寺社奉行にマタギの件を話しをする。
祐紀は道中で会ったマタギ(※1)や庄屋(※2)のことを寺社奉行に話すことにした。
「佐伯様、この都にくる途中の峠道で不審なマタギを見ました。」
「不審なマタギ?」
「ええ、峠道からすこし離れた山道を歩いておりました。」
「ふむ。」
「人の通る道からさほど離れていない場所から、山の中腹に向っていました。」
「別に不思議ではあるまい。」
「そのマタギ、足下を見ず、木も見ず、ただ山の中腹を目指していました。」
「・・・」
「後をつけると山の中腹の林が途切れた岩場で、他の者と合流しました。」
「・・・誰とじゃ?」
「マタギ姿の者、行商人姿の者、そして庄屋姿の者との合流です。」
「それは興味ぶかいな・・。」
「ええ。」
「彼らは、用心深く、周りに誰かいないか何度も確認をしています。」
「ふむ、よく気がつかれなかったものよのう?」
「ええ、私はかなり離れた場所から見ておりました。
それも林の中から出ず木に隠れていましたので。」
「ほう・・。」
佐伯は意外な祐紀の行動と判断力に感心していた。
御神託を受ける神社の継嗣として育っているにしては、なぜそのような事ができたのかとも思う。
まあ、あの養父の息子だ。
頭の回転と、行動力は似ているのかもしれないと思った。
「その岩場には、おそらく洞窟があります。」
「ふむ・・。」
「調べてみないとわかりませんが、結構広い洞窟の可能性があります。」
「・・・その洞窟が気になるのか?」
「ええ、そこに20人位が隠れ住めたらどうします?」
「・・・」
「その者達が、この国を攪乱するかもしれません。」
「ふむ、確かに洞窟の調査は必要となるな。」
「まあ、これは推測に過ぎません。 その洞窟を見ないことには・・。」
「・・・かといって近づくと気がつかれるか・・。」
「はい。 ですから遠くから観察する必要があります。」
「なるほど、もっともだ。」
「で、他には?」
「行商人は、この都に向ったようです。
後はつけませんでしたので、詳細はわかりません。」
「そうか・・。 間者(※3)であるかもしれんな・・。」
「庄屋姿の男なのですが・・・。」
「ふむ?」
「鳩を放ちました。」
「鳩?」
「ええ、あの峠のある山脈は緋の国に隣接しております。
緋の国から地形的に、こちらに侵攻はできません。
ですが、鳩で連絡をするには距離的に最も近い場所になります。
鳩が向った方角は、緋の国です。」
「そうか・・、うむ、鳩で連絡か、有り得るな・・。」
「佐伯様、鳩で緋の国との連絡で思い当たることでも?」
「うむ・・、そうだな、其方には話してもよかろう。」
「?」
「我が国は緋の国と、国境での小競り合いが絶えない。」
「はい。」
「緋の国と我が国の農民の水を巡る争いや、難民、盗賊の流入による。」
「・・・」
「奉行所だけでは対応できず、軍の一部が、かり出されて居る。」
「・・・」
「儂等はな、緋の国が我が国を探っての陽動ではないかと疑っておる。」
「それは、軍がどう動くかとか、軍への情報伝達、軍の機動性などを見るためですか?」
「ほう・・、其方、なかなかの切れ者のようだな。」
「あ、いえ、そんなことはありません。私は神に仕える者です。」
「ふふふふふふ、謙遜か?」
「いえ、そのような・・。」
「それと、緋の国からの間者の報告もある。」
「・・・」
「兵糧を集めている気配がある。」
「戦争に備えて、ですか?」
「うむ。 ただ今すぐに戦争という訳ではなかろう・・。」
「そうですか・・。」
佐伯は、祐紀とここまで話してから、ぽつりと独り言のように小さな声でささやいた。
「しかし、其方を宮司にするのは惜しいよのう・・。」
「?」
祐紀は佐伯の言葉が聞き取れず、頭を傾げる。
「いや、独り言だ、まだ、何かあるか?」
「庄屋ですが、青木村の庄屋でした。」
「ほう、よく突き止めたのう。」
「ええ、まあ、それは簡単でした。」
「・・・」
簡単?
間者でも、役人でもない神職になろうとしている祐紀が、峠で見かけた庄屋を何処の者か簡単につきとめた・・。
佐伯は今までの会話を含め、改めて自分の手元に置きたいという衝動に駆られる。
自分が祐紀を育てたら、どのような大物になるのだろうかと思ってしまう。
しかし、あの宮司は絶対に許さないであろう。
そう考えると残念でならない。
あらためて祐紀をまじまじと見つめた。
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※1 : マタギ
山で猟をする狩人。
※2 : 庄屋
名主ともいう(関西、関東で違う?)
村の代表。
※3 : 間者
忍者。スパイ。




