第十三話 訓練場
訓練場はギルドの裏の広場だった。
土を踏み固めただけの四角い場所に、木剣が何本か立てかけてある。
朝の鐘の直後なのに、人が集まっていた。ドルクの仲間が三人、暇そうな冒険者が十人ほど、カウンターから抜け出してきたラナ。
そして広場の隅に、白い外套の男が一人立っていた。
昨日、門で追い越していった早馬の男だ。
(教会の人が、なんでここに)
考える前に、ガイが木剣を投げてよこした。
「拾え」
拾った。
鉄の剣より軽い。でも剣術Lv4の手は、木でも同じ場所を握った。
「ルールは簡単だ。倒れるか、参ったと言うか、木剣を落としたら負け。頭は狙うな」
ドルクが酒杯を持ったまま言った。朝から飲んでいる。
「始め」
ガイは右から来た。
ミアの言った通りだ。
受けた。
腕が痺れた。ゴブリンの棍棒とは比べ物にならない。木剣同士なのに、骨まで響いた。
HP:58 → 51。
(当たってないのに減るのか)
受けただけで削れる。筋力が倍あるというのは、こういうことか。
ガイが押してくる。押し返せない。
下がった。
ガイが追ってくる。突き。
遅い。
ミアの言った通り、突きは遅かった。
体が横に逃げた。逃げながら、木剣がガイの手首を打った。
狙ったつもりはない。剣術Lv4の体が、勝手にそこを打った。
「っ!」
ガイの木剣が落ちた。
広場が静かになった。
「……まぐれだ」
ドルクが言った。
「もう一本」
ガイは何も言わずに木剣を拾った。目が変わっていた。
二本目。
ガイは受けさせに来なかった。突きも来なかった。ただ真正面から、力任せに振り下ろしてきた。
受けたら折れる。
受けなかった。
木剣の腹で、上から来る力を横に流した。流れた先に、ガイの脇があった。
体が勝手に踏み込んだ。
木剣の先が、ガイの喉元で止まった。
止めたのは俺じゃない。剣術Lv4が、そこで止めた。
「……参った」
ガイが言った。
誰も何も言わなかった。
ガイは木剣を下ろして、俺の顔をまっすぐ見た。
「お前、剣術いくつだ」
「4」
「Lvは」
「4」
「Lv4で剣術Lv4?」
ガイが繰り返した。
広場のあちこちで、同じ言葉が繰り返された。
Lv4で剣術Lv4。
ドルクの顔が、酒とは違う色で赤くなった。
「嘘だ。隠しギフトだ。そうに決まってる」
「そうかもね」
ミアが言った。
「だとしても、ガイが二本取られたのは変わらないけど」
ドルクは酒杯を地面に叩きつけて、仲間を連れて出ていった。
ガイだけが残って、俺に手を出した。
「悪かった。ギフトなしだから何だってな。俺もそう思ってた」
握った。太い手だった。
「またやろう。今度は木剣じゃなくて依頼で」
「うん」
人が散ったあと、ミアが俺の横に来た。
「なあ」
「何」
「俺、この街でどのくらいなの」
ミアはしばらく黙っていた。
「昨日までは分かってた。今日、分からなくなった」
それだけ言って、ミアは木剣を片付けに行った。
広場の隅を見た。
白い外套の男はもういなかった。
ギルドに戻ると、ラナが一枚の封書を差し出した。
封蝋に、階段の紋章。
「レンさん宛てです。教会から」
「教会?」
「祝福の儀式のご案内だと思います。明日の朝、東の塔へ、と」
開けた。
その通りのことが、丁寧な字で書いてあった。
「ありがたい話ですね」
俺がそう言うと、ラナは笑った。
昨日と同じ笑い方で。ただ、少しだけ間があった。
ミアは封書を横から覗き込んで、眉をひそめた。
「新人に、教会がわざわざ?」
「ギフトなしは祝福してもらえるって、ラナさんが」
「……そうだけど」
ミアはそれ以上言わなかった。
言わなかったが、封書から目を離さなかった。




