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翌朝

バウマンが来たとき、アーデルハイトは既に文書を用意していた。


バウマンは読んで、二度読んで、顔を上げた。


「積立金の書状が記録保管庫にあるとすれば、会計検査局の査察と並行して確認できます」


「お願いします」


「クルト殿が誤記処理を命じた相手が誰か、当局の調査より先にわかる可能性があります。会いましたね、昨日」


「会った」


「それを当局に伝えますか」


「伝えます」とアーデルハイトは即座に言った。「隠したら数字が合わなくなる」


バウマンは少しだけ、ほんの少しだけ表情が柔らかくなった。補佐官としてではない顔だった。


「ひとつだけ、私見を申し上げても?」


「どうぞ」


「クルト殿は恐らく、枢密院か法務局の誰かを経由して誤記処理をさせました。その人物は今、自分の名前が出てくることを知っています。会計検査局が動き、法務局が動き、そして当主が会合を持った。情報は速い」


アーデルハイトはライ麦パンを切りながら聞いていた。


「つまり?」


「相手が動く前に、こちらが全部出し切った方がいい。隠せば隠すほど後でやっかいになる。それが本家国の記録の仕組みです」


「知ってます」とアーデルハイトは言った。「だから最初から全部記録している」


バウマンはパンを受け取りながら「最初から、というのはいつからですか」と訊いた。


「クルトの返事が来た日から」


「……準備がいいですね」


「パン屋は数字が命です」とアーデルハイトは言った。「在庫が合わない日は眠れない。それだけのことです」


---


*その日の午後、法務局から二通目の書状が届いた。誤記処理に関与した記録保管庫担当職員一名が、自発的に上申書を提出したとの通知だった。上申書の中に、依頼者として別の名前があった。クルトの名前ではなかった。アーデルハイトはその通知を読んで、手帳を開いた。数字がまた一つ、合い始めていた。*


---


## 上申書の名前


法務局から届いた通知が言っていた名前は、枢密院事務局の議事整理課に所属する中堅職員のものだった。


バウマンが調べた結果を持ってきたのは、上申書の翌々日だった。


「レオンハルト・ドレーア、議事整理課・第三係。建国百八十五年から百九十七年まで在職。フォン・ヴァルトブルク家の爵位継承手続きが本来であれば枢密院に上申されるべき案件だった際、その上申を受理せず書類を差し戻した記録があります。三回とも」


「なぜ受理しなかったの」


「差し戻しの理由として記録されているのは、いずれも『様式不備』です。ただし様式の何が不備だったかは記録されていません」


アーデルハイトは手帳に書いた。「ドレーアはクルトと知り合いだったの?」


「直接の接点は現時点で確認できていません。ただし」とバウマンは少し間を置いた。「ドレーアの義兄が、フォン・ヴァルトブルク家の弟系と旧知の間柄です。建国百八十年代に共同で農地の取引をしている記録があります」


アーデルハイトはしばらく書いた数字を眺めた。


義兄。旧知。農地取引。様式不備。三回。


「直接の証拠はない」


「今のところは。会計検査局が追っています」


「ドレーアは今どこにいる?」


「既に退職しています。建国百九十七年。上申書を出した職員は現役の記録保管庫職員で、ドレーアに口頭で指示されたと述べています。ドレーアの指示の背後に誰がいたかは、まだわかっていません」


アーデルハイトは手帳を閉じた。


「わかりました」


「係争を続けますか?」


「続けます。ただし」と彼女は言った。「並行して聞いておきたいことがある」


バウマンは鞄を膝に置いたまま待った。


「廃家の手続きは、どこに申請するの?」


バウマンは一瞬だけ表情が止まった。補佐官としての表情が追いつくより先に、人間の顔が出た間だった。


「……法務局・継承規定課です。様式第百二号、貴族家廃家申請書。ただし」


「ただし?」


「廃家は係争中には申請できません。係争の結論が出てから、当主の自由意思による申請が必要です。全財産と負債が王室に帰属します。土地台帳局・財務局・宮内局の三局が関与する複合手続きで、完了まで通常六ヶ月から一年かかります」


