉行・佐伯 : 殿への説得 1
寺社奉行の佐伯は、密かに城中で殿に面会を求めた。
通常、奉行では殿と二人での面会などはできない。
佐伯だからできたことである。
《《秘密の間》》で殿と佐伯は向かいあっていた。
「久しぶりじゃのう。」
「はい、殿におかれましては・。」
「ええい、形式張った挨拶などいらんわ。」
「御意・・。」
殿は佐伯が家臣としての礼を取ろうとしたのを遮った。
このやりとりは恒例とも言える。
幼少期、佐伯は殿の遊び相手兼、学友としてお側に仕えていた。
そのため、殿は二人きりのときは、友として接しようとするのだった。
「で、今回は如何致した?」
「殿は祐紀なるものを知っておいででしょうか?」
「ああ、知っておる。
彼奴の養子であろう?」
「はい、その通りで御座います。」
殿は祐紀の話しを聞いて、祐紀の養父のことを思い出していた。
目尻が下がり、懐かしそうな顔をする。
祐紀の養父とは佐伯を介して知り合った間柄である。
「彼奴は健在か?」
「はい。宮司を真面目に務めているようです。」
「そうか・・、懐かしいよのう・・。」
「そうですな・・、若かりし頃は殿とよく悪さをしておりましたな。」
「ふふふふふ、そうじゃな・・。」
しばし殿と佐伯は遠い目をして頬を緩めた。
「殿は祐紀について何かお聞きですか?」
「ふむ・・。
祐紀は確か優れた霊能力者だったと聞いておる。
自然災害から民を救ったということもな。」
「そうですか、お耳に入っておりましたか。」
「うむ。」
「ところで、殿は御神託を信頼なさいますか?」
「信頼?」
「はい。」
殿はしばし佐伯と目を合わせた。
「信頼はしておらん。」
「・・・。」
「ただし、祐紀の御神託ならば個人として信頼をしておる。」
佐伯は苦笑いをした。
いかにも殿らしい回答だ。
「何を苦笑いをしておる?」
「いえ、余りにも予想通りのお言葉ですので。」
「ふん! 仕方あるまい、立場というものがある。」
「分かっておりまする。」
「で、なんぞ祐紀の御神託で儂に用事か?」
「御意。」
「申してみよ。」
「大川が氾濫をするそうです。」
「・・・ほう・・?」
「単なる氾濫だけでは済まないようです。」
「どういう意味じゃ?」
「殿は古文書が好きでしたね?」
「ああ・・今は古文書など読む時間もないがな・・。」
「そうですか、真面目に政務に励んでいるようですな。」
「ふん、早く引退し楽隠居を目指しておるわ」
「無理でしょうね、当面は寝る間も惜しんで働いて頂きましょう。」
「ひどい家臣だな、お前は。」
「おや、家臣を牛馬の如くこき使う殿のいうことですかね?」
「ほう? 俸禄(※1)を頂いておいて働かない家臣などいらんわ。」
「まあ、確かに・・、これは、やられましたな。」
「ふふふふ、降参か?」
「御意。」
「で、古文書がどうした?」
「閻魔堂の伝説をご存じでございましょうか?」
「?」
「地龍といえば分かりますか?」
「ああ、あの伝説か。」
「それが伝説ではないようです。」
「!」
殿はその言葉に目を見開き、食い入るように佐伯を見た。
「祐紀によると大川が氾濫をし、閻魔堂が流されるようです。」
「閻魔堂がか?」
「御意。」
「閻魔堂が流されると、地龍が現れるのか?」
「そのように祐紀が申しております。」
「あの、災いの地龍が・・現れる・・のか・・。」
殿は呆然とした。
しかし、すぐに冷静に戻る。
為政者のなせる業とでも言うべきであろうか?
「本当に、祐紀が、そのような御神託を授かったのか?」
「御意。」
「で、御神託ではどうせよと?」
「祐紀によると神はこれから起こることを告げるだけだそうです。」
「?」
「お告げを聞いて、どうするかは人しだいだそうです。」
「そういうものなのか、御神託とは・・。」
「はい、そのようです。」
「・・・。」
「いかがなされますか、殿?」
佐伯はあえて自分の考えを言わず、殿の意見を求めた。
不敬といえば不敬になるが、これから話すことを考えれば殿の考えも知っておきたい。
「閻魔堂の移転は可能か?」
「無理でございましょうな。」
「何故だ?」
「閻魔堂は地龍を閉じ込める結界だそうです。」
「?」
「要は閻魔堂があの位置にあることが重要なのです。」
「そういうことか・・。」
「はい。」
「ならば大川の護岸工事しかあるまいが・・。
人が川を制御するなど限度がある。
費用の捻出も難しい。
民も御神託だからと税を使うのは許さないであろう・・。」
「はい、その通りかと。」
「・・・。」
殿は佐伯をジッと見つめた。
佐伯は有能な男だ。
儂に報告をする時は、必ず何らかの解決策を携えてくる。
なのに今回の報告は、やけに回りくどい。
此奴、何を考えておる?
そう殿は考えて右眉を少し上げた。
「其方には何か対策があって進言しに参ったのであろう?」
「・・・。」
「どうした?」
殿の問いかけに佐伯はだまったままだった。
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参考) 簡略して記載しております。参考程度にして下さい。
※1 : 俸禄 ほうろく
給料のこと。




