第二十二話 七聖
白い旗の下に、三十騎いた。
白い鎧の騎士が二列で門をくぐって、大通りを真っ直ぐ、東の塔へ向かっていく。
街の人間は道の両脇に寄って、誰も口を利かなかった。
先頭の一騎だけが、違った。
白は白でも、他の騎士とは違った。
三十騎の鎧はどれも擦り傷や凹みがあるのに、先頭の一騎だけ、傷が一つもなかった。
兜で顔は見えない。ただ、馬の上で背筋が真っ直ぐだった。
「……あれが」
ミアが呟いた。
「第七聖」
騎士たちは塔に入って、それきり出てこなかった。
教会に先に挨拶するのが決まりなのだと、あとでガイが言った。
その日の夕方、一人だけがギルドに来た。
傷一つない白い鎧。兜は脇に抱えている。
金色の髪を短く刈った、俺と同じくらいの背丈の若い男だった。金色の目。表情がない。
若い、というより、幼い。
「ギルドマスターはいらっしゃいますか」
声が小さかった。ギルドの中の誰よりも小さいのに、全員が聞こえた。
バルガスが二階から下りてきた。
「俺だ」
「聖騎士団の者です。ご挨拶が遅れました」
男は、バルガスに向かって頭を下げた。
深く。冒険者ギルドのマスターに、教会の騎士が。
ギルドの中がざわついた。
「用件は」
「レンという冒険者を探しています」
「直属だ。用件は俺を通せ」
「では、通します」
男は頭を上げた。
「私の命令は、レンを生きたまま王都へ連れていくことです。理由は聞かされていません。命令はそれだけです」
隠さなかった。
嘘もつかなかった。
バルガスの目が細くなった。
「……正直だな」
「隠す理由がありません」
男は、ギルドの中を見回した。
目が、俺で止まった。
金色の目が、俺を見た。見た、というより、読んだ。
「Lv7。剣術Lv6。身体強化Lv2。気配察知Lv1。回避Lv2。応急手当Lv1。所持SP、0」
ギルドの空気が、止まった。
「ギフト、空欄」
ミアが、俺の袖を掴んだ。
散らした意味が、なかった。
この男には、全部見えている。
「Lv7でもらえるSPは6です。剣術Lv6だけで31。……本当なんですね」
それは俺に聞いているのか、自分に言っているのか、分からなかった。
「だから何だ」
バルガスが言った。
「何も」
男は首を振った。
「命令は連行で、判断は私の仕事ではありません」
それから、男は俺の前に来た。
「名前を聞かせてください」
「……レン」
「レン。覚えておきます」
金色の目が、一度だけ、瞬きした。
「――七聖が第七、ユーリ」
名乗りは、それだけだった。
噂で聞いた男が、目の前にいた。十八で三番目。
「一つだけ、確かめさせてください」
「……何を」
「あなたが本当に階梯の外なら、私では止められません。それを王都に伝えるためには、確かめる必要があります」
「確かめるって」
「明日の朝、訓練場で。木剣で結構です」
決闘の申し込みだった。
ドルクのときとは、何もかも違った。声も、目も、理由も。
「断る」
バルガスが言った。
「昨日、Bランクと真剣でやったばかりだ。肩が裂けてる」
「見えています。回復薬で塞がっている。明日には動ける」
ユーリは、バルガスの方を向いた。
「断られたら、力ずくで連れていくことになります。それは、私も望みません」
脅しじゃなかった。
本当に望んでいないのだと、分かる声だった。
「……受ける」
「レン」
「受ける。木剣なら」
ユーリは、少しだけ、頭を下げた。
「明日の朝。お待ちしています」
兜を抱えたまま、ユーリはギルドを出ていった。
誰も、しばらく喋らなかった。
「……散らしたのに」
ミアが、小さく言った。
「全部、見えてた」
「見えてた」
「噂じゃなかった」
「噂じゃなかった」
ガイが、俺の肩を叩いた。
「明日、見に行く。……死ぬなよ」
「木剣だ」
「木剣で人を殺せる奴が来てんだよ」




