第八話 新しい味
昼過ぎ。
配信まで少し時間があった。
冷蔵庫を開ける。
牛乳。
卵。
ヨーグルト。
野菜ジュース。
「……。」
少しだけ考えて、扉を閉める。
買い物へ行こう。
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スーパーはいつも通りだった。
野菜売り場。
魚売り場。
お菓子売り場。
ゆっくり歩く。
急ぐ理由もない。
特売の札を眺める。
今日はトマトが安い。
二つ籠へ入れた。
その隣に、小さな試食コーナーがあった。
「新商品のジャムです。」
店員さんが小さなクラッカーを差し出す。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
一口。
少し甘い。
そのあとで、柑橘の香りが広がった。
「……美味しい。」
「珍しいですよね。」
店員さんが嬉しそうに笑う。
「はい。」
「期間限定なんですよ。」
私は瓶を見る。
期間限定。
その文字を見て、小さく頷いた。
「一つください。」
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帰り道。
紙袋の中で瓶が小さく音を立てる。
からん。
からん。
その音を聞きながら歩く。
空はよく晴れていた。
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夕方。
パンを焼く。
ジャムの蓋を開ける。
ふわりと香りが広がる。
ナイフで少しだけすくう。
焼きたてのパンへ塗る。
一口。
「……。」
甘い。
そのあとで、少しだけ酸っぱい。
思わず笑う。
「好きかも。」
部屋には誰もいない。
でも、その言葉は自然に出た。
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夜。
配信。
「こんばんは。」
『こんばんは!』
『今日は何してた?』
「買い物。」
『何買ったの?』
「ジャム。」
『かわいい』
『何味?』
「秘密。」
『なんでw』
私は少し笑う。
「まだ今日だけの味だから。」
コメント欄が少し静かになる。
『今日だけ?』
『どういうこと?』
私は首をかしげる。
「あ。」
少しだけ困ったように笑った。
「うまく言えなかった。」
『あるあるw』
『伝わるような伝わらないような』
『食べ物あるあるってことにしとこう』
「うん。」
そのままゲームを始めた。
話題は自然に流れていった。
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配信が終わる。
食器を洗う。
ジャムの瓶を棚へ戻す。
ラベルには「期間限定」と書かれていた。
また来年も売るかもしれない。
売らないかもしれない。
私は知っている。
でも、今日食べた一口は、今日だけだった。
「また明日。」
小さく呟く。
瓶は何も答えない。
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寝る前。
窓を少しだけ開ける。
夜風が入ってきた。
昼とは違う匂いがする。
私は一度だけ深呼吸をした。
今日の空気だった。
明日の空気とは、少し違う。
それだけで十分だった。
布団へ入る。
静かに目を閉じる。




