捨て駒(前編)
九歳になった頃、ユージェニーヌに天才的なひらめきが訪れ、父セヴォールに彼女はお願い事をした。
「ねえ、お父様。いつもヴィヴィに優しくしなさい。欲しがるものはなんでも上げなさいと仰るでしょう? 私の物なら、なんでも欲しがるのだから、これからは私のドレスやアクセサリは、ヴィヴィの分も作っておいたらどうかしら。きっと喜んでくれるわ」
「なんと素晴らしい提案だ。お前が優しい子に育ってくれて、お父さんは嬉しいよ」
得意満面の提案を父は褒めてくれ、その通りにしてくれた。これで問題はすべて解決されると思い一安心だ。しかしその後、母ディアナにこっそりと忠告される。
「あのね。ユージェニーヌ。世の中には色々な人がいて、まったく違う考え方をする人もいるの。だから相手も喜んでくれるはずだという考えは、捨てなさい。理解できないことを相手がしたとしても、おかしいなんて決めつけることはせず、ただありのままを受け入れなさい」
この言葉を当時はよく理解できなかった。だが心に留め置いたことで、ヴィヴィを理解する一助となる。
◇◇◇◇◇◇
その年の夏は今までとは違い、少しうきうきした気分で、従姉妹のヴィヴィを出迎えると、彼女は一瞬だけ、ユージェニーヌの髪のリボンをじろりと見た。その後、ユージェニーヌの部屋をまるで猪のように漁りだした。
いつもの光景だ。
しかしドレスが二着ずつあるのに気が付くと、急に泣きながら怒りだしたのだ。ディアナに強引に部屋から連れ出され、廊下でその泣き叫ぶ声を聞いていると、「こんなものいらない」と喚いているようだ。
つまりは侯爵令嬢ユージェニーヌが特別にあつらえた一点物のドレスだから、奪う価値があるのであり、奪ったことで嫌な思いをさせるのが、目的だと激怒している。ヴィヴィの心の動きを、そろそろ理解する年頃にはなっている。だがあくまでも、それは知識としてであり、本心ではさっぱりわからなかった。
その後はすっかり機嫌が悪くなったヴィヴィが、部屋のものを壊し始めたため、会わせるのは危険と判断したディアナは、実家のレイコル伯爵家に向かった。
しかし家に戻るようにと、カロー侯爵家から何回も使者が来る。ユージェニーヌは熱を出して寝込んでいると断ると、出迎えた時に髪に結んでいたリボンを、ヴィヴィに渡すようにと父セヴォールが使者を寄越し、レイコル伯爵家の者は言葉を失った。
その日、ワンピースにつけていた、ホニトンレースの大きなつけ襟と豪華な袖、揃いのリボンは、カロー侯爵家に伝わるもので、家紋に使われている木蔦があしらわれている。欲しいからという理由で、外孫のヴィヴィに渡して良いものではなかった。
母方の祖父のレイコル伯爵が話を通してくれ、父方の祖父母のカロー侯爵夫妻が、孫のヴィヴィと息子のセヴォールが、おかしなことを言いだしているのを、たしなめて騒動は終わったように見えた。
そして安心して自分の部屋に戻ると、アクセサリなどを入れていた引き出しなどが、腹を立てたヴィヴィによって、滅茶苦茶にされているのが目に飛び込んできた。ここでユージェニーヌは、ヴィヴィのことを工夫して付き合う必要のある従姉妹から、用心しなければならない敵と思うようになったのだ。
◇◇◇◇◇◇
―――世の中から少しずれている父親と、気の弱い母親にはさまれて、それでもカロー侯爵令嬢ユージェニーヌの人生は、上手く回っていたと思う。
ほんの少し気がかりなのは、毎年、避暑の季節になると訪れる叔母とその娘の存在だ。叔母のサンドラは、当時話題をさらったほどの恋愛結婚で、王都から離れたジゴット子爵家に嫁いでいる。同性からもちやほやされる、か弱い雰囲気の美人だが、外見からは想像もつかないほどの、かしましい性格だ。
侯爵家で生まれ育ったサンドラは、誰からも大事にされている。なにしろ侯爵夫妻や、跡継ぎの兄から、特別に扱われているのだから、使用人も含めそれに習うのは当然だろう。そんなサンドラが産んだヴィヴィも、同じくお姫様として扱われていた。
