↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
80/99

第七十七話 六層

穴の二日目です!


今回から六層。通路が広くなって、レンがやっと刀を振れるようになります。

ただ、ここから先は穴の方も黙ってはいません。


朝のマルタさんの話にも、ちょっと気になる事が出てきます。


 朝の食堂でDの札を卓に置くと、マルタは鍋を持ったまましばらくそれを見下ろしていた。


「初日でDかい。……あんたら、山の向こうで何を斬ってきたんだい」


「色々だ。それより一つ聞きたい事がある」


 三層の壁の話をすると、マルタは鍋を隣の卓に置いて椅子を引いた。


「隠し部屋だね。風が吸われてたんなら間違いないよ」


「入れるの?」


 ミアが身を乗り出した。


「入れる。たいていは近くの壁か床に、押せば動く石が一つある。ただし開けて何が出るかは開けるまで分からないよ。当たりなら箱が一つ置いてある。外れなら魔物がぎっしり詰まってる」


「外れだったら?」


「戸が閉まる前に逃げるか、全部片づけるかだね。三層なら外れでも死にはしないだろうけど、深い所の外れは、それで一組まるごと帰って来なくなる」


 マルタは自分の言った事を確かめるように一度黙った。


「箱の中身も深さ次第さ。浅い所は薬か小銭みたいな物で、下へ行くほど良い武具が出る。四十より下の箱からは、スキルが丸ごと入った玉が出るって話まである」


「スキルが、玉で?」


「話だよ。見たって奴には、あたしはまだ会った事がない」


 マルタは鍋を持ち直して立ち上がった。


「今日はどこまで行く気だい」


「十層の主までは行きたいわね」


 ミアが答えると、マルタは鼻で笑った。


「六層からは穴の顔が変わるよ。昨日と同じつもりで歩くんじゃないよ」



 入口の台は、昨日とは違っていた。


 二人で乗った途端に足の下が青白く滲んで、朝の光が消えた。次に目が慣れた時には、もう湿った岩の匂いの中に立っていた。


 後ろに広い空洞の気配がある。振り返って灯りを向けても、届く範囲に動く物は無かった。台のすぐ先に、下へ続く口が黒く開いている。


「便利ね、これ。昨日半日かかった所が一息だもの」


「帰りも主を倒さないと使えないけどな」


 六層へ降りる道は、今までのどの下りよりも長かった。



 降りきった所で、灯りが壁に届かなくなった。


 通路の幅が倍以上になっていた。荷車が二台すれ違えるほどあって、天井も灯りを上げてようやく岩の影が見える高さだ。足音の返り方まで変わって、自分たちが急に小さくなったような気がした。


 俺は刀を抜いて、肩から一度振ってみた。切っ先はどこにも当たらなかった。


「嬉しそうね」


「昨日は一日中、肘を畳んでたからな」


「広いって事は、向こうも好きに動けるって事よ」


 ミアはそう言って、昨日決めた通りに俺の半歩前へ出た。



 いくらも進まないうちに、ミアが片手を横に出して俺を止めた。


「止まって。そこの床、風が上がってきてる」


 灯りを下げても、俺の目には他と同じ土の床にしか見えなかった。ミアが拾った石を放ると、石は床に当たらずに土ごと下へ抜けて、しばらくしてからずっと下で乾いた音がした。


「落とし穴か」


「誰かが掘ったんじゃないわね。縁が岩のままだもの」


 灯りを穴の上にかざしても底は見えなかった。五層までは一つも無かった物だ。


「マルタさんの言ってた、顔が変わるってこれね」


「ミアが前にいなかったら、今頃あの石と同じ音を立ててた」


「でしょ。昨日あんたを言い負かしておいて良かったわ」


 穴の縁を壁伝いに回って先へ進んだ。



 次に来たのは鼠でも蜥蜴でもなかった。


 灯りの輪の外で、低い唸り声がいくつも重なった。ミアが足を止めて弓を上げる。


「前に三つ。……違う、右と左にも回ってる。六つ、囲まれてるわ」


 暗がりから出てきたのは狼に似た獣だった。毛は濡れた岩と同じ色で、目だけが灯りを返して白く光っている。正面の三匹は姿を見せたまま動かず、残りは壁沿いに俺たちの横へ回り込もうとしていた。


 昨日の鼠は来た順に突けば済んだ。こいつらは、こっちが動くのを待っている。


「ミア、背中を頼む」


「言われなくても」


 背中にミアの肩が当たった。


 左から最初の一匹が跳んだ。俺は半歩踏み出して、昨日は一度もできなかった横薙ぎで首を払った。刃が抜けるのと同時に手首を返し、続けて跳んできた二匹目の胴を下から斬り上げる。


 壁に当たらない刀は、こんなに軽かったのかと思った。


 背中の方で矢が二度鳴って、獣の悲鳴が二つ続いた。正面の三匹が一斉に走ってくる。先頭を肩から斬り下ろし、横をすり抜けようとした一匹の後ろ脚を払うと、転がった所へミアの矢が刺さった。


 最後の一匹は、仲間が砂になるのを見て向きを変えた。


【洞窟狼を討伐しました】

【経験値 +70】


「逃げるわ」


「追う。背中を見せてる」


 俺は走り出していた。振れる刀が嬉しくて、足が先に出ていた。


「レン、止まって!」


 ミアの声で足を止めたが、勢いで体が一歩だけ前へ流れた。


 右の壁から、腕ほどの太さの石の杭が横に突き出した。外套の胸を掠めて、目の前の空を貫いて止まる。もう一歩出ていたら、脇腹に入っていた。


 杭はゆっくりと壁の中へ戻っていった。その向こうで、逃げたはずの狼が足を止めてこちらを見ていた。目が合うと、今度こそ暗がりの奥へ消えた。


「……誘われたのか」


「壁に穴が並んでたの。そこだけ風が出たり入ったりしてた」


 ミアが追いついてきて、俺の外套の胸の裂け目に指を入れた。


「ここの魔物、罠のある場所を知ってるのよ。逃げる時もそこを通るんだわ」


「悪かった。刀が振れるのが嬉しくて、前しか見てなかった」


「知ってる。顔に出てたもの」


 ミアは裂け目から指を抜いて、俺の胸を一度軽く叩いた。


「一つ決めさせて。私が止まってって言ったら、斬ってる途中でも止まって。理由は後で言うから」


「分かった。そこは昨日の左と右と同じにする」


 床に残った魔石を拾うと、昨日の鼠の物より一回り大きかった。毛皮は二枚出ていて、どちらも昨日の物よりずっと厚い。


 ミアはそれを袋に詰めてから、また半歩前に立った。灯りの先には、同じ広さの暗がりがまだ続いている。


読んでくれてありがとうございます!


六層から罠が出てきました。

しかも魔物の方が罠の場所を知っていて、わざとそこへ誘ってきます。


刀が振れて浮かれたレンが、さっそく痛い目を見かけた回でした。

次回も六層から先を進みます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。