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第四話 噛まれた

森の入口で、灰色の狼が、三匹。

いや、二匹だ。一匹は、もう倒れていた。首に矢が刺さって、動かない。

残る二匹が、一人の少女を、挟むように囲んでいた。

狼と言っても、俺の知っている狼じゃない。肩の高さが、俺の腰くらいある。目が赤い。牙が、明らかに長い。

少女は、革の軽装に、背中に矢筒。手には、短い弓。俺より少し年下に見える。栗色の髪を高く結って、汗で額に貼り付けている。

「――来なさいよ」

少女が、弓を引いた。

正面の一匹が、跳んだ。

矢が放たれた。

狼の首に、正確に刺さる。狼が、空中で崩れて、地面を転がった。

「――二匹」

少女が呟く。落ち着いている。慣れている。

(すげえ)

足が、止まりかけた。

俺が出る幕なんて、ない。この人は、一人でやれる。

そう思った、次の瞬間。

三匹目が、木の陰から出てきた。

少女の、真後ろだった。

弓を引き絞る少女の、死角。

彼女は、気づいていない。

「後ろ!」

叫んだ。

少女が振り向く。狼が跳ぶ。矢は、間に合わない。

俺は、走っていた。

剣を抜く時間はなかった。

狼の横っ腹に、肩から、体当たりした。

狼は、びくともしなかった。

俺の方が、跳ね返された。

「ぐ、あっ――」

地面に転がる。狼が、こっちを向いた。

赤い目。

(また、これか)

今日二度目の、目が合う感覚。

狼が、跳んだ。

牙が、左腕に食い込んだ。

「――っ、ああああ!」

痛い。熱い。

ゴブリンの棍棒とは、比べ物にならない。骨に、直接、何かが刺さっている。

視界の端で、HPが一気に減る。

HP:26 → 11。

(死ぬ、また)

狼が、首を振った。

俺の体が、腕ごと振り回される。

右手が、勝手に剣の柄を掴んでいた。

抜けた。

剣術Lv2。今度は、鞘に引っかからなかった。

振り回されながら、狼の背中に、剣を叩きつけた。

がつっ、と。

硬い。

刃が、毛皮の上を滑った。刺さらない。灰色の毛が、鎧みたいだ。

もう一度。

がつっ。

「くそ、が――!」

三度目、剣が、狼の肩口に食い込んだ。

浅い。でも、食い込んだ。

狼が、唸って、俺の腕を離した。

その瞬間。

矢が一本、俺の頭のすぐ横をかすめて、狼の目に、刺さった。

狼が、びくんと跳ねて、倒れた。


【灰狼の討伐に貢献しました(討伐補助)】

【経験値 +20】

【レベルアップ】Lv2 → Lv3

【SP +1】(所持SP:1)

【スキル『身体強化』を習得しました】Lv1


「……」

文字を見る余裕は、なかった。

左腕が、燃えている。

袖が裂けて、血が、だらだらと流れていた。見ると、余計に痛い。

「ちょっと! あんた、腕!」

少女が駆け寄ってきた。

「見せて。……深くはない。運がいいわ、あんた」

彼女は腰の袋から小さな瓶を取り出して、中身を傷に振りかけた。

ひやりとして、次の瞬間、痛みが半分になった。

「回復薬。安物だけど」

「……ありがとう」

「それはこっちの台詞。あんた来なかったら、三匹目に背中食われてた」

少女は、ふう、と息を吐いて、その場に座り込んだ。

「ミア。冒険者。Cランク」

「レン。……今日から冒険者、になると思う」

「今日から?」

ミアの目が、丸くなった。

「あんた、新人? 一人で灰狼に突っ込んだの? 装備、それ初心者セットじゃない」

「たまたま、通りかかって」

「たまたまで狼に飛び込むな。……まあ、助かったけど」

ミアは、俺の腕をもう一度見て、それから、俺の腰の剣を見た。

「でも、最後の三発目。あれ、剣術のスキル持ってるでしょ。素人の振りじゃなかった」

「うん。さっきゴブリン倒して、剣術Lv2になった」

「さっき? じゃあ、今日Lv2になったの?」

「Lv3になった。今」

「へえ。初日で3? いいペースじゃん」

そう言われて、悪い気はしない。

俺は、腕の痛みが引いたのをいいことに、その場でステータスを開いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【ステータス】

名前:レン

Lv:3

HP:18/52 MP:22/22

筋力:11 体力:12 敏捷:13 魔力:10

所持SP:1

ギフト:―

スキル:剣術 Lv2 身体強化 Lv1

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(身体強化。狼に体当たりしたから、か)

所持SP:1。

迷った。身体強化を上げるか、剣術を上げるか。

さっきの、毛皮に弾かれた感触が、まだ手に残っている。

(刺さらなきゃ、意味がない)

剣術のところを押した。


【スキル:剣術】

現在 Lv2 → Lv3

必要SP:1

効果:剣を扱う際の身体制御が向上する


「よし」


【スキル『剣術』Lv2 → Lv3】(消費SP:1/残りSP:0)


体の中で、また、何かが噛み合った。

今度は、肩から腕にかけて。剣を握る手が、さらに馴染む。

「……何振ってんの?」

ミアが、俺が宙を触っているのを、怪訝な顔で見ていた。

「SP。今、1もらったから、剣術に」

「剣術、Lv3にしたってこと?」

「うん」

「……は?」

ミアの声が、一段低くなった。

「あんた、今日始めたんでしょ。Lv3でしょ」

「そうだけど」

「Lv3で剣術Lv3って、あんた……」

ミアはしばらく俺の顔を見て、それから、何かに気づいたように、肩の力を抜いた。

「――あー、そういうこと。ギフト持ちか」

「ギフト?」

「SPが多くもらえるやつ。いるのよ、たまに。レベル上がるたびに、普通の倍もらえる子とか」

「いや、俺、ギフト空欄なんだけど」

「はいはい」

ミアは手をひらひら振った。

「隠すのは勝手よ。ギフトは、自分から言わない人も多いし。……ただ、私の前で『空欄』って言ったのは覚えとくからね。次に嘘ついたら、矢を射る」

「本当に空欄なんだよな」

「はいはい」

信じてもらえなかった。

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