問題はこの侯爵家には、文字通りのお姫様のはずのユージェニーヌと、その実母ディアナという将来の侯爵夫人がいるのだが、見向きもされないということだ。
ディアナは名門伯爵家の出身であり、もちろん大切に扱われているが、侯爵家内部では格下と見られている。それを調整するのが、夫のセヴォールの役目なのだが、彼は少しずれていた。
両親から刷り込まれた、「可愛い妹サンドラを大切にしなければならない」というのを、自分も結婚し子どもができた今でも守っているのだ。当主になる人物がそんなだから、家内はだんだん歪になっていった。
ユージェニーヌがはっきりとおかしいと確信したのは、従姉妹ヴィヴィにレースリボンを盗られそうになった件だ。それまでは子どもなりにこの事態を、なにか事情があるのだろうと、良い方に解釈しようと努力していた。だが用意したドレスに「こんなものいらない」と喚かれ、ユージェニーヌだけが身につけられるレースを執拗に盗ろうとした。
ヴィヴィの「欲しい」は「ユージェニーヌだけが持っている特別な物」が「欲しい」であり、「ずるい」は「ユージェニーヌと成り代わりたい」の「ずるい」だ。これではどうしたって衝突してしまう。
父親セヴォールや、この家の中の力関係を考えれば、ヴィヴィに完全服従して生きるのが、最も労力が少なくて済むが、無理なのだ。奪えないものまで奪おうとする父と従姉妹という条件込みで、これからどう生きるか、計画し準備せねばならなかった。
◇◇◇◇◇◇
ユージェニーヌとヴィヴィの関係は、基本的には財力と権力を使うことで、波風が立たないようにしていたが、どうやっても大荒れになる時期がやってきた。
それは同い年の二人が十六歳になり、王立学院に入学したからだ。実家の子爵家でも、そして寄宿している母親の実家カロー侯爵家でも、お姫様としてヴィヴィは過ごしている。伯父のセヴォールが社交界で連れ歩くため、侯爵家を後ろ盾に持った子爵令嬢としても顔が知られている。
だが学院のクラス分けは、低位貴族として四クラス中四番目になった。これにはヴィヴィもセヴォールも荒れて、学院に苦情をねじ込む騒ぎになる。
しかしその年の学院は、一年生に第三王子、三年生に第二王子が所属していて、二人は敵対派閥だった。当然、彼らの側近も各学年に多くいる。そのためクラスや教室、授業や講堂からなにからなにまで、ざっくりと第三王子派、第二王子派と二つ用意し各学年をふり分けていた。手間暇がかかり、慎重に扱わなければならないそんな状態で、地方の弱小子爵令嬢一人のために学院が動くわけがない。
ユージェニーヌは高位貴族用の一クラスで、第三王子と一緒だったため、そこでも「ずるい」「欲しい」が始まったが、元より無理な願いだ。今までなんでも思いどおりになってきたヴィヴィが、初めて壁にぶつかり始め、その葛藤は相当なものだった。そこへ、ユージェニーヌの婚約話が転がり込んできたのだ。
◇◇◇◇◇◇
その日、学院から戻り、ユージェニーヌが馬車から降りると、偶然にもヴィヴィも別の馬車から降りたところだった。子爵令嬢のヴィヴィが、侯爵令嬢のユージェニーヌに挨拶もせずに、表玄関から入ると、待ち構えていた侯爵家の使用人たちがいっせいに礼を執る。ヴィヴィはそのまま表階段を登り始め、使用人たちは一斉に先回りを始めた。
取り残されたユージェニーヌは、すっかり人気がまばらになった表玄関に入り、ちらほらと会釈する使用人の中にいた、今の光景を見て苦虫を噛みつぶしたような顔をしている、家令に声をかけられる。
「カロー侯爵閣下ならびにセヴォール卿が、お呼びでございます」
嫌な予感がしつつ執務室に向かうと、祖父と父親から婚約が締結されたと聞かされた。
「お相手はローラン伯爵家の次男レニエ殿だ。お前の婿養子になる」
ユージェニーヌは初っぱなから、空しい気持ちになるのを抑えられなかった。
「……お爺様。一つよろしいですか?」
「なんだ」
「ヴィヴィが私のものなら、なんでも欲しがるのはご存じですよね」
