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第九話 いつもの席

午後。


喫茶店の扉を開ける。


からん、と鈴が鳴った。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。」


窓際の席が空いていた。


そこへ座る。


メニューを開く。


ホットコーヒー。


プリン。


少し迷う。


「プリンもお願いします。」


店員さんは頷いて、厨房の方へ歩いていった。


――――――――――――――――――――


窓の外を眺める。


道を歩く人。


自転車。


犬の散歩。


雲がゆっくり流れていく。


店内では、小さく音楽が流れていた。


知らない曲だった。


でも、落ち着く。


――――――――――――――――――――


コーヒーが運ばれてくる。


「お待たせしました。」


「ありがとうございます。」


湯気が立っていた。


一口飲む。


少し苦い。


そのあとで、香りが残る。


「……。」


私はカップを置いた。


――――――――――――――――――――


少し遅れて、プリンが来た。


四角いお皿。


小さな銀色のスプーン。


カラメルが光っていた。


一口。


甘い。


そのあとで、少しだけ苦い。


コーヒーとは逆だった。


思わず笑う。


――――――――――――――――――――


「失礼します。」


店員さんが空いたグラスを下げていく。


私は少しだけ窓から目を離した。


「この席、お好きなんですか?」


私は店員さんを見る。


「え?」


「いつも窓際なので。」


私は窓の外を見る。


「……そうだった。」


自分でも少し驚いた。


「気づいてなかったです。」


店員さんは笑った。


「人気なんですよ。」


「そうなんですね。」


それだけ話して、店員さんは戻っていった。


――――――――――――――――――――


私はもう一度窓の外を見る。


今日も人が歩いている。


信号が変わる。


鳥が飛ぶ。


誰かが立ち止まる。


また歩き出す。


ぼんやり眺める。


それだけで時間が過ぎていく。


――――――――――――――――――――


夜。


配信。


「こんばんは。」


『こんばんはー』

『今日は何してた?』


「喫茶店。」


『おしゃれ』

『何飲んだ?』


「コーヒー。」


『飲めるんだ』


「うん。」


『何かあった?』


私は少し考える。


「プリンがおいしかった。」


『そっちなんだw』

『プリン配信』

『甘いもの好き?』


「好き。」


少し間を置いて、


「あと、窓。」


『窓?』


「外を見るの。」


『わかる』

『ぼーっとできるよね』


「うん。」


それ以上は説明しなかった。


――――――――――――――――――――


帰り道。


店の前を通る。


窓から、昼に座っていた席が見えた。


今は別の人が座っている。


私は少しだけ立ち止まる。


それから歩き出した。


――――――――――――――――――――


家へ帰る。


鍵を置く。


コップに水を入れる。


一口飲む。


窓を開ける。


夜風が入る。


昼間見ていた窓と、


今、自分の部屋から見る窓。


同じ空でも、少し違って見えた。


私はカーテンを閉める。


「おやすみ。」


今日も静かな一日だった。

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