↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/99

第七話 英雄名鑑

銀貨を袋にしまって振り返ると、壁の依頼板の横に大きな貼り紙があった。

『王国英雄名鑑』。

肖像画と一緒に、名前と数字が並んでいる。

――剣聖ガルド。Lv118。剣術 Lv7(王国最高記録)。

――大賢者エルネ。Lv104。火魔法 Lv6、水魔法 Lv5。

――竜狩りバルド。Lv97。槍術 Lv6。

「すごいな」

素直にそう思った。

Lv118。今日の俺があと三十九回死にかけて、やっと届く数字だ。

(この人たちも、最初はゴブリンに追いかけられたんだろうか)

そう思うと少しだけ親近感が湧いた。

でも。

「……Lv118で剣術Lv7かあ」

俺は腕を組んでその数字を眺めた。

「ちょっと上げてなくないか?」

「はぁ?」

隣でミアが耳を疑うような顔をした。

「あんた、今何て言った?」

「いや。Lv118まで上げて剣術Lv7って、SP他に何に使ったんだろうって。ステータス振り派なのかな」

「……」

「俺、Lv3で剣術Lv3だから、ペースで言うと――」

「あんた、それギルドの中で言うのやめなさいよ」

ミアの声は笑っていなかった。

カウンターの向こうで、ラナのペンがまた一瞬止まったのが見えた。

「冗談で済むうちはいいけど。……いや、冗談なんだよね?」

「何が?」

「……もういい」

ミアは大きなため息をついて、依頼板の方に俺の腕を引っ張った。


依頼板はランクごとに分かれていた。

Fランクの欄は一番下。一番小さい紙が一番たくさん貼ってある。

『薬草採取 十束 銅貨十枚』

『ゴブリン討伐 五匹 銅貨二十枚(耳で確認)』

『下水の清掃 一日 銅貨八枚』

「これ」

ミアが薬草とゴブリンの二枚を剥がした。

「明日、朝から。私が付いてってあげる。狼の借りがあるから」

「Cランクの人がFの依頼に付いてくるのって、いいの?」

「同行は自由。報酬はあんたのもの。私は狼の残りの牙を換金し損ねたから、ついでに森を回る」

「……助かる」

「その代わり、道中であんたのステータス見せてもらうからね」

「別にいいけど」

ミアは依頼の紙をラナに渡して、受注の判を押してもらった。

「明日、朝の鐘でここ集合。遅れたら置いてく」

「分かった」

「じゃ、私は帰る。あんた宿は?」

「……ない」

「だと思った」


ミアが教えてくれた宿は、ギルドから三軒隣の『灰猫亭』という店だった。

一階が食堂、二階が宿。

一泊銅貨五枚。飯付きで七枚。

「三泊、飯付きで」

銀貨二枚と銅貨一枚をカウンターに置いた。

女神の路銀が初めて減った。

(残り、銀貨四枚と銅貨五枚か)

倉庫の初給料の日を思い出した。あの日も最初に使ったのは飯と寝る場所だった。

部屋は狭かった。

ベッドと小さな机と窓。それだけ。

でも屋根がある。壁がある。鍵がかかる。

「……あー」

ベッドに倒れ込んだ。

朝、草原で目を覚ましてから、まだ一日も経っていない。

ゴブリンに追われて、殺されかけて、殺して、吐いて、狼に噛まれて、街に来て、登録して、笑われて、稼いで。

一日の中身が前の人生の一年分より濃い。

「……ステータス」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【ステータス】

名前:レン

Lv:3

HP:34/52 MP:22/22

筋力:11 体力:12 敏捷:13 魔力:10

所持SP:0

ギフト:―

スキル:剣術 Lv3 身体強化 Lv1

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


HPが三十四まで戻っている。

明日の朝にはたぶん全快だ。

窓を閉じて天井を見た。

(Lv118、か)

剣聖ガルドの肖像画を思い出した。

白髪の、鋭い目の男。三十九回、俺の今日を繰り返した人。

(そこまで行ったら剣術いくつになるんだろうな)

毎回1ポイントで上がるなら、Lv118でSPは百十七。

剣術に全部振ったらLv118――は、さすがに上限があるか。

(ま、あの人は振ってないみたいだしな)

考えているうちに目が閉じた。

その夜、俺は夢を見なかった。

眠りすぎて、朝の鐘を危うく聞き逃すところだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。