「そうだな」
「きっとこの婚約も欲しがるでしょう。そうなってから上げるくらいなら、最初から……」
「なんだその言い方は!」
ユージェニーヌと祖父が同時に、びくりと体を震わせた。セヴォールが突然怒鳴ったからだ。
「静かにしろ。セヴォール。確かに他人の婚約を欲しがるなど、品性下劣の極みだな」
「そうです。それを当てつけるような物言いをして。天使のようなヴィヴィが、そんなことをするわけないでしょう」
「……セヴォール。なんでも欲しがるのは事実だろう。そしてユージェニーヌが譲ってきたのも事実ではないか。ずっとお前の言いつけを守り、ヴィヴィに『優しく』してきたのに、本当のことを指摘しただけで責めるのか」
「言い方というものがあるでしょう」
「だが事実だ。それに言い方に問題があるとも思えない」
「まるでヴィヴィが、人の婚約者を寝取るかのような物言いではないですか」
セヴォールは乱暴に机を手のひらで叩き、その音が部屋の中に響き渡る。
「……セヴォール卿」
カロー侯爵が、静かに息子の名前を呼んだ。傍若無人な振る舞いをしていたセヴォールが、はっと我に返り居住まいを正す。
「セヴォール卿。ヴィヴィがなんでも欲しがるのは事実だ。だから今度の婚約も、最初からヴィヴィに上げてはどうだと、ユージェニーヌは言っている」
セヴォールは文句をつけたいのを、ぐっと我慢した。
「君が言葉遣いだのなんだの、細かいことに文句をつけるのならば、まずこの婚約をヴィヴィに知らせた時に、彼女がどう動くのかを見極めたまえ。その上で同じことを言えるのかどうか、見てみたいものだな」
妙に他人行儀な父親の言葉の意味を、よくわかっていないのだろう。まだ不満げな顔をセヴォールはしている。
すっかり諦めきっていたユージェニーヌだが、今日の祖父と父親の話の展開はなにか期待できそうだ。いや、やっぱり駄目だ。期待なんか、あとでがっかりするだけだ。そう思いながら、父親が立ち去るのを見て小さいため息をつく。次に起こることは決まっているのに、なぜこんな馬鹿らしいことに、付き合わないと行けないのだろう。
「お爺様。ですが結局、この婚約は解消され、そうなると私は傷物になるのではないでしょうか」
「すっかり自信をなくしてしまったな。バカ息子のせいで。安心しろ。お前は侯爵令嬢なのだ。婿養子などいくらでも手に入る。この世界がお前の味方だよ」
「大げさですわ」
「本当だよ。ユージェニーヌ」
侯爵は、温和な祖父の顔になり、ユージェニーヌはてっきり、孫を慰めるために、優しい大言壮語をはいたのだろうと考えた。そんな大げさな言葉、信じられる物ではない。だがそんなことよりも、自分のことを思ってくれる、その気持ちが嬉しかった。
部屋の外に出たセヴォールはまだ腹を立てていたが、後からこの会話を思い返すと、なぜあんなにまで父親からの苦言を聞き入れようとしなかったのか、つらつらと思い返すこととなった。
◇◇◇◇◇◇
その日、王宮の舞踏会にでるため、ユージェニーヌは母方の実家レイコル伯爵家にいた。自分の実家カロー侯爵家に、貴重品を置いておけないためだ。支度を整え、付き添いの祖父カロー侯爵を待っていると、そこに父セヴォールの従兄弟、ヘネラ公爵が現れた。公爵の母親は侯爵の姉だ。
「どうしたのですか。伯父様」
「カロー侯爵閣下に頼まれてね。今日は一日、君のエスコートだ。こんなおじさんで済まないね」
「とんでもない。心強い味方ですわ」
久しぶりの大きな舞踏会。本来エスコートするはずの父親がなにをしているのかというと、もちろん姪のヴィヴィの付き添いだ。敵愾心丸出しの二人を、社交の場で相手するのかと気が滅入っていたが、なんとかなりそうだ。急に明るい気持ちになったユージェニーヌは、年相応の少女の顔を取り戻した。
早速、会場に着くと、控え室に第三王子のルークがいる。
「ヘネラ公。今日は素敵な女性を連れておるな」
「カロー侯爵令嬢ユージェニーヌです。従兄弟の娘でして。ご挨拶なさい」
