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王都への帰路


一行が王都に着いたのは出発から九日後だった。

テオドール・フォン・リンデンベルクは馬から降りる時に書記官の手を借りた。六十六歳の体に九日間の旅は重かったが、本人はそれを言わなかった。代わりに宿の部屋で記録の整理を始めた。

翌朝、各自が散じた。アンナは東南部への帰路についた。ヨハンは北へ。代理人たちはそれぞれの主人への報告に向かった。

カロリーネだけが、王都に残った。

エリザベータへの報告は、前回と同じ散策路ではなかった。

今回はカロリーネが様式通りに謁見申請を出し、エリザベータが執務室で受けた。記録官が同席した。正式な面会だった。

「ご報告申し上げます。クラウス・フォン・ロッテンブルク侯爵への訪問は完了しました。侯爵は面会に応じました。諸侯議長の問いかけに対し、反応がありました」

「反応の詳細は」

「テオドール・リンデンベルク侯爵の書記官が記録しています。視察報告書として諸侯会議名義で提出します」

「反応の内容を口頭でお聞きしても」

「侯爵の左手がわずかに動きました。また、テオドール侯爵が話しかけた際、視線が向いたことが確認されています。以上が記録に残ることです」

エリザベータは少し考えた。

「記録に残らないことで、ご報告いただけることはありますか」

カロリーネが一拍置いた。

「気づいています」

「侯爵が」

「はい。自分の状況が何を引き起こしているか。それに気づいている目でした。ただし、それは私の判断であって、記録にはなりません」

エリザベータは記録官の羽根ペンが動くのを見ていた。羽根ペンはカロリーネの言葉通りに、記録にならないことは書かなかった。

「ありがとうございます、カロリーネ侯爵」

「以上が報告です」

カロリーネが立ち上がりかけた時、エリザベータが言った。

「視察にご参加いただいた四名の侯爵と代理二名のお名前は、諸侯会議の記録に残ります」

「はい」

「残ります。それだけです」

カロリーネが一礼して退出した。

扉が閉まった後、マリアンネが言った。

「記録に残るだけで十分なのですか」

「今は十分です」

「今は、というのは」

「次が来ます」

エリザベータは書類に目を落とした。何がいつ来るかを言葉にしなかった。言葉にする根拠がなかったからではなく、言葉にする必要がなかったからだった。

次は、十二日後に来た。

財務局の朝の受付に、ロッテンブルク侯爵領からの書状が届いた。

一通ではなかった。

二通、同時に。

受付担当者が両方を手に取って、表書きを確認した。様式番号が記されていた。どちらも同じ番号だった。

様式第三〇一号。

当主死亡届。

担当者が上司を呼んだ。上司が局長補佐を呼んだ。局長補佐がフェリックス・ヴォルフのいる財務局長室に走った。

フェリックスが署名欄を確認した。

最初の一通。署名:ルードヴィヒ・フォン・ロッテンブルク(嫡男・家督継承者)

次の一通。署名:ハンス・グリュン(ロッテンブルク侯爵領家宰・暫定管理者)

どちらにも、クラウス・フォン・ロッテンブルクが死亡したと書かれていた。

日付は同じだった。

クラウス侯爵が逝去したという事実については、二通の内容が一致していた。それ以外の全てが、異なっていた。

ルードヴィヒの書状には「嫡男として家督を継承し、速やかに条約義務を履行する」と記されていた。

グリュンの書状には「当主の遺言により家宰が暫定管理を行い、継承手続きについては改めて通知する」と記されていた。

フェリックスは二通を並べて、しばらく見ていた。

「遺言書の有無は」

「いずれの書状にも添付がありません」

「ルードヴィヒの継承を支持する文書は」

「ありません」

「グリュンの暫定管理を認める委任状は」

「ありません。当主はすでに死亡しているため」

フェリックスが目を細めた。

「当主の署名は取れない」

「はい。今回は」

局長補佐が最後の言葉を飲み込んだが、飲み込んだ後に漂ったものは消えなかった。

今回は、署名を取れる当主がいない。

エリザベータのもとに報告が届いたのは昼前だった。フェリックスが二通を持参してきた。

マリアンネが茶を置いた。エリザベータは二通を並べて読んだ。一度で済んだ。

「またですか」

「またです」

「今回は当主の署名がない分だけ、前回より問題が明確です」

「そうです」

フェリックスが続けた。

「当主死亡届の受理と継承者の認定は、通常は同時に処理されます。様式第三〇一号の受理と同時に、様式第三〇二号――継承確認通知を発行します。しかし今回は」

「継承者が誰かで書状が割れている」

「はい。様式第三〇二号の宛名を誰にするか、財務局の判断では確定できません」

エリザベータはしばらく二通を見ていた。

「ゲルハルト局長に確認してください。諸侯の家督継承の認定は、誰の権限ですか」

「お答えします」とゲルハルトが言った。

彼はすでにそこにいた。フェリックスが来る前に呼ばれていた。

「諸侯の家督継承の最終認定は、王権に属します。具体的には勅書の発行によって認定されます。これはロッテンブルク条款の適用外です。条款は自治権の範囲を定めていますが、継承認定は建国時の封爵権から派生する王権事項であり、条款によって制限されたことはありません」

「二百年の間に前例は」

「継承は通常、当主の遅滞なき届け出と明確な後継指定によって事実上確定されてきました。争いになった例は建国六十四年のオーバーハウゼン帰順前の時期に一件ありますが、その後は平穏です」

「建国六十四年の解決方法は」

「王命によって当時の王が後継者を指名しました」

エリザベータが二通から目を上げた。

「つまり、この二通はどちらも、現時点では仮の届け出に過ぎない」

「法的にはそうなります。継承が確定するのは勅書の発行後です」

「勅書の発行は」

「陛下の権限です」

部屋が静かになった。

国王陛下。エリザベータの父。現在の君主。エリザベータは王女であり、継承者であり、陪席者であり、執務を担っている者であったが、勅書を出す権限を持っていなかった。

「陛下への上奏が必要です」

「はい」

「上奏の準備をしてください」

フェリックスとゲルハルトが一礼した。退室する前に、ゲルハルトが言った。

「殿下。グリュン家宰の書状にある『遺言』について、確認の照会を出しますか」

「遺言書の写しの提出を求める様式はありますか」

「様式第三〇五号があります」

「出してください。ただし」

エリザベータが続けた。

「遺言書が存在しない場合、それも記録されます」

「存在する場合は」

「存在する場合は、内容によります」

ゲルハルトが退室した。

マリアンネが二通の書状を整えながら言った。

「今度は国王陛下のところまで行きますね」

「記録が、そこまで届きました」

「殿下はずっとそこに届くつもりでしたか」

エリザベータは次の書類を手に取った。

「届くかどうかを考えていたのではありません。記録が正しく積み上がれば、届くべき場所に届くようになっています。それだけのことです」

マリアンネが返答しなかった。

それが、今日という日への評価だとエリザベータには分からなかった。分からなくても、書類は次に進んだ。

翌朝、国王陛下への上奏文が起草された。

文面は一頁半だった。

経緯の記録。財務局の台帳。法務局の照会。枢密院の審議。諸侯会議の決議。視察の報告。そして二通の当主死亡届。

全て、様式番号がついていた。

全て、記録の中に存在していた。

上奏文の末尾に一行だけ、エリザベータが自分の手で書き添えた。

「ロッテンブルク条款の自治権の範囲は、継承認定に及びません。認定の権限が王権に属することを踏まえ、陛下のご判断を仰ぎたく存じます」

書き添えたことも、記録された。

書き添えなかったことは、記録されなかった。

それで十分だった。

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