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第十一話 換金

ギルドの換金カウンターは、夕方が一番混む。

森から戻った冒険者が、袋の中身を並べて順番を待つ。俺たちもその列に並んだ。

「薬草十束。ゴブリンの耳五つ。小さな魔石が三つ」

ラナが一つずつ確認して、紙に書き込んでいく。

「薬草採取、達成。ゴブリン討伐五匹、達成。魔石は三つで銅貨六枚です」

「はい」

「合わせて銅貨三十六枚。銀貨三枚と銅貨六枚でお渡ししますね」

カウンターに硬貨が並んだ。

昨日の倍以上だ。

「Fランクの依頼は、十件達成でEランクに上がれます。今日で二件。順調ですね」

「ありがとうございます」

「それと」

ラナが少しだけ声を落とした。

「レンさん、今Lv4ですよね。昨日の登録で3でしたから」

「はい。さっき上がりました」

「そうですか」

それだけ言って、ラナは次の人を呼んだ。

(今のは、何だったんだ)

聞き返す隙はなかった。ミアが袖を引いたからだ。


「おいおい、また来やがった」

太い声がした。

昨日と同じ席で、ドルクが昨日と同じ顔で酒を飲んでいた。仲間も同じ三人。

「ギフトなしが、ゴブリン五匹? どうせ全部ミアの矢だろ」

「私は一匹。四匹はこいつ」

「嘘つくなよ。階段のねえ奴がゴブリン四匹殺せるわけねえだろ。ゴブリンだって階段登ってんだぞ」

仲間が笑った。

ミアの顔が険しくなった。俺は、ミアの袖を今度は俺の方から引いた。

「行こう」

「……」

「倉庫にもいた。ああいうの。相手すると長い」

ミアは舌打ちして、それでも足を出口に向けた。

その背中に、ドルクが言った。

「なら試してみろよ」

足が止まった。

「明日の朝、訓練場でうちのガイと打ち合え。木剣だ。死にはしねえ。ギフトなしが本当に剣を振れるか、この場の全員が見てやる」

ガイと呼ばれた男が、酒杯を置いて立った。

背は俺と同じくらい。腕は俺の倍。首から下げたプレートは鉄。Dランク。

「受けなくていい」

ミアが小声で言った。

「Lv15よ。あんたの四倍近い。筋力も倍ある。木剣でも骨は折れる」

四倍。

数字を聞いて、少し怖くなった。

でも同時に、別のことも思った。

(俺、今どのくらいなんだろう)

昨日から今日で、ゴブリンに殺されかけて、五匹倒すところまで来た。でもそれが、この街の物差しでどこにあるのか分からない。

ミアは「いいペース」と言った。ドルクは「ゴブリンも倒せない」と言う。

どっちが本当か、俺は知らない。

「受ける」

「はぁ?」

「木剣なんだろ。骨が折れても宿で治る」

「治るけど痛いのよ」

「痛いのは慣れてるよ」

昨日一日で、二十六年分くらい慣れた。

ドルクがにやりと笑った。

「決まりだ。朝の鐘。逃げたらギルド中に言いふらす」

「逃げない」

ミアが、俺の頭を軽く叩いた。

「馬鹿」

それから、大きなため息をついた。

「……付き合ってやる。ご飯食べて帰る。あんたのおごりね」

「銅貨いくら?」

「四枚あれば足りる」

灰猫亭の食堂で、俺たちは黒パンと肉の煮込みを食った。

ミアは、食いながらずっとガイの癖について喋った。右から入る。突きが遅い。受けたあと一歩下がる癖がある。

「……なんでそんなに知ってるの」

「去年、私も同じことやらされたから」

「勝った?」

「負けた。矢がなきゃ私はただの女よ」

ミアはそう言って、煮込みの最後の一口を飲み込んだ。

「あんたには剣術がある。Lv4の。それが本物なら、たぶん骨は折れない」

本物なら。

その言葉が、少し引っかかった。


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