↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/99

第二十話 器

翌朝、バルガスに呼ばれた。

「狼を狩れ。森の縁。奥には入るな。許可は出す」

「はい」

「夕方、訓練場に来い。お前一人でな」

「……訓練場に、何を」

「稽古だ」

それだけ言って、バルガスは紙に判を押した。

出ていこうとしたとき、背中に声がかかった。

「ドルクが昨日から酒を飲んでねえ」

「……」

「あいつが飲まねえのは、でかい仕事の前だけだ。気をつけろ」


森の縁は、四日ぶりだった。

狼の気配は、前より分かった。

草の向こうに二つ。右の木の陰に、もう一つ。

「三匹」

「……あんた、私より先に言った」

ミアが弓を構えた。

一匹目はミアの矢。二匹目は俺の剣。

三匹目が横から来た。牙が、腕の横を抜けた。

避けた。狙って避けたわけじゃない。体が勝手に半歩ずれた。

その半歩の分だけ、剣が入った。


【灰狼を討伐しました】

【灰狼を討伐しました】

【経験値 +80】

【レベルアップ】Lv6 → Lv7

【SP +1】(所持SP:1)

【スキル『回避』Lv1 → Lv2】


「回避が勝手に上がった」

「使ったから。スキルは使えば、たまに勝手に上がる。SPを使わなくても」

「……そうなの?」

「Lv3くらいまではね。その先はSPがないと無理」

SP:1。

剣術のところに指が行きかけて、止めた。

散らす。

身体強化を押した。


【スキル『身体強化』Lv1 → Lv2】(消費SP:1/残りSP:0)


腕が、少しだけ重くなった。いや、剣が軽くなった。

「これで、Lv7。剣術Lv6、身体強化Lv2、気配察知Lv1、回避Lv2、応急手当Lv1」

「散ってきた」

「まだ足りない」

ミアは三匹目の牙を、剥ぎ取った。


夕方の訓練場に、バルガスは一人で立っていた。

右手に木の斧。左袖は、肩の下で結んである。

「抜け」

木剣を渡された。

「俺は斧術Lv6だ。お前の剣術は」

「……6です」

「同じだな」

バルガスは笑わなかった。

「同じスキルで、器が違うとどうなるか。教えてやる」

斧が来た。

見えた。剣術Lv6の目には、見えた。

受けた。

腕が、消えた。

そう思った。痺れたんじゃない。腕があるかどうか、一瞬分からなくなった。

木剣が、地面に転がっていた。

HP:67 → 40。

「受けるな」

「……」

「同じ技で、器が倍なら、受けた瞬間に負ける。監察官に斬られたとき、それを覚えたはずだ」

覚えていた。あのときは、SPが一つ残っていた。

今日は、ない。

「拾え」

拾った。

二本目。

受けなかった。流そうとした。流れなかった。ガイの木剣は流れた。バルガスの斧は、流れる前に押し潰してきた。

HP:40 → 21。

「流すな。流せる相手じゃねえ」

「じゃあ、どうすれば」

「当たらねえ場所にいろ」

三本目。

避けた。

半歩。狼のときと同じ半歩。

斧が、肩の横を抜けた。

バルガスの斧が、初めて空を切った。

「……それだ」

バルガスは斧を下ろした。

「剣術を上げても、器が違う相手には届かねえ。届かねえ相手から生き残る技は、剣術じゃねえ。回避だ」

「回避」

「お前は剣術が高すぎる。目が良すぎて、受けられると思っちまう。その癖を、今のうちに殺しとけ」

それは、ミアの「散らす」と同じことを、別の言葉で言っていた。

「……マスター」

「なんだ」

「俺の剣術、誰に習ったのか、聞かないんですね」

バルガスは、しばらく黙った。

「聞いたら答えるのか」

「……答えられません」

「なら聞かねえ」

バルガスは木の斧を、肩に担いだ。

「答えられねえもんを抱えて、それでも生きてる奴は、大体いい冒険者になる」


訓練場を出たところに、ドルクが立っていた。

酒の匂いがしなかった。

「明日の昼。広場だ」

一枚の紙を、俺の胸に押しつけた。

『名誉の決闘 申込:ドルク(B) 受:レン(E) 立会:階梯教会トリム支部』

「ギルド公認じゃない。教会の立会だ。断れば、ギフトなしが逃げたと街中に言う。教会もそう言う」

バルガスが後ろから出てきた。

「レン。断れ」

「断ったら、この街にいられなくなる」

「いられなくても生きてる」

「……ミアは」

バルガスが黙った。

ドルクは笑った。

「賢いな、ギフトなし。お前が逃げたら、あの弓使いも一緒に笑われる。一生な」

胸の紙を、握った。

「……受ける」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。