表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/16

第八話 新しい味

昼過ぎ。


配信まで少し時間があった。


冷蔵庫を開ける。


牛乳。


卵。


ヨーグルト。


野菜ジュース。


「……。」


少しだけ考えて、扉を閉める。


買い物へ行こう。


――――――――――――――――――――


スーパーはいつも通りだった。


野菜売り場。


魚売り場。


お菓子売り場。


ゆっくり歩く。


急ぐ理由もない。


特売の札を眺める。


今日はトマトが安い。


二つ籠へ入れた。


その隣に、小さな試食コーナーがあった。


「新商品のジャムです。」


店員さんが小さなクラッカーを差し出す。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


一口。


少し甘い。


そのあとで、柑橘の香りが広がった。


「……美味しい。」


「珍しいですよね。」


店員さんが嬉しそうに笑う。


「はい。」


「期間限定なんですよ。」


私は瓶を見る。


期間限定。


その文字を見て、小さく頷いた。


「一つください。」


――――――――――――――――――――


帰り道。


紙袋の中で瓶が小さく音を立てる。


からん。


からん。


その音を聞きながら歩く。


空はよく晴れていた。


――――――――――――――――――――


夕方。


パンを焼く。


ジャムの蓋を開ける。


ふわりと香りが広がる。


ナイフで少しだけすくう。


焼きたてのパンへ塗る。


一口。


「……。」


甘い。


そのあとで、少しだけ酸っぱい。


思わず笑う。


「好きかも。」


部屋には誰もいない。


でも、その言葉は自然に出た。


――――――――――――――――――――


夜。


配信。


「こんばんは。」


『こんばんは!』

『今日は何してた?』


「買い物。」


『何買ったの?』


「ジャム。」


『かわいい』

『何味?』


「秘密。」


『なんでw』


私は少し笑う。


「まだ今日だけの味だから。」


コメント欄が少し静かになる。


『今日だけ?』

『どういうこと?』


私は首をかしげる。


「あ。」


少しだけ困ったように笑った。


「うまく言えなかった。」


『あるあるw』

『伝わるような伝わらないような』

『食べ物あるあるってことにしとこう』


「うん。」


そのままゲームを始めた。


話題は自然に流れていった。


――――――――――――――――――――


配信が終わる。


食器を洗う。


ジャムの瓶を棚へ戻す。


ラベルには「期間限定」と書かれていた。


また来年も売るかもしれない。

売らないかもしれない。


私は知っている。


でも、今日食べた一口は、今日だけだった。


「また明日。」


小さく呟く。


瓶は何も答えない。


――――――――――――――――――――


寝る前。


窓を少しだけ開ける。


夜風が入ってきた。


昼とは違う匂いがする。


私は一度だけ深呼吸をした。


今日の空気だった。


明日の空気とは、少し違う。


それだけで十分だった。


布団へ入る。


静かに目を閉じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