第九話 薬草採取
朝の鐘で目が覚めた。
体を起こすと、どこも痛くなかった。
「ステータス」
HP:52/52。
一晩で全快。ゲームの宿屋そのままだ。
(これ、前の世界にも欲しかったな)
倉庫の朝は腰から始まった。今は、どこから始めればいいのか分からないくらい軽い。
一階の食堂で、飯付きの朝飯を食った。黒パンと豆のスープと、干した肉。うまい。昨日より確実にうまい。
食い終わって外に出ると、ミアがもうギルドの前に立っていた。
「遅い」
「鐘は聞いた」
「鐘が鳴ってから起きるのが遅いって言ってんの」
反論できなかった。
薬草の群生地は、街を出て森の縁を北に半刻ほど歩いたところにあった。
昨日の狼の場所とは反対側。ミアが言うには、こっちは魔物が少ない。
「これよ。葉の裏が白いやつ。根は残して、上だけ摘む」
ミアが一本引き抜いて見せた。
「十束で銅貨十枚。一束は、だいたいこの手のひら一杯分」
「分かった」
しゃがんで、葉の裏を確かめて、摘んだ。
次。裏を見る。白い。摘む。
次。違う。飛ばす。次。摘む。
気づいたら、手が勝手に動いていた。
棚から商品を探して、確認して、カゴに入れる。それを九時間やり続けた三年間が、指先に残っている。
「……ちょっと待って」
ミアが、自分の手を止めて俺を見た。
「あんた、それ何束目?」
「四つ目」
「私、まだ二つよ」
「そうなの?」
「そうなのって……」
ミアは呆れた顔で、それからちょっと悔しそうに、自分の分を摘み直した。
「あんた、採取向いてる」
「前の仕事が似たようなやつだった」
「どんな仕事?」
「棚から物を探して、カゴに入れる仕事」
「……それは冒険者じゃないわね」
「冒険者じゃない」
十束は、半刻もかからずに終わった。
草の上に座って、水を飲んだ。
ミアが、水袋を置いて、こっちを向いた。
「じゃ、約束」
「約束?」
「ステータス。見せるって言ったでしょ」
そうだった。
「見せ方、分からないんだけど」
「窓を開いて、相手に見せたいと思えばいい。それだけ」
言われた通りにした。
半透明の窓が出て、ミアの方に向くように念じた。窓が、ふわりと向きを変えた。
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【ステータス】
名前:レン
Lv:3
HP:52/52 MP:22/22
筋力:11 体力:12 敏捷:13 魔力:10
所持SP:0
ギフト:―
スキル:剣術 Lv3 身体強化 Lv1
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ミアは、しばらく黙って窓を見ていた。
長い。
「……本当に、空欄なんだ」
「だから言った」
「言ったね。ごめんなさい」
謝りながら、ミアの目はまだ窓から離れなかった。
ギフトの欄と、スキルの欄を、何度も往復している。
「ねえ。あんた、剣術いつLv3にしたの?」
「昨日。狼のあと」
「Lv2にしたのは?」
「ゴブリンのあと」
「……」
ミアは、指を折って何かを数え始めた。
途中で止めて、また数えて、また止めた。
「合わない」
「何が?」
「……いや。私の数え方が間違ってるのかも」
ミアは首を振って、窓から目を離した。
「たまにいるって聞いたことがある。水晶に映らないギフト。教会が『隠しギフト』って呼んでるやつ」
「隠しギフト」
「本人にも見えないから、本人も知らない。そういうの」
(いや、女神ははっきりハズレって言ってたけどな)
そう思ったが、言わなかった。女神の話をしたら、話がもっとややこしくなる。
「そういうことにしとく。だから、ギルドではその話しないで。ドルクみたいなのに絡まれる」
「分かった」
「私が弓術Lv3にしたのは、Lv8のときよ。一応、言っとく」
(Lv8で3か。ペース、遅くないか?)
思ったが、それも言わなかった。
人それぞれだ。ステータスに振る人だっている。剣聖だってそうだった。
「行こ。ゴブリン」
ミアが立ち上がった。
森の縁に沿って南に戻る。昨日、俺が転がった丘の方角だ。
丘の裏に回ったところで、ミアが手を上げた。
止まれ、の合図。
草の向こうに、緑色の背中が見えた。
一つ。二つ。三つ。
四つ。五つ。
「……五匹、いた」
ミアが小声で言った。
「依頼、ちょうどね」




