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「あれー、困ったなあ。どうしよー。」

 女性がスマホを見つめ、周りをキョロキョロと見渡していた。たぶん新社会人だろう。リクルートスーツを着ている。外見もそうだが、なんだか自分と同じような緊張を不安を抱いてるいるように感じた。時計を見ると、8時40分。時間的には会社に向かうにはちょうどいい時間だった。

「どうしよ。どうしよ。遅刻しちゃう。初日から遅刻しちゃう。」

 彼女は今にも泣きそうだった。誰かに助けを求めようとしているが、周りのサラリーマンたちは、チラッと彼女を見ても無視していた。あ、目があった。こっちにくる。

「あ、あのー。ここの場所わかりますか。」

 スマホの画面を俺に見せてきた。どうしよう。分からない。彼女のスマホの時計は8時45分を示していた。時間もない。

「俺もここよく知らないから、分からないです。ごめんなさい。」

 早口にそう言って、その場を立ち去ろうとすると、

「ま、待ってください。じゃあ、一緒に考えてください。このままじゃ、大変なんです。」

 彼女は今にも泣きそうな声でお願いしてきた。「意外と図々しいな」とは思ったが、彼女をこのままにはしておけないし。

 「分かりました。ちゃんと地図を見せてください。」

 地図を見ると、まず駅が違っていた。正確には路線が違っていた。集合場所の最寄駅はJRだったが、今いる場所はメトロの方である。

 「路線が違いますね。今いるところはメトロの方です。JRはこことは反対側ですよ。」

 「本当だ。ありがとうございます。本当に助かりました。あ、あのー失礼ですが、あなたも私と同じ新社会人ですよね。雰囲気で分かりました。お互いこれから頑張りましょ。」

 新しい生活に花を添えるかのような、活気に溢れた笑顔で彼女はそう言い残すと走り出して行った。たまにはいいことするものだ。そういえば、今何時だ。時計を見ると、8時55分。俺は死にそうな顔をしながら、新社会人としてのスタートをきった。

 

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