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第六話 冒険者ギルドへ

冒険者ギルド・トリム支部は、大通りの角にある二階建ての石造りの建物だった。

看板には剣と盾を交差させた紋章。

「あんたの職場になるとこ」

扉を開けると、中は酒場のようだった。

昼間から酒を飲んでいる冒険者たち。壁一面に貼られた依頼の紙。奥のカウンターに受付の女性が三人。

入った瞬間、何人かの視線がこっちを向いた。

俺の初心者セットを見て、すぐに逸れた。

(値踏みされた)

倉庫に新人が来たときの先輩たちの目と同じだ。

「新規登録はあっち」

ミアは俺を一番右のカウンターに押しやって、自分は換金の列に並んだ。

カウンターの向こうで、眼鏡をかけた受付嬢がにこりと笑った。

「冒険者ギルドへようこそ。登録ですね。担当のラナと申します」

「お願いします。レンです」

「レンさん。お名前はそれだけで?」

「……それだけで」

「かしこまりました。冒険者は姓を名乗らない方も多いので」

ラナは慣れた様子で紙に書き込んだ。

「では、こちらの水晶に手を置いてください。レベルとギフトを確認します」

カウンターの上に拳ほどの水晶が置いてあった。

(ステータスを他人が見られるのか)

少し緊張した。

手を置くと水晶がぼんやりと光って、ラナの手元の紙に文字が浮かんだ。

「レンさん。Lv3。……ギフト、なし」

ラナのペンが一瞬止まった。

ほんの一瞬だ。俺が気にしすぎなだけかもしれない。

「珍しいですけど、いらっしゃいますよ。ギフトのない方。ご安心ください、登録に何の問題もありません」

「よかった」

「ただ、決まりですので、ギフト欄が空欄の登録者については教会にご報告させていただきます。形式的なものですので」

「教会?」

「階梯教会です。この世界のレベルとスキルは神様の『階梯』を登るもの、という教えで。空欄の方は『神様が階段を用意し忘れた方』として、教会から祝福を受けられるんです」

「へえ。じゃあ、ありがたい話ですね」

「ええ。ありがたい話です」

ラナは笑って、一枚の紙を脇に置いた。

そして銅のプレートを俺の前に置いた。

「Fランク冒険者、レンさん。登録完了です。ようこそトリムへ」

「おいおい、ギフトなしだってよ」

背後から太い声がした。

振り向くと、銀のプレートを首から下げた熊みたいな大男が、仲間と酒を飲みながらこっちを見て笑っていた。

「荷物持ちならうちで雇ってやるぜ。階段のねえ奴は一生一階で這ってろ」

どっと笑いが起きた。

(……こういうのも倉庫と同じか)

どこの職場にもいる。声がでかくて、新人をいじって、周りを笑わせる奴。

俺は何も言わなかった。言い返す言葉がこの世界にはまだない。

「ドルク。Bランク。口が悪いだけの馬鹿だから無視していい」

いつの間にか隣に戻ってきたミアが、ドルクを睨みながら言った。

「おう、ミアじゃねえか。お前の連れか? ギフトなしの子守りとはCランクも暇だな」

「あんたの部下が先週、灰狼一匹に三人がかりだったって聞いたけど」

「……」

「私は今日三匹。この人とね」

ドルクの顔が赤くなった。

仲間が笑うのを堪えている。

ミアはそれ以上何も言わず、俺の袖を引いた。

「……ギフトなしって、そんなに珍しいのか」

小声で聞いた。

「珍しいよ。私も実物は初めて見たもん」

ミアは俺の顔をじっと見た。

「だから、さっきの『空欄』も嘘だと思ったのよ。……まあ、それはあとで確かめるとして」

「確かめるって」

「ステータスを見せてもらうって言ったでしょ」

換金カウンターから、ミアが小袋を二つ持ってきた。

「はい。狼一匹分と、あんたのゴブリンの耳と魔石。銀貨一枚と銅貨六枚」

「……多い?」

「少ない。でも初日にしちゃ上出来」

手のひらの上の銀貨と銅貨。

生まれて初めて自分で稼いだ異世界の金だった。

倉庫の初給料よりずっと軽い。

でも、なんだかそれより重かった。


読んでいただきありがとうございます!

ストックがあるので朝、夕、5話ずつ更新していきます!

無くなり次第1日2話ずつ更新しようと考えてるので楽しんでください!

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