第十三話 知らないままで
朝。
目を覚ます。
窓の外が明るい。
時計を見る。
七時四十八分。
今日は早い。
布団から出る。
カーテンを開ける。
昨日買った花が見える。
少しだけ開いていた。
「おはよう。」
花に言う。
返事はない。
当然だった。
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朝食を作る。
卵を焼く。
火を止める。
皿へ移す。
少しだけ半熟だった。
「いい感じ。」
トーストと一緒に食べる。
昨日より美味しい。
昨日と同じ卵なのに、今日は少し違った。
私は気にせず食べる。
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家を出る。
今日は事務所へ行く日だった。
駅まで歩く。
信号が赤になる。
止まる。
隣に小学生が二人並んだ。
片方が何か話している。
「昨日のあれさ」
「うん」
「やっぱり――」
信号が青になる。
二人は走っていく。
私は歩く。
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駅。
電車に乗る。
座席は空いていなかった。
立つ。
窓を見る。
流れていく景色を眺める。
同じ景色を何度も見ている。
それでも今日は今日だった。
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事務所。
「おはようございます。」
「おはよう。」
スタッフが何人かいる。
机の上に紙が置いてある。
確認する。
今日の予定。
明日の予定。
来週の予定。
私は一枚めくる。
「これ、変更になりました?」
「はい。昨日連絡が来まして。」
「分かりました。」
紙を戻す。
「ありがとうございます。」
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昼。
近くの店へ行く。
定食を頼む。
焼き魚。
ご飯。
味噌汁。
小鉢。
いつものような組み合わせだった。
「いただきます。」
魚を食べる。
少し塩辛い。
ご飯を食べる。
ちょうどいい。
味噌汁を飲む。
熱い。
「熱い。」
隣の席から、小さく笑う声がした。
私はそちらを見る。
知らない女性だった。
目が合う。
「すみません。」
「いえ。」
それだけだった。
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午後。
仕事を終える。
帰りに本屋へ寄る。
目的はなかった。
棚を見る。
小説。
雑誌。
料理本。
旅行雑誌。
一冊の本を手に取る。
表紙を見る。
裏を見る。
少しだけ読む。
面白そうだった。
買う。
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店を出る。
袋を持つ。
歩く。
途中で小さな公園を通る。
昨日とは違う公園だった。
ベンチに誰もいない。
少しだけ座る。
買った本を袋から出す。
一ページ目を開く。
数行読む。
閉じる。
「帰ってから。」
本をしまう。
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家。
夕食。
簡単に済ませる。
昼に買った魚の残りを温める。
少し焦げた。
「……。」
食べる。
苦くはない。
そのまま食べる。
洗い物をする。
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夜。
配信。
「こんばんは。」
『こんばんはー』
『今日なにしてた?』
「仕事。」
『真面目』
「あと、本買った。」
『何の本?』
私は机の横を見る。
袋から本を取り出す。
「……忘れた。」
『買ったばっかりなのにw』
「そういうこともある。」
『ないよw』
「あるよ。」
『じゃあ、読んだら教えて』
「うん。」
『まだ読んでない?』
「少しだけ。」
『どんな感じ?』
私は少し考える。
「面白そう。」
『感想ふわっとしてるw』
「まだ途中だから。」
『そりゃそうだ』
コメントが流れる。
私は笑う。
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配信が終わる。
本を机の上に置く。
しばらく眺める。
タイトルは分かる。
著者も分かる。
どんな話なのかも分かる。
でも、今日は思い出さない。
本を開く。
一ページ目。
知っている文章。
知っている展開。
それでも読む。
ページをめくる。
次のページ。
まためくる。
知っている。
でも、今は知らない。
そのつもりで読む。
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しばらくして、本を閉じる。
しおりを挟む。
時計を見る。
遅い時間だった。
電気を消す。
布団へ入る。
目を閉じる。
今日のことを思い出す。
卵。
電車。
焼き魚。
知らない人。
知らない公園。
買ったばかりの小説。
知らないことがいくつかあった。
知っていることも、いくつかあった。
私は少し考える。
「……まあ、いいか。」
目を閉じる。
今日は、それでよかった。
おやすみ。




