第十九話 噂
翌日のギルドは、朝から人が多かった。
依頼を受けに来た顔じゃない。貼り紙の前に集まって、喋りに来た顔だ。
「七聖が来るってよ」
隣の卓の冒険者が、声を落として言った。
「第七聖だと。一番下だな」
「馬鹿。七聖の順番は席に就いた順だ。ユーリは最年少だから七番目なだけで、実力なら三番目だって王都の連中は言ってる」
「十八で三番目か」
「上の二人が化け物なんだよ。第二聖のハルディスなんか、砦を一つ、丸ごと壊したって話だ」
「一人で?」
「一人で。どうやったかは誰も知らない」
「たかがEランク一人に、その三番目が来るのかよ」
卓が静かになった。
何人かの目が、こっちを向いた。すぐに逸れた。
(三番目)
剣聖より上の人間が六人いる世界の、三番目。十八歳。
俺は黒パンを、ゆっくり噛んだ。
「七聖って、何なんだ」
小声でミアに聞いた。
「聖騎士団の頂点。席が七つあって、一つは空席。残り六人が、この国で一番強い六人」
「なんで空席」
「神様が自分で選ぶ席だって。教会はそう言ってる」
「六人のスキルは」
「知らない。誰も知らない。名前と顔と歳は知ってるのに、何ができるかは分からない。それが七聖」
砦を壊した女。十八で三番目の男。
何ができるかは、誰も知らない。
昼、ガイが卓に来た。
訓練場で木剣を落とした男は、あれ以来、俺を見ると手を上げるようになっていた。
「Eに上がったんだって? 特例で」
「うん」
「四日でEか。俺は半年かかった」
隣に、赤い髪の女が座った。ガイと同じ鉄のプレート。腰に杖。
「ローナ。ガイの相棒。火」
「火?」
「火魔法。適性持ち」
ローナは指先に、小さな火を灯した。蝋燭くらいの火が、指の上で揺れて、消えた。
「適性は生まれつき。私は火。ガイは何もない。だから殴る係」
「殴る係で悪かったな」
「魔法って、誰でも覚えられるんじゃないのか」
聞いたら、ローナが少し目を丸くした。
「あんた、どこの田舎から来たの。適性のギフトがないと、一生一つも使えない。火、水、風、土、雷。五つのどれかを持って生まれた奴だけ」
「……なるほど」
ギフトが空欄の俺は、五つとも持っていない。
魔法は、一生使えない。それは、なぜか少しほっとした。剣だけでいい。
「七聖の話、聞いた?」
ガイが声を落とした。
「あいつら、遺構の底まで潜る連中だからな。俺たちとは別の生き物だ」
「遺構」
「神代の遺跡。地下に何層もある。下に行くほど魔物が強くて、魔石がでかい。教会が全部管理してて、Bランク以上の許可持ちしか入れない」
「入ったことは」
「Dが入れるかよ。ドルクは持ってる。あれで一応Bだからな」
奥の卓で、ドルクが酒杯を上げた。俺たちの話が聞こえたらしい。
「聞こえてるぞガイ。俺は遺構の三層まで潜った男だ」
「三層で自慢すんな」
ローナが小声で言った。
「七聖は、二十層より下だって噂」
二十層。
数字の意味は分からなかったが、ドルクの三層が笑われる理由は分かった。
夕方、外に出ようとしたとき、気配がした。
振り向いた。
ギルドの入口に、若い司祭が立っていた。塔で階段を案内した男だ。
司祭は俺を見なかった。
奥の卓に真っ直ぐ歩いて、ドルクの横に立って、何かを耳打ちした。
ドルクの顔が、酒とは違う色で赤くなった。
それから、ドルクは俺を見た。
笑っていた。
司祭は来たときと同じ足取りで、出ていった。
「……今の」
「見た」
ミアが弓の弦に、指をかけていた。
「教会が、ドルクに何か頼んだ」
「何を」
「知らない。でも、あんたに関係あることなのは、あの顔で分かる」
ドルクはまだ笑っていた。




