第二十四話 三日
翌朝、ユーリはギルドに一人で来た。
今度は兜も鎧もなかった。灰色の質素な服。腰に剣だけ。
十八歳に、初めて見えた。
「三日後の朝、門で」
ユーリは、バルガスと俺に、同時に言った。
「自分の足で来てください。縄も檻もつけません。馬は用意します」
「来なければ」
バルガスが言った。
「私が迎えに行きます。そのときは、縄になります」
「……七聖が、三日も待つのか」
「私が待ちたいだけです。命令には、期限がありません」
ユーリは、俺を見た。
「王都までは馬で十日。その間、あなたは私の預かりです。誰にも手を出させません。教会の者にも」
「王都に着いたら」
「分かりません。私の仕事は、そこで終わります」
ユーリは、それ以上言わなかった。
言えることだけを、言って、出ていった。
「行く気か」
バルガスが、二階の執務室で言った。
「……分かりません」
「直属を渡す気はねえって言ったな。あれは監察官と司祭の話だ。七聖は別だ。あれはギルドが束になっても止められねえ」
「知ってます」
「知ってて、聞くか」
バルガスは机を指で叩いた。
「三日だ。三日で、お前が決めろ。逃げるなら、俺は見なかったことにする。行くなら、俺は門まで送る。どっちでも、お前の判断だ」
ミアが、横で言った。
「王都には、大聖堂がある」
「……」
「二年前の神命依頼の記録は、大聖堂にある。トリムの塔にはない。マスターが調べた」
バルガスが頷いた。
「父さんに何があったか、知りたいなら、王都」
ミアは、俺を見なかった。
「私が行きたいだけ。あんたを行かせる理由じゃない」
「……分かってる」
三日。
逃げるか、行くか。
逃げても見つかる。行けば、何をされるか分からない。
派遣で覚えたことが、もう一つある。
選べる間に選ばないと、選ばされる。
二日目の夜、気配で目が覚めた。
宿の廊下。三つ。
足音はない。でも、いる。
剣を掴んで、窓の外を見た。
裏の路地に、二つ。
ミアの部屋の窓に、石を投げた。三度。決めておいた合図。
すぐに、ミアの窓が開いた。
「何」
「五人。廊下に三、路地に二」
「聖騎士?」
「違う。気配が、雑だ」
廊下の扉が、蹴られた。
飛び込んできたのは、ドルクの仲間だった。三人。手に真剣。
「ギフトなし。悪く思うな。教会の仕事だ」
剣術Lv6の体は、三人を三人と思わなかった。
一人目の剣を払って、二人目の腹を柄で打って、三人目の足を払った。
殺さなかった。殺す必要がなかった。
窓から、路地に飛び降りた。
ミアがもう下りていた。弓を持っている。
路地の二人は、地面に転がっていた。矢が、両方の腿に刺さっていた。
「聖騎士じゃない」
ミアが言った。
「ドルクの部下。……教会の仕事って言ってた」
「三日待つって言ったのは、ユーリだけ」
路地の奥に、白い外套が見えた。
布を巻いた右手。
ヴェルナー。
「七聖は甘い」
声が、路地に響いた。
「三日も野放しにする理由がない。連れていくのは私だ」
ヴェルナーの後ろに、さらに人影。ドルクと、教会の従者が数人。
「レン」
ミアが、俺の袖を引いた。
「森」
「……森?」
「街の中で戦ったら、街の人が巻き込まれる。森なら、追ってくるのはあいつらだけ」
走った。
裏路地を抜けて、柵の破れた場所から街の外へ。
背後で、ヴェルナーの声。
「追え。殺すな。……足は、構わん」
森の縁までは、走れば半刻。
月が出ていた。
灰の森は、昼でも暗い。夜は、暗いという言葉が足りなかった。
「奥へ」
ミアが言った。
「奥は、マスターが」
「許可なしに入るなって言ってた。……知ってる。あとで怒られる」
奥へ。
二年前から、誰も入っていない場所へ。
気配察知が、後ろに五つ。近い。
前に、何もない。木と、闇と、それから。
足元が、なくなった。
「レン――」
崖だった。
月明かりでも見えなかった、崖。
ミアの手が、俺の袖を掴んで、二人一緒に、落ちた。




