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第四話 いつものパン屋さん

休日だった。


目覚ましをかけない朝は静かだ。


カーテンを開ける。


空は青い。


「洗濯しよう。」


洗濯機のボタンを押して、お湯を沸かす。


コーヒーにしようか。


少し迷って。


今日は牛乳を温めた。


――――――――――――――――――――


昼前。


洗濯物を取り込んで、近所を歩く。


風が気持ちいい。


目的はない。


散歩みたいなものだった。


歩いているうちに、見慣れたパン屋さんが見えてくる。


「あ。」


そういえば。


久しぶりだった。


扉を開ける。


小さなベルが鳴る。


「いらっしゃい。」


店主のおばあさんが笑った。


「こんにちは。」


「今日は遅かったねぇ。」


「そうですね。」


自分でも少し笑う。


遅かった、と言われるほど通っていた覚えはない。


でも、このお店ではそうらしい。


――――――――――――――――――――


棚を見る。


クロワッサン。


あんパン。


メロンパン。


焼きたての食パン。


今日はどれも美味しそうだった。


「クロワッサン、一つください。」


「はいよ。」


袋に入れてもらう。


受け取る。


「あら。」


おばあさんがレジの横を見た。


「また猫ちゃん来てる。」


店の外。


窓際の日陰に、一匹の茶トラが丸くなっていた。


「最近よく来るの。」


「そうなんですか。」


「この子がいる日は、お客さんもなんだか笑って帰るのよ。」


「ふふ。」


私は少しかがんで猫を見る。


猫もこちらを見る。


少しだけ目が合って。


興味をなくしたように、また丸くなった。


「じゃあ、また。」


「ありがとうね。」


――――――――――――――――――――


帰り道。


公園のベンチへ座る。


袋を開ける。


まだ少し温かい。


一口。


「……美味しい。」


風が吹く。


葉っぱが揺れる。


遠くで子どもが笑っている。


そのくらいしか音はなかった。


――――――――――――――――――――


夜。


配信開始。


「こんばんは。」


『こんばんは!』

『今日は休みだった?』


「うん。」


『何してたの?』


「散歩。」


『健康的』

『えらい』

『どこ行ったの?』


「パン屋さん。」


『あ、この前言ってたパン屋?』


「そう。」


『クロワッサン?』


私は少し笑った。


「今日はクロワッサンが美味しかった。」


『今日"も"じゃないんだw』

『今日は、なんだw』

『その言い方好き』


「なんとなく。」


コメント欄は笑って流れていく。


誰も気にしない。


私も気にしない。


――――――――――――――――――――


配信が終わる。


机の上に、パン屋さんの袋が置いてあった。


小さなスタンプカードが入っている。


十個たまると、一つ好きなパンがもらえるらしい。


押されていたスタンプは、九個。


「あと一つ。」


財布へしまう。


そのまま部屋の明かりを消した。

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