祐紀の目覚め
祐紀は眩しさを感じ、目を覚ました。
「ここは・・。」
「お目覚めでございますか!!」
「え? ええ・・。」
「よかった・・、本当に・・。」
祐紀はボ~っとする頭で、いったいお紺さんは何を言っているんだろうと思った。
そう思いながら、なんでお紺さんは私の枕元にいるんだろうと・・。
次の瞬間、ガバリと祐紀は上半身を起こした。
「あ、ダメです! 寝ていて下さいまし!」
お紺が悲痛な叫びを上げる。
そしてお紺は祐紀の側に寄ると、祐紀の方を押さえゆっくりと寝かせる。
祐紀はお紺の慌てた様子と、真剣な眼差しにお紺のするがままに再び床につく。
「私はいったい・・。」
「覚えていないのですか?」
「え? ええ・・。」
「祐紀様は2日前に朝餉の最中に倒れられたのです・・。」
「え!」
「覚えておりませぬか?」
「え? あ、はい・・。」
「そうですか・・。」
「・・・。」
「すみませぬが、そのまま寝ていて下さいますか?」
お紺の顔をみると真剣な眼差しで祐紀を見つめている。
祐紀は仕方なく、素直に頷いた。
「私は少し席を外します。」
「はい。」
「あ、その前に白湯を飲んで下さいませ。」
「あ、ああ・・。」
お紺は近くの火鉢にかけてあった薬缶のお湯と、急須の水を湯飲みに注いだ。
「お医者様から、目覚めたら白湯を飲ませるように言われておりますので。」
「うん、わかった頂くよ。」
そういうと祐紀は上半身を起こし、お紺から湯飲みを受け取る。
湯飲みは暖かく手の挙からじんわりと熱が伝わってくる。
その暖かさで何故か心が落ち着く。
ゆっくりと湯飲みに口をつけ、一口飲んだ。
その様子を見てからお紺は立ち上がり席を外す。
「いったい俺はなんで倒れたんだ?」
ぼ~っとする頭をゆっくりと左右に振り、意識をはっきりさせようとした。
だが、思い出せない。
しばらくすると廊下から足音が聞こえてきた。
慌ただしく襖があけられ医者らしき人物が入ってきた。
「目を覚まされましたか!」
声がでかい。
おもわず湯飲みを落としそうになった。
「おっと、これはすまぬ。
地声なので気にするな。」
そう医者は言うが、大声で話しかけられるとクラクラする。
「脈を拝見する。」
そういうと有無を言わさず湯飲みを乱暴に取り上げられた。
すぐさま脈を測り出す。
「うん、うん、脈は大丈夫そうだ。 では目を見させてもらう。」
そういうのと同時に、顔を引っ張られた。
「そのままで。」
そう言うと、目をこじ開けられた。
脂ぎった医者の顔がグッと近づく。
タバコ臭い。
思わず顔を顰めた。
医者はそんな様子にはまったく動じない。
「うむ、問題なさそうじゃ、わしゃ、帰る。」
そういうと医者は立ち上がり、襖も閉めずに帰ってしまった。
お紺はそんな医者の様子にさも当然という感じで、そっと襖を閉める。
「腕はよい医者なのですが、偏屈なのです。」
「はぁ・・わかります。」
「ふふふふふ、でも、ようございました、意識が戻り・・。」
そういうとお紺は袖でそっと涙を拭った。
祐紀はお紺が泣いているのに、それで気がついた。
だいぶ心配をかけたようだ。
「すみません、心配をおかけして。」
「いえ・・、女中ですから気になさらずに。」
「いや、私は貴方を姉のように思っております。」
「まぁ!」
「私の事を親身にして下さる貴方を見て、姉がいたらこうなのだろうかと思いました。」
「もったいないお言葉です。」
「いえ、私は女中だとか、そのように接した覚えはないのですが・・。」
「はい、それは感じておりますが、私は自分の身分を弁えております。」
「あ! すみません。」
「いえ、謝ることではありません、ですが、有り難うございます。」
祐紀はうれしくもあり、恥ずかしくもあり、医者に取り上げられた湯飲みを再び取った。
その様子を見たお紺は・・
「祐紀様、食事は取られますか?」
「あ・・、そういえばお腹が空いております。」
「わかりました。医者からお粥を出すように言われております。」
「お粥ですか? 《《おにぎり》》が食べたいんだけど?」
「だめです。」
「だめですか?」
「はい。」
「厳しい姉ですね。」
「ふふふふふ、姉とはそういう者ですよ。」
「分かりました。でも、できればこれからも優しい姉でいて下さい。」
「はい、女中として誠心誠意、お世話をさせていただきます。」
そういってお紺は笑った。
つられて祐紀も笑う。
お紺は、祐紀の様子から大丈夫だと確認ができたのだろう。
祐紀が目覚めたときに比べ、だいぶ落ち着いて、いつものお紺に戻っていた。
「それではお食事の用意をしてまいります。」
「はい、お願いします。」
「ただし、寝ていて下さいまし。」
「はい!」
「よいご返事です。」
そういうとお紺は部屋を出て行った。




