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第五話 少しだけ遠回り

休日の午後。


窓を開けると、少しだけ風が入ってきた。


涼しい。


「……歩こうかな。」


特に理由はない。


家でのんびりしていてもよかった。


でも今日は、外を歩きたい気分だった。


帽子をかぶって、家を出る。


――――――――――――――――――――


住宅街をゆっくり歩く。


いつもの道。


角を曲がれば駅。


その手前にコンビニ。


さらに少し歩けばパン屋さん。


歩き慣れた景色だった。


信号が青になる。


一歩踏み出しかけて、


止まる。


「……。」


横断歩道の向こうを見る。


小学生くらいの男の子が、ランドセルを背負って走ってきていた。


私は一歩下がる。


男の子が走り抜ける。


信号はまだ青だった。


「元気だなぁ。」


それだけ思って、歩き始める。


――――――――――――――――――――


今日はパン屋には寄らなかった。


ガラス越しに中を見る。


お客さんが何人か並んでいる。


「また今度。」


小さく笑って通り過ぎる。


――――――――――――――――――――


そのまま公園へ。


ベンチは空いていた。


座る。


自動販売機で買った麦茶を飲む。


冷たい。


目の前では、小さな女の子がシャボン玉で遊んでいた。


一つ。


二つ。


三つ。


風に流されていく。


そのうち一つがこちらへ飛んできた。


私の膝の前で、ぱちん、と消える。


「こんにちは。」


隣から声がした。


顔を上げる。


犬を連れたおじいさんだった。


「こんにちは。」


「いつもここにいるね。」


「たまに、です。」


「そうだったかな。」


おじいさんは笑う。


犬も尻尾を振る。


「この子、人が好きでねぇ。」


犬が近寄ってくる。


私は少しかがんで頭を撫でた。


「いい子だね。」


犬は満足そうに目を細めた。


それだけだった。


おじいさんは会釈をして歩いていく。


私も麦茶をもう一口飲んだ。


――――――――――――――――――――


夜。


配信。


『こんばんはー!』


「こんばんは。」


『今日は何してたの?』


「散歩。」


『また?』


「また。」


『歩くの好きなんだね』


「うん。」


『どこまで?』


「公園。」


『何かいた?』


私は少し考える。


「犬。」


『犬w』

『猫じゃなかった』

『今日は犬の日』


「今日は犬の日だった。」


コメント欄が笑う。


『便利な言葉w』

『また出た』

『その言い方好き』


「ふふ。」


――――――――――――――――――――


配信が終わる。


机の上に帽子を置く。


ポケットからレシートが一枚出てきた。


麦茶。


一本。


財布へ入れようとして、


やめた。


そのままゴミ箱へ入れる。


「おやすみ。」


部屋には誰もいない。


それでも、そう言って電気を消した。

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