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第七話 季節のはじまり

朝。


カーテンを開ける。


風が変わっていた。


夏の匂いが少しだけ薄くなっている。


「……秋かな。」


まだ暑い。


でも、空は少し高かった。


――――――――――――――――――――


朝ごはんを食べながら、スマートフォンを見る。


今日の予定。


昼に打ち合わせ。


夜に配信。


いつも通りだった。


その下に、小さくメモがある。


 梨。


「帰りに買おう。」


自分で書いた文字を見て、小さく笑う。


――――――――――――――――――――


打ち合わせは早く終わった。


事務所を出る。


駅前の八百屋さん。


店先に段ボールが並んでいる。


ぶどう。


りんご。


そして梨。


「こんにちは。」


店主のおじさんが顔を上げる。


「こんにちは。」


「今年の梨、甘いよ。」


「そうなんですか。」


「昨日食べた。」


「じゃあ、一つください。」


紙袋を受け取る。


少し重い。


それがなんだか嬉しかった。


――――――――――――――――――――


帰り道。


歩きながら紙袋を揺らさないように持つ。


信号を待つ。


隣に、小さな女の子が立っていた。


紙袋を見上げる。


「なし?」


「うん。」


「おいしい?」


私は少し考える。


「たぶん。」


女の子は笑う。


「まだ食べてないの?」


「まだ。」


「じゃあ、楽しみだね。」


「……うん。」


信号が青になる。


女の子はお母さんと手を繋いで渡っていく。


私は少しだけ、その後ろを歩いた。


――――――――――――――――――――


夜。


配信。


「こんばんは。」


『こんばんは!』

『今日なんか元気?』


「そう?」


『なんとなく』

『声が明るい』


私は少し首をかしげる。


「梨買った。」


一瞬だけコメントが止まる。


『www』

『かわいい理由だった』

『梨好きなんだ』


「好き。」


『食べた?』


「まだ。」


『楽しみじゃん』


「うん。」


その一言だけ、少しだけ早く返事をした。


――――――――――――――――――――


配信が終わる。


キッチンへ行く。


梨を洗う。


包丁を入れる。


しゃり。


静かな音がした。


一切れ。


口へ運ぶ。


「……。」


甘い。


冷たい。


少しだけ目を閉じる。


「今年も美味しい。」


誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。


――――――――――――――――――――


窓の外では、虫の声が聞こえていた。


夏が終わる。


秋が来る。


それも知っている。


毎年知っている。


それでも、


今年の梨は、今年しか食べられない。


私はもう一切れ食べる。


少しだけ嬉しくなって、


そのまま静かに笑った。

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