第十二話 試してみる
朝。
トースターの前に立つ。
パンを一枚入れる。
焼き時間を設定する。
昨日より少し短い。
「これくらい。」
ボタンを押す。
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待っている間に紅茶を淹れる。
お湯を注ぐ。
湯気が上がる。
トースターを見る。
まだ。
紅茶を見る。
まだ。
もう一度トースターを見る。
まだ。
「長い。」
誰に言うでもなく呟く。
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ぱちん。
パンが出てくる。
取り出す。
昨日より薄い色だった。
匂いも少し違う。
半分に割る。
一口。
「……。」
普通に美味しい。
もう一口。
今度は端の方を食べる。
少しだけ硬い。
「こっちは昨日の方がいい。」
昨日は焦げたところを削った。
今日は焦げていない。
それでも、昨日の方が好きだった。
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紅茶を飲む。
パンを食べ終える。
皿を洗う。
いつも通り。
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昼。
スーパーへ行く。
入口のところに、季節限定の商品が並んでいた。
小さな箱。
見慣れないお菓子だった。
手に取る。
裏を見る。
原材料。
内容量。
値段。
戻す。
もう一度手に取る。
「……。」
買う。
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帰宅。
箱を開ける。
小さな焼き菓子が四つ入っていた。
一つ食べる。
甘い。
二つ目。
少し違う。
三つ目。
同じ味だった。
「そうだよね。」
最後の一つは、紅茶と一緒に食べる。
さっきより美味しく感じた。
「これ。」
小さく頷く。
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午後。
仕事の連絡を確認する。
返信する。
配信の予定を見る。
今日は夜だけ。
それまで時間がある。
ソファに座る。
テレビをつける。
興味のない番組だった。
消す。
窓を開ける。
外から風が入る。
今日は少し暖かい。
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夕方。
散歩へ出る。
目的地はない。
しばらく歩く。
昨日とは違う道を通る。
小さな花屋があった。
店先に花が並んでいる。
足を止める。
黄色い花。
白い花。
紫の花。
名前は分からない。
しばらく眺める。
「綺麗。」
店の人がこちらを見る。
「どうぞ、見ていってください。」
「はい。」
それだけ答える。
買う予定はなかった。
でも、黄色い花を一輪だけ買った。
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帰宅。
小さな花瓶へ入れる。
水を入れる。
テーブルへ置く。
いつもの部屋に、黄色が一つ増えた。
少し眺める。
「いいかも。」
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夜。
配信。
「こんばんは。」
『こんばんはー』
『今日は何してた?』
「お菓子食べた。」
『また食べ物w』
「あと、花を買った。」
『珍しい』
「黄色いやつ。」
『なんて花?』
私は花瓶を見る。
「知らない。」
『知らないんかいw』
「名前、見なかった。」
『そこは見ようよw』
「綺麗だったから。」
『理由がシンプル』
「うん。」
コメントが流れていく。
『そういうの好き』
『名前知らない花買うのなんか良いな』
私は少し笑う。
「ありがとう。」
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配信が終わる。
花を見る。
名前は知らない。
明日には少し開くかもしれない。
もう少し咲くかもしれない。
それとも、あまり変わらないかもしれない。
私は知っている。
でも、今の花は今しか見られない。
スマートフォンを取り出す。
写真を一枚撮る。
ちゃんと明るく撮れた。
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寝る前。
花瓶の水を少しだけ替える。
黄色い花が揺れる。
私はその花を見ながら思う。
知らないものがあるのは、悪くない。
知っているものを確かめるのも、悪くない。
どちらも、実際にやってみないと分からないことがある。
布団へ入る。
目を閉じる。
今日食べたお菓子の味を思い出す。
花の色を思い出す。
朝のパンも思い出す。
全部、今日のものだった。
「おやすみ。」
明かりを消す。




