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記憶がない。全く覚えがない。朝起きたら、女性が床で寝ていた。俺が起きた音で目が覚めたのか、彼女は寝ぼけた声で
「おはよー。」
と挨拶した。俺もつられて
「ああ、おはよー。」
と何気ない挨拶を交わした。
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俺の名前は綱島明。4月から社会人として、社会に出る。長かった学生生活も終わってみれば、一瞬だった。毎日太陽が沈み頃に起きて、太陽が昇る頃に寝る生活が終わった。これから毎日、7時に起きなければならないと考えると憂鬱になった。同時に、真っ当な大人として生活を送ることへの使命感を感じずにはいられなかった。
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入社式。学生でいうと入学式。新たな始まりである。集合時間は9時であったが、俺は早めに起きて会社に向かった。緊張のせいか家にいても落ち着かなかったのだ。慣れないスーツ姿に少々戸惑ったが
、「この姿もそのうち慣れるだろう」と駅のトイレの鏡を見ながら思った。時間は8時30分。最寄駅から会社までは徒歩で5分程度。まだまだ余裕がある。「とりあえず喫煙所いくか」と一服しに喫煙所に向かった。喫煙所は疲れた顔をしたサラリーマンたちでいっぱいだった。「俺もそのうちあんな顔でタバコを吸うことになるのかな」と思いながら、タバコに火をつけた。緊張した身体にタバコの煙がゆっくりと広がった。今まで吸ったことのないような特別な味がした。




