寺社奉行に庄屋の件を話す。
祐紀は寺社奉行・佐伯に庄屋の件を話し始めた。
「私はこの庄屋が気になり、青木村やその周辺の村人、行商人など行き交う人々に庄屋について聞いてみました。」
「ふむ。」
「どうやら最近庄屋になったばかりのようです。」
「息子へ家督が譲られたか?」
「いえ、違います。」
「・・・では、親族が急遽なったか?」
「親族はいないそうです。」
「?!」
「元の庄屋一家は強盗にあい全員亡くなりました。
そして親族はいません。」
「では、誰が継いだのだ?」
「後を継いだのは、その庄屋にお世話になった者だと自称してます。」
「お世話になった?」
「はい、庄屋とは赤の他人、それも村人ではないということです。」
「どういうことだ? なぜ村人から庄屋を選ばなんだ。」
「村人の中に庄屋を勤められるような者がいなかったとか。
お役人も庄屋がいないことで頭を抱えていたようです。」
「・・・」
「そんな時に、件の行商人が村に現れたようです。」
「・・・」
「その者は村の窮状を見て、餓死しそうな人に米を無料で与え、病人には代金を立て替えて医者に診せたそうです。
それも無利子で。」
「なぜにその男はそんな奇特なことをする?」
「さきほど述べたように庄屋にお世話になったから、その恩返しだと。」
「恩返しのう、そうだとしたら人徳があり義理堅い男なのか?」
「さて・・人徳や義理堅いかは、私には分かりません。」
「そうか・・、いずれにせよ村人は感謝しておろうのう・・。」
「ええ、そのようです。」
「そうなると、村人はその男を崇めるであろうな。」
「はい。村人にとっては命の恩人ですから。」
「なるほどのう・・。」
「村人が庄屋にと懇願するのも無理からぬことです。」
「そして役人にとっても渡りに舟か・・。」
「はい、たぶんそうかと。」
「まあ、話しを聞く限り問題なさそうじゃが?」
「そうでしょうか?」
「?」
「その者は、村人全てに何らかの援助をし、そして貸した金子の取り立てをしていません。」
「全員に?」
「はい。」
「それは恩返しにしても、普通できることではないのう・・。」
「ええ、たぶんそうしないと村人から不平不満が出るからではないでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「自分が円満に庄屋になるためには、村人から不満が出ないようにしたかったのではないでしょうか?」
「なるほどのう、庄屋になるために、か・・。」
「はい。」
「しかし、その考えは物の見方の一つじゃが?」
「ええ、ただ、そうとしか思えないのです。」
「なぜじゃ?」
「では、村人に与えた金子、どうやって手に入れたのでしょうか?」
「行商で貯めたのではないか?」
「商売人が苦労して貯めた金子を、恩返しだと湯水のように使いますか?」
「・・・ふむ。」
「仮にそうだとしてですが、商売人であったものは何らかの見返りを求めませんか?」
「それは庄屋になれば、なんらかの見返りはあるであろう?」
「疲弊し、その日に食べるものも苦労している寒村ですよ?」
「む・・、そうであったな、見返りは当てにならんか・・。」
「そして、おそらく行商で蓄えた程度なら、もう金子は無いでしょう。
それなのに平気なようです。」
「・・成るほど、怪しいな。」
「それに私は庄屋が現れたのが不自然に思われます。」
「?」
「庄屋一家が殺されてから、間を置かず尋ねてきたようなのです。」
「・・・ふむ。」
「まるで殺されたのを待ってから、来たようにも・・。」
「・・・」
「もしかしたら庄屋を・・。これは想像にすぎず違っていて欲しいのですが・・。」
「調べてみる価値はあるかもしれぬな。」
「そして庄屋になる目的なのですが・・。」
「うむ。」
「青木村にある湖の水は、この都の井戸に引き込まれていますよね?」
「おお! そうであった・・、まさか・・。」
「これは私の杞憂かもしれません。」
「う・・ぬ・・。」
「それと、この庄屋へは殿が狩りをしたとき等に立ち寄ると聞きました。」
「うむ。青木村はちょうど休むのに良い位置にあるからのう。」
「もし、殿やこの国の重臣を狙うとしたら?」
「どういう意味だ?」
「あの峠道の中腹にある岩場から、庄屋の家まで差ほどかかりません。
それに岩場の洞窟に20人位隠れたとしたら、その者全てが刺客になれます。」
「なるほどのう・・。そういう見方もあるか。」
佐伯はそう答えながら、祐紀の有能さに感心していた。
峠道でマタギを怪しいと思う観察力、後を付ける行動力、追跡しながら相手に見つからないようにする注意力、そして見たことから物事を多角的に考える能力。
どれも優れている。
佐伯は、祐紀のような人材が欲しいと思った。




