姫御子の動揺 : 神官さえも・・
姫御子は養父に冷静になれ、という言葉を真摯に受け止めた。
落ち着こうとして、目を瞑り自分の呼吸に意識を集中した。
そして直ぐに呼吸は整い、冷静さをとりもどした。
その様子を養父は見守る。
姫御子は巫女の代弁者でもあり、統括者でもあるのだ。
巫女に謂われの無い罪をかぶせ多数の巫女を処分をしたと聞いて冷静でいろというのは無理なことだ。
だが、姫御子はどのような状況でも冷静でなければならない。
感情というのは恐ろしい。
神からの御神託は曖昧な言葉でくだされることがある。
そのため御神託の解釈は感情に左右される危険があるのだ。
もし狡猾な人間が感情を揺さぶり、自分の都合のよい方向に煽動したら大変なことになる。
それが権力者なら、神をも畏れず自分の栄華に姫御子を利用するだろう。
姫御子の言葉は為政者さえ動かす程に大きいのだ。
姫御子の行動が感情的でないか誰かが側で判断しなければ危険である。
また、姫御子が洗脳されたり、思想を持ってしまった場合は、姫御子を罷免する必要がある。
では、そのような絶対的な信用と信念があり、姫御子を諭すのは誰か?
それを行うのが最高司祭だ。
だから、最高司祭でもある養父は、姫御子をいつも冷静に見守る。
養父だからなどという感情は、娘が姫御子となった時に捨てている。
今までも姫御子は色々な事を経験し、その都度、最高司祭として検証してきた。
そして、今回は、今までと比べるまでもない検証をするのによい機会となったのだ。
そして、最高司祭である養父は、娘が姫御子でいて問題ないと判断をした。
理由は、一時的に感情を爆発させたが、冷静になるのが早いことだ。
この歳としては考えられないくらいに。
おそらく、もうすこし経験をつめば動揺などしなくなるだろう。
それに姫御子としての自分の立場に充分に理解していることもある。
そう結論づけて最高司祭である養父は安心した。
安心すると、すこしだけ姫御子を労ることにする。
「儂は緋の国の先代皇帝がしたことで、天罰は下されることは無いと言った。」
「はい。」
「ただし、神をないがしろにする行為があった場合、神は人を見放す。」
「・・・もしかして見放されたのですか?」
「まあ、それは後で話す。」
その言葉を聞いて、姫御子は養父の言わんとしたことがわかった。
そうだ、確かに緋の国の先代皇帝に天罰はくだることはない。
しかし、神から見放されるというのは大変なことだ。言い換えると天罰より悪い。
そう考えれば、私の気が少しは晴れるだろうと、養父は気を遣ってくれたのだ。
「父上、ありがとうございます。」
「はて、何のことかな?」
そう言って養父は惚けた。
「話しを続けようと思うが、よいか?」
「はい。」
「緋の国では、巫女の処分により緋の国の内乱は収まった。」
「・・・収まったのですか?」
「反乱をけしかけた偽巫女全てが裁かれ排除されたのだ。
煽動者がいなくなれば、内乱が収まるのは道理だ。
民は弱い。煽動者なしに反乱は起きないのだ。」
「・・そういうものですか?」
「そうだ、そういう意味でいうと先代皇帝は優れた為政者と言えよう。」
「・・・。」
「だが、巫女がいなくなり御神託を受ける者がいなくなった。」
「・・・そうなるのは分かります。でも・・。」
「まあ、よい、もう少し聞きなさい。」
「・・はい。」
「御神託が無くなり自然災害が回避できなくなり、緋の国は少しずつ疲弊した。」
「・・はい。それは想像できます。」
「すると民から御神託が受けられなくなったためだという声が出てきた。」
「・・・的を射た意見が出てきたのですね。」
「だが、皇帝はむしろ、この自然災害を逆手に取った。」
「え?」
「神が偽巫女の御神託に怒り災害をもたらしたとお触れをだしたのだ。」
「え!」
「民衆もそれを信じてしまった。」
「そんな! 信じられません・・。」
「いや、これは真実だ。」
「そんな・・。」
姫御子は唖然とした。
しかし直ぐに可笑しいことに気がつく。
一度や、二度なら、皇帝の言い訳は通用するかもしれない。
でも・・。
「偽巫女がいなくなって自然災害が度々おこれば、偽巫女だけのせいだけではおかしいと、民が騒ぐのではないですか?」
「それも皇帝は逆手にとったのだ。」
「?」
「民が皇帝を批判することに天が怒ったとお触れを出し、騒いだものを処罰した。」
「え!・・。」
「それで民は口を噤んでしまった。」
「・・・。」
「自然災害で騒げば、騒いだ者に神が怒っているとし、処分されるからだ。」
「なんて、なんて酷い国なんですか!」
「国には色々な国があるのだ、そう思いなさい。」
「・・・。」
「それから緋の国の神官についても教えておく。」
「はい、それを気に掛けていたのです・・。」
「うむ。 神官の中には霊能力者が希に居る。」
「はい、ですから神官は巫女ほどではないにしろ、御神託は受け・」
「いや、緋の国では、そうならなかった。」
「え?」
「緋の国には御神託をうける神官がいないのだ。」
「え?・・そんな・・。」
「古より緋の国にはまともな霊能力の神官はいないのだ。不思議なことに。」
「まともな霊能者?」
「うむ、御神託はかろうじて受けることはできるが、その意味の解釈ができぬ。」
「・・・御神託はうけられるが、その意味がわからない?」
「そうじゃ。」
「え? では自然災害から救えない神官しかいないと?」
「希にであるが御神託をきちんと民に伝え、自然災害から救えたこともある。」
「希?」
「そうだ、まぐれだ。御神託の意味を《《当てずっぽう》》で当てたのだろう。」
「それでも、巫女がいなくなっても多少は自然災害は防げたんですね。」
「いや、先代皇帝が巫女をすべて処分してから、神官に御神託が授からなくなった。」
「え!」
「神殿では神の怒りだと考え、皇帝には内密にし真摯に御神託が授かるよう神々に祈った。」
「もしかして・・、それでも御神託はさずからなかった?」
「そうだ。」
「・・・それは、神罰なのでしょうか?」
「わからん。たぶん巫女を処分したことで神が緋の国を見放したと思えるだけだ。」
「神官は、神様から御神託が授からない訳を神様に聞かなかったのですか?」
「神の声は御神託でしか聞けぬ。」
「あ!・・・、そうでした・・。」
姫御子はため息をついた。
緋の国は、皇帝の短慮により巫女を失い、神官の能力さえ失ったのだ。
非道な事をした国とはいえ、民に御神託がおりない事に同情した。