「係争が終わってから」


「はい」


アーデルハイトは窯の方を見た。今日の午後に焼く分の生地がある。


「わかりました。覚えておきます」


---


## 二ヶ月後・係争の結論


ランゲ上席審査官から書状が届いたのは、初雪の三日前だった。


内容は長かったが、要点は三つだった。


第一に、クルト・フォン・ヴァルトブルクは継承規定第十四条違反で処分を受ける。ただし誤記処理の主導者はドレーアであり、クルトの違反は従属的なものと判断された。


第二に、ドレーア・レオンハルトと義兄の関与については、農地取引における不正な便益供与の疑いで別件調査が開始される。フォン・ヴァルトブルク家の案件との直接の因果関係は、現時点では立証に至らなかった。


第三に、アーデルハイト・フォン・ヴァルトブルクの当主としての地位は確定し、記録保管庫に正式に登録される。積立金の書状は本人に開封・受領される。


アーデルハイトは書状を三回読んだ。それから手帳を開いて、数字をもう一度確認した。


合っていた。すべて合っていた。


初めて合った日のことを、パン屋の娘は長く覚えているだろうと思った。


---


## 積立金の書状


記録保管庫でクルトが預けた書状を開封したのは、バウマンと、ランゲ上席審査官の立会いの下だった。


封の中には二枚の紙が入っていた。


一枚は銀貨二千分の預り証と、引き出し手続きの説明。


もう一枚は手紙だった。行政語ではなく、普通の文章で書かれていた。


*「あなたがこれを読む頃には、私は処分を受けているか、あるいは既に死んでいるかもしれない。どちらでもかまわない。*


*兄カールはあなたが生まれた日の夜、私に言った。この子には何も渡せないかもしれないが、記録だけは消さないでおいてやりたい、と。*


*私は兄の遺言を半分しか守れなかった。記録は消えなかったが、あなたに届くのが遅くなった。それは私の判断の誤りだった。*


*残った半分を、せめてこれで果たしたいと思っている。*


*フォン・ヴァルトブルクの名前をどうするかは、あなたが決めることだ。」*


アーデルハイトは手紙を読み終えて、テーブルに置いた。


ランゲは何も言わなかった。バウマンも何も言わなかった。


アーデルハイトは少しの間、紙を見ていた。


「ありがとうございます」と彼女は言った。立会い二人に向けて言ったのか、手紙に向けて言ったのかは、自分でもわからなかった。


---


## 夜・父と話す


その夜、ハンスに手紙を見せた。


ハンスは読んで、返した。


「どうする」


「考えてる」とアーデルハイトは言った。「廃家すれば、土地も積立金も全部王室に行く。私はアーデルハイト・クレッツマーに戻る。ここでパンを焼く」


「それでいいのか」


「よくないとも言えない。よいとも言えない」


ハンスは黙って聞いていた。


「伯爵家を持ち続ければ、領地の管理義務が発生する。私は領地を見たこともない。管理できる人間を雇う費用も今はない。名前だけ持って首都でパンを焼いていても、数字が合わない」


「じゃあ廃家か」


「それも合わない」とアーデルハイトは言った。「二千の積立金は父さんの姉が産んだ私のために、十七年間積まれたものだ。クルトが間違いを犯しながらも積み続けたものだ。それを全部王室に渡すのが、帳尻として正しいのかどうか」


ハンスは少し考えてから言った。「それは数字の話じゃないな」


「うん」とアーデルハイトは認めた。「数字じゃない部分がある」


二人はしばらく黙っていた。窯が静かに鳴った。


「お前の母親は」とハンスは言った。「お前が物心ついた頃からいなかったが、パン屋の女だった。粉まみれで、毎朝四時に起きて、数字が合わない日は眠れないと言っていた。姉さんとよく似た人を選んだんだろうと、今になって思う」


アーデルハイトは何も言わなかった。


「どっちを選んでも」とハンスは言った。「お前は明日の朝四時に起きるだろう」


「そうだね」


「それだけわかっていれば、どっちでも同じだ」


アーデルハイトは立って、明日の仕込みの確認をした。小麦粉の残量、薪の量、釣り銭を数える。


全部合っていた。

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