第五話 相場
俺は少しむっとしたが、ステータスを見せて証明するのも、なんだか子どもっぽい気がして、やめた。
ミアは立ち上がって、狼の死体から、手際よく牙と毛皮を剥ぎ取っていく。
「手伝う?」
「その腕で? 座ってなさいよ」
言われた通り、座った。
剥ぎ取りの手つきは、迷いがなかった。ナイフの入れ方、皮の引き方。倉庫の熟練のおばちゃんが段ボールを畳むときと、同じ種類の速さだ。
「三匹分、ギルドで換金しよ。あんたの分は、三匹目だけ。一匹目と二匹目は私。文句ある?」
「ないよ」
「よろしい」
三匹目の牙と毛皮、それから小さな魔石が、俺の袋に入った。
「魔石は、灰狼のは安いけど、ゴブリンのよりはマシよ」
「ゴブリンの、いくら?」
「銅貨二枚くらい」
高いのか安いのか、分からない。
「銅貨二枚で、パン一個」
「……安いな」
「そう。ゴブリンは、数こなす相手」
ミアは、毛皮を丸めて背囊に押し込みながら、ふと言った。
「あとさ。SPは、ちゃんと考えて使いなよ」
「え?」
「上げれば上げるほど、重くなるんだから。私なんか、弓術Lv4で止まって、もう半年よ」
(半年も? SP、何に使ってるんだ)
「ずっと上げてないってこと?」
「上げられないの。……いや、上げたいんだけど。貯めてる」
貯めてる、が引っかかった。
(SP、貯めるものなのか)
ゲームなら、貯めずにすぐ使う派だ。でも、この世界には、この世界のやり方があるんだろう。
(重くなる……。責任が、ってことか)
強くなればなるほど、自分より弱い相手と戦うことも増える。倒した相手の重みを、背負っていく。
それは、たしかに考えなきゃいけないことだ。
「分かった。気をつける」
「……あんた、ほんと、面白い顔で頷くね」
ミアは笑って、背囊を背負った。
「行くよ。トリムまで、あと半刻」
道は、森を抜けて、また開けた。
歩きながら、ミアが、いろいろ教えてくれた。
冒険者にはランクがある。下からF、E、D、C、B、A、S。
Fは登録したての新人。Cで、一人前扱い。
Bから上は、街に数人。Aは王国に数十人。Sは、片手で足りる。
「私はC。二年かかった」
「二年で一人前は、早い方?」
「普通。……ちょっと、早い方」
少し得意そうに言った。
「ギルドで依頼を受けて、達成して、報酬。魔物の素材は、ギルドで換金。魔石も」
「SPって、みんな1ずつ?」
「普通はね。レベルが一つ上がるごとに、1。ギフト持ちだと2とか3もらえるのがいるって、さっき言ったでしょ」
「そうか」
(俺は、1だ。じゃあ、普通なんだな)
ギフトが空欄で、SPは普通。ハズレはハズレなりに、ちゃんと普通の枠に収まっている。
少しだけ、安心した。
「あんたは、どこから来たの?」
「……遠いところ」
「訳あり?」
「訳あり」
「ふうん」
ミアは、それ以上、聞かなかった。
冒険者には、訳ありが多いのだと、あとで知った。
「私はトリム生まれ。父さんも冒険者だった。……だった、ね」
「……」
「気にしなくていいわよ。よくある話」
そう言って、ミアは、少し歩く速さを上げた。
丘を、もう一つ越えた。
木の柵が、目の前に広がった。
柵の向こうに、石と木の建物。屋根。煙突。人の声。
「あれがトリム」
ミアが、指さした。
「辺境で一番でかい街。あんたの街になるかもね」
柵の門には、槍を持った衛兵が二人。ミアが首から下げたプレートを見せると、俺の方を一瞥して、通してくれた。
「あんたは登録がまだだから、私の連れってことで」
「助かる」
門をくぐった。
石畳。屋台の匂い。焼いた肉の匂い。馬の嘶き。
行き交う人の腰には、剣や杖が、当たり前のように差してある。
(本当に、来たんだな)
朝、草原で目を覚ましたときとは、また違う実感だった。
「口、開いてるよ」
「……閉じてる」
「はいはい」
ミアが、俺の袖を引っ張った。
「まずギルド。登録して、換金。話はそれから」




