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電話の向こうは、誰ですか~入電履歴は語らない~  作者: 凪砂 いる
第三章|いないはずのアカウント

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履歴の裏にあるもの

 次の日も、鈴村はモニターの前で眉間に皺を寄せ、共用ファイルを舐めるように見ていた。

 その奥にひっそりと、『保守用仮想端末権限一覧』というファイルを見つけ、開く。


 ——この中のメンバーで、心当たりがありそうなメンバーは、いるか?


 仮想端末に現在アクセスできる人物は、限られている。

 

 ——センター長。飄々としていて現場に近いが、果たして声は拾えているか?

 ——主任。理屈っぽい堅物。何事も理論で押すタイプの人物が、案件に感情を残す?

 

 そして、当時の管理者ひとりひとりの顔を、鈴村は思い浮かべる。


 ——辞めた管理者は、心残りを持っているメンバーもいるだろうが、果たして、そこまでやるか?


 そして、今もいる古株の管理者を見渡す。

 鈴村はすぐに「ありえない」と思いたかった。


 技術的には可能だが、果たして浅見になりすましてまで、浅見のような履歴を残す熱量のある人物はいるだろうか、いや——いない。

 履歴はただのなりすましにしては目的が違う。

 松明のように見落としをつなぎ合わせて照らせる——悪意ではなく、そのような文言を書ける人物。


 フリーデハイムに、そこまで向き合っていた、誰か?

 鈴村は首を振り、柊花へ声をかける。


 「深野さん、浅見さん名義の履歴を時系列順にまとめてください」

 「わかりました——ちょっとやってみます」


 柊花は、フリーデハイムの履歴から浅見名義の履歴を時系列順にメモへ残す。

 最初に見た時はただ不気味だと思っていた履歴も、柊花が対応した案件以外にまで、松明のように灯っていた。

 まとめていくと、ピースが繋がっていく——そんな感覚だ。


 騒音・迷惑駐車・共用部私物化。


 ほぼそのような案件で埋まっているフリーデハイム。

 浅見名義の履歴は、全て一歩先を照らしていた。導くように。


 (この履歴が浅見さんじゃないなら、誰がこんな風に書いたんだろう。まるで松明じゃない)


 柊花は、鈴村にチャットでまとめたメモを送り、鈴村の横に来て、声を落とす。


 「これ、嫌がらせにしては親切すぎます——繋がっています」


 まとめられた浅見名義の履歴は、まるで道案内をしているようだった。

 

 鈴村は、送られてきたメモを改めて読み返す。

 どの案件の履歴も、一歩先の違和感を的確に指している。

 

 鈴村は共用ファイルを再び開き、引き継ぎメモを探す。


『浅見_引き継ぎ』


 ファイルの中のデータをひとつずつ見る。

 細かく引き継ぎが残されている。なんとも浅見らしい。


 鈴村が口を開く。


 「履歴は浅見さんの文体に似せているんじゃない。浅見さんが残した何かを読んでいるんだと思います」


 柊花がはっとした表情をする。——それなら、誰でもできる。そう言いたげだった。


 引き継ぎファイルの中には数々のメモが残されていた。

 『未処理懸念メモ_浅見』

 『フリーデハイム対応まとめ』

 『要注意物件メモ』

 『浅見_引継ぎ補足』


 その中から、未処理懸念メモを開く。

 フリーデハイムだけ異様に細かいデータが残されていた。


 「403:孤立傾向と思われる。謝罪が多い。自責が強い」

 「402:オーナー親族の可能性。この部屋の件では管理会社藤村さん歯切れ悪い」

 「303:高圧的。402と関係あり。若い男性。何かにつけ言質を取ろうとする。迷惑駐車苦情多数」

 「301・405:周辺住民も不安あり」

 「騒音として処理するには危険。他にも迷惑駐車・共用部私物化など懸念事項あり」

 「誰かが、403を黙らせようとしている恐れ(藤村さん不在時、管理会社の他の方に連絡した際、濁すような感じで伺う)」

 

 次に、引き継ぎ補足メモを開く。

 

『藤村さんへ連絡するも、常に歯切れ悪いです。別の方(藤村さん上司?)に連絡した際、何か隠しているような感じで切られました』


 他のファイルも、フリーデハイムに関しては多数メモが残されていた。


 「浅見さん……よっぽど心残りだったのでしょうね」


 柊花が呟くと、鈴村も頷き、ぽつりと声を落とす。


 「ここまで声を残していても、誰も開いていない——いや、違う……ひとまず、話は昼休みの後に」

 「ですね。昼からにしましょう」


 今日はふたり一緒に昼休み行動することはなかった。それぞれ、思いにふけりたい——そう思っていた。


 柊花は軽く済ませようと、駅前のカフェでコーヒーとサンドイッチを頼み、外に面したカウンター席へ腰を下ろす。

 何か気を紛らわせるかのようにスマホを無造作にいじりながら、コーヒーを口にする。


(鈴村さんは何か気づいたみたいだった)


 そう思いを巡らせ、サンドイッチを齧る。引き継ぎメモの残し方は、浅見の仕事への向き合い方を改めて感じた。


(浅見さんは——どの案件にも詳しくて、いろいろ教わったな)


 ひとつ思いを巡らせ、コーヒーやサンドイッチを口にする。

 そして、店の外をいそいそと行き交う人々を、柊花はぼうっと見ていた。


 会社へ戻る前に、コンビニでアイスコーヒーを買い、エレベーターで戻る。

 エレベーターの往来が、今日はやけに遅く感じた。


 バッグをロッカーへ片付け、アイスコーヒーを持って執務室へ戻ると、既に鈴村がモニターの前で何か物思いにふけっていた。


 「鈴村さん、戻りました。——大丈夫ですか?」


 柊花は鈴村の顔を覗き込むように見る。鈴村は肩をびくりとさせ、声を上げる。


 「ふ、深野さん……! いえ、大丈夫です。それより、これを見てください」


 鈴村が指さす先には、浅見の引き継ぎファイルへのアクセス履歴があった。


 【最終閲覧日時:2026/6/10 03:14】

 【閲覧元:保守用仮想端末】


 その一分後、浅見梓の名前で、履歴が残されていた。


 「やっぱり、浅見さんのメモを見て——?」


 柊花が呟くと同時に鈴村が頷く。やけに周りの時間がゆっくり流れているように感じた。

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