第2章 第十六話 1
「8」
ミアがもう一度言った。
「弓術はLv1からLv2に、1。Lv2からLv3に、2。Lv3からLv4に上げるのに、4。」
「……倍になっていくのか」
「そう。だから私は半年、8貯めてる。まだ5」
頭の中で数字を並べた。
1、2、4、8、16、32。
剣術Lv7まで、全部足すと63。
剣聖ガルドはLv118。SPは117。剣術Lv7に63。残りを他のスキルに。
(上げてなくないか、じゃなかった)
あの人は、上げられなかったんだ。
「Lv8は」
「64まではみんな知ってる。剣聖がそこまで払ってるから。その先は、倍々で行くなら128、256。教会の教えだと階段は十段で、一番上が『極』。届くのは神様だけ」
「本当に十段なのか」
「知らない。誰も届いてないから」
「俺は」
「あんたは1」
ミアが俺の窓を指さした。
「全部、1。あんたはこの世界の値段を知らないまま、ずっと1で買ってた」
良心的だな、と笑った自分の声を思い出した。
草原で、ゴブリンの死体の横で。
血が引いた。喜びは来なかった。来たのは、別のものだった。
(じゃあ、俺は)
Lv6で剣術Lv6。
Lv7になれば、剣聖に並ぶ。
Lv10になれば、教会が神様の場所だと言っているところに、立つ。
「……なんで、俺だけ」
「知らない。でも、教会は知ってるみたい」
ミアはヴェルナーが消えた木の陰を見た。
「階梯の外。あの人、そう言った」
「知ってるのか」
「教会の教えなら誰でも知ってる。レベルもスキルも、神様の階段を登ること。登るには代価を払う。倍に、倍に。それが神様との約束」
「代価を払わない奴は」
「約束を破ってる奴。……教会からすれば、そうなる」
ギフトの横線を見た。
神が階段を用意し忘れた方。ラナはそう言った。
用意し忘れたんじゃない。俺には、階段の値段が付いていなかった。
「レン」
「何」
「これ、誰にも言っちゃだめ」
「言わない」
「私にはもう言ったけど」
ミアは少しだけ笑った。それから、笑うのをやめた。
「ヴェルナーは王都に帰る。そしたら王都から、もっと強いのが来る。あんたが街にいる限り」
「なら、出ていった方が」
「どこに行っても水晶の記録は追ってくる。それに」
ミアは俺の脇腹を見た。血はもう止まっていた。
「今のあんたは、Lv6で、Lv52を追い返した。次はもっと上を追い返す。そういう場所に、もういるのよ」
逃げるより、強くなる方が早い。
そう言われているのだと、分かった。
「……なんで、ミアは俺を手伝うんだ」
「三日前に会ったばかりの奴を?」
「うん」
ミアは立ち上がって、ホブゴブリンの牙を拾った。
「まだ答えない。帰ってから」
「帰ってからか」
「そう....ご飯のときに」
街の門で、衛兵が俺たちの顔を二度見た。
ギルドの扉を開けたとき、ラナのペンが落ちた。
ペンが床で跳ねる音が、やけに大きく聞こえた。
ラナはそれを拾わなかった。
「……お帰りなさい」
声が、少しだけ震えていた。
「ホブゴブリン、討伐しました」
ミアが牙をカウンターに置いた。
ラナは牙を見て、俺を見て、ミアを見て、それから小さな声で言った。
「ギルドマスターが、お二人を呼んでいます」




