姫御子の動揺 : 緋の国に巫女はいない?
養父が無言のまま時間が過ぎた。
そしてやっと養父は目を開くと姫御子を見つめた。
姫御子が質問をするよりも早く、養父は話し始める。
「其方に緋の国について、話しておこうと思う。」
「え?」
「祐紀殿が、こちらに来られたら緋の国が動くだろう。」
「?」
「理由は追々話すが、その前に緋の国について話しておく。」
「はい。」
「このことは他言してはならぬ。よいな?」
「はい。」
そういうと養父は一つ深呼吸をした。
「まず、緋の国に霊能力者はおらん。」
「え?」
「あの国の先代の皇帝が、御神託を授かる者を根絶やしにしてしまったのだ。」
「え! そんな・・、何故にそのようなことを!」
「先代の皇帝の時代、民は圧政に苦しんでいた。」
「圧政に・・ですか?」
「うむ。民はかなり困窮していたようだ。」
「・・・」
「そんな時は、何時の世も偽巫女が現れるものだ。」
「え?」
「住みにくい世の中だと感じれば、神に頼みたくもなる。無理からぬ事なのだ。」
「そう・・なのですか・・。」
「偽巫女は、人々の願望を御神託として告げてお金を貰う。」
「・・・。」
「決して褒められたことではないが、それにより民の中には救われる者がおるのも事実だ。」
「・・・」
「そして偽巫女が金になると分かると、偽巫女が彼方此方に現れるようになる。」
「・・・」
「そんな時、人々が偽巫女の話しを聞きたがる事に、皇帝の反乱分子が目を付けたのだ。」
「?」
「圧政に苦しんでいる民に、反乱を御神託だと言ってそそのかした。」
「そんな・・、そんなことを・・。」
「皇帝も馬鹿ではない、偽巫女の反乱の先導に気がついた。」
「・・それで、どうされたのですか?」
「反乱をそそのかす偽巫女を捕まえようとしたが、偽巫女が多すぎて特定できなかった。」
「・・・」
「お金を反乱分子から貰って呷る巫女は少なかったらしい。」
「え? 少なかった?」
「しばらくすると、お金を反乱分子から貰わなくても反乱を呷る巫女が現れたらしい。」
「え?・・。」
「反乱を呷る御神託を言うと、喜ぶ民が多く、場合によりご祝儀をはずんだようだ。」
「・・・。」
「まあ、圧政に苦しんでいた民のささやかな意思なのだろう。」
「・・・。」
「反乱を呷る巫女を特定できない皇帝は思いついたようだ。」
「・・・何をですか?」
「巫女を全員処分してしまえばいいと。」
「そんな・・、そんな事は民が許さないでしょ?」
「いや、皇帝は民に偽巫女である証拠を見せてから処分をしたようだ。」
「え? では偽でない巫女は助かったと?」
「いや、皇帝にとっては偽であろうがなかろうがどうでも良かった。」
「そ、そんな・・。」
「証拠がなければでっち上げた。」
「!?」
「皇帝は、自分の地位が危なくなったのだ。
巫女など生かしておいて、同じような事がまた起こることを懸念したのだろう。」
「なんて罰当たりな考えを!」
姫御子はあまりにも自分勝手な考えをした皇帝に憤った。
巫女は神に仕えるため我を捨て、真摯に神と向き会う。
そして苦行ともいえる修行を重ねる。
それもひとえに、人々を思う神の言葉を伝えるためだ。
そのような巫女をなんだと思っているのだ。
怒りで握りしめた拳が震える。
姫御子の感情をあらわにした様子と言葉に、養父の顔が厳しくなる。
姫御子は感情的であってはならないからだ。
巫女の頂点に立つものが、感情に左右されてはならない。
養父は、姫御子の目をしっかりと見据え、声を発した。
姫御子の揺れる感情を抑えつける重みのある声だ。
「落ち着きなさい!」
「あ・・・。」
姫御子は養父の言葉に、はっとする。
我に返り、高ぶった感情を抑えようとした。
したのだが・・。
あまりの話しで感情が揺れ動き、感情を抑えきれない。
そんな姫御子を見ながら、養父は姫御子の言葉尻を捕らえた。
「其方は先代の皇帝に神から罰が当たるような事を口ずさんだ。」
「え?・・、あ!」
「知っているはずであろう、神は人間同士の争いなど興味はない。」
「・・・はい。」
「皇帝が何をしようが、神からみると人との争いだ。」
「・・はい。」
「神はそのようなことに天罰を与えん。」
「・・分かっております。 でも・・。」
「言いたいことはわかる。」
「・・・。」
「よいか、自分でも気がつかないほど、其方は感情的になっておる。」
「・・・。」
「自分の感情に流されるな、姫御子よ。」




