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解脱への道 その7

 姫御子(ひめみこ)は膝に乗せた両手をきつく握り、声を絞り出した。


 「何故、私は姫御子(ひめみこ)になる運命を背負い生まれて来たのでしょうか?」


 裕紀(ゆうき)は何も言えずただ(うつむ)いた。

二人の間に沈黙が流れる。


 姫御子は目に涙をため、声を絞り出す。


 「わ、私は・・いつかは他の男性と・」


 姫御子が嗚咽にまみれ話しを続けようとするのを裕紀は(さえぎ)った。


 「姫御子様! 言わないで下さい!

貴方様と他の男性との事など私は考えたくはない!」


 「わ、私も貴方様が他の方となど考えたくも有りません!」

 「ならば・」


 「ですが・・、わ、私は姫御子です。

この国のため、いつかは誰かと子をもうけねばなりませぬ!

・・・他の男性に抱かれた私を、貴方様は・・(きら)いになりますか・・・。」


 その言葉に裕紀は目を見開いた。

しばらく間を置き、裕紀は力なく姫御子に言う。


 「それを私に聞きますか・・。」

 「・・・すみませぬ。」


 姫御子が話した事は、確実に起こりうる残酷な未来の話しだ。

考えたくはないが、どうしようもない未来である。

裕紀は深呼吸を一つした。


 「貴方様が、他の男に身をゆだねることなど想像したくもない。」

 「わ、私もです・・。」


 裕紀は寂しげな笑みを浮かべ答えた。


 「・・・正直に言いましょう・・。

考えたくもない事ですが、いつかは貴方は誰かのお子をもうけます。

それは宿命です。

避けて通れない宿命なのです。」


 そういって裕紀は膝に乗せた両手をきつく握りしめた。


 「それを考えると、私はこの身が切り刻まれるようだ。

気が狂いそうだ。

今すぐ貴方様を奪い去り、どこかに逃げ去りたい!」


 「・・・裕紀様・・。」


 「ですが、できませぬ。

受け入れるしかない運命です。

ですが、私はそのような運命を呪いたい!」


 「・・・私も・・です。」


 「ただ思うのです。人とは紅葉(こうよう)の時に川に落ちた紅葉(もみじ)のようなものだと。」


 「?」


 「流された紅葉(もみじ)は、あるときは他の紅葉と合わさり、そしてまた離れていく。

そしてまた別の紅葉と合わさります。

その後、そのまま一緒に流れていくこともあるし、また離れます。」


 「・・・。」


 「また、ある紅葉は流されていく途中、川の淀みにはまりそこから逃れられなくなります。

またある紅葉は、流れの強さに負け川底に沈み込み二度と上がってこないものもあります。」


 「あの・・、それは・・何を?・・。」


 「川が神で運命をつかさどり、紅葉はそれに翻弄される人と考えたらどうでしょうか?

そしてどう紅葉が翻弄されようと、紅葉はやがて朽ち果てます。

土に帰り川の生物の良き住処を形成したり、さらに分解され滋養のある水となりやがて海の生物を育てます。」


 「・・・。」


 「ならば、紅葉である時にどのように翻弄され、どう思おうが、結局は次の次元に向かうための変転に過ぎないのではないでしょうか?」


 「変転・・ですか?」

 「はい。」


 「私の恋など無意味だと仰るのですか?」


 「そうではありません。それは私と貴方が生きた(あかし)です。

どう生きたかという思いなのです。

ですが、それに執着しては(つら)いだけです。

その日を精一杯生きたなら、その後はどんな運命であっても悔いることはありません。

執着こそがいけない事なのではないでしょうか?」


 「・・・。」


 「とはいえ、私も執着を捨てるなど簡単にできません。

ですが貴方様を愛したことは真実であり、ただ寄り添えなかっただけです。

貴方様を愛したその思いだけで、私は幸せに暮らせます。」


 「・・・。」


 その時、最高司祭が裕紀に聞いてきた。


 「裕紀様、貴方様は姫御子様意外の別の人と結婚をするでしょう。

その相手に対し、貴方は不誠実という事になりませんか?

好きな人がいるのに結婚をする。

相手に対し失礼ではないですか?

それにもし姫御子様を思うなら、独身を通すべきではないですか?」


 「そうですね、そうかもしれません。」

 「・・・。」


 「ですが私も神社の跡継ぎです。子をなさないわけにはいかないのです。」

 「確かに・・そうですね。」

 「ただ、これは言い訳けにしか聞こえないかもしれませんが・・。」

 「?」


 「人には性欲というものがあります。私も男です。

そして人は弱いものだと思うのです。

姫御子様に会えない時間が、自分をどう変えるかはわかりません。

他の女性が私に好意をもち、私がその方に好意を持ったならと思うと・・。」


 「弱いことを言い訳に、姫御子様を忘れると?」


 「忘れることなどできる訳が無い!

ですがそうなったら姫御子様を慕いながらも、その女性を愛するのでは、と。

そして思うのです。

神は、今回の事で自分達を試しているのではないでしょうか?」


 「裕紀殿、貴方様は先程から姫御子様に何を伝えたいのですか?」

 「言えるのは・・。」

 「言えるのは?」

 「相手を思うだけではだめだと思うのです。」

 「?」

 「自分が幸せだと思うような生き方をしないと。」


 その言葉に最高司祭は目を見開いた。

姫御子はただ俯いて、涙を流して聞いているだけであった。


 やがて、最高司祭はゆっくりと席を立った。


 「裕紀殿、そろそろ出立しないといけない時刻です。」

 「・・・はい。」


 立ち上がる裕紀に、姫御子は思わず叫んだ。


 「裕紀様!」

 「・・・なんでしょう・・。」

 「わ、私は幸せを見つけて見せます。貴方様も見つけて下さいませ!」


 その言葉に裕紀は目を見開いた。

そして裕紀は微笑む。


 「ええ、そうですね、お互い、幸せを見つけましょう。

貴方の事は一生の思い出とします。」


 「わ、私も・・・。」


 そう言って姫御子は微笑んで、そっと涙を(ぬぐ)った。

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