「ユージェニーヌでございます」
「そんなにかしこまらなくても良い。私たちはクラスメイトではないか」
「おやおや、ユージェニーヌ。そうなのかい?」
「はい、伯父様。恐れ多くも、目をかけて頂いております」
その流れでルークと一緒に入場することになり、そのままユージェニーヌは王族専用の場所で歓談していた。同級生のルークは気さくで、慣れていて緊張する間柄でもなかったからだ。
そこへ機嫌の悪いヴィヴィが、セヴォールを連れてやってくる。おそらく自分を差し置いて、身分の高い人々の中でも特別な方々と、親しげにしているのが気に食わないのだろう。特別と言ったって、ここにいるのは全員、元を辿れば親戚のようなものだが。
しかし侯爵令息のセヴォールも、さすがに声をかけられる人は少なく、なんとか従兄弟のヘネラ公爵に挨拶をするだけだ。公爵は鷹揚に頷くのみで、他の人々も反応は鈍く、会話に発展しない。二人が、たった一人だけ思いどおりにできるユージェニーヌは、王子と話していて、取り付く島もない。
ヴィヴィは、この場にいる人々、特に王子という特別な存在に、目を輝かせていた。その場には声をかけてもらおうと、大勢の人がいる。その内の一人に過ぎなかったが、ヴィヴィ本人はそのことをわかっていなかった。
待たされて段々いらいらしてきた彼女は、ユージェニーヌとルークの会話が一瞬途切れたのを見計らって、可愛らしく駆け寄っていった。
「ねえ、ユージェニーヌ。殿下を紹介してよ。初めまして。侯爵令嬢のヴィヴィです」
その時、その場にいた誰もが穏やかな笑みを浮かべていたが、空気は凍り付いた。ルークはなにやらニヤニヤしていて、ヘネラ公は口元に笑みを浮かべているのに、眉根をひそめている。ユージェニーヌはぎょっとして、ヴィヴィと目を合わさないようやり過ごす。
その場にいた高貴な人々も使用人も、それを取り囲んで見守っている下々も、セヴォールでさえも、声をかけられてもいないのに王族専用の場へ踏み込んだ、ヴィヴィの無礼な振る舞いに険しい顔つきになった。
「セヴォール卿」
ヘネラ公爵に厳しい声をかけられ、はっと我に返ったセヴォールは、あわててヴィヴィをそこから連れ出した。
「どうして? ユージェニーヌは話しているじゃない。どうして私は駄目なの?」
「ヴィヴィ。殿下の前だ、控えなさい」
「ずるいわ。私だって殿下とお話ししたい」
そう言えば、ヴィヴィの願いはなんでも叶ってきたのに、今日だけは無理そうだった。
「どうして? ユージェニーヌばっかりずるい」
ヴィヴィが何度もねだるのを聞いていた、ヘネラ公爵が口を開いた。
「ユージェニーヌは侯爵令嬢だ。君とは違う特別な存在だ」
本当のことを言われたヴィヴィは、屈辱から小刻みに震え、反論しようとした。
「……セヴォール卿。あなたが家の中で愛玩動物を飼うのは構わないが、外に出すなら躾をしたまえ」
ヘネラ公爵に辛辣なことを言われ、セヴォールも反論しようとしたが、ヴィヴィがまたなにかをしでかそうとするのを感じ、あわてて連れ帰ることにする。
その時の暗い目をしたヴィヴィを見て、ユージェニーヌは暗い気持ちになった。
恥をかかされたことを、ヴィヴィは絶対に許す気はなかった。ヴィヴィだって実母は侯爵令嬢だ。現カロー侯爵から見て同じ孫なのに、なぜユージェニーヌは特別扱いされて、自分だけ差別されなければならないのだろう。自分の方が跡継ぎのセヴォールに、大切にされているのに。ただ生まれた家が違うだけなのに。
なによりむかつくのは、なにを奪っても、ユージェニーヌがへらへらしていることだ。まるでどうでもいいかのよう。だったら……。
「だったら私がすべてをもらってもいいじゃない」
この気持ちはヴィヴィなりに真剣に考えたものだ。ユージェニーヌは恵まれており、遊んで暮らしているようにしか見えなかった。自分のほうこそ、そうだったということを、知らなかったのだ。
◇◇◇◇◇◇
婚約者のローラン伯爵令息レニエを紹介され、月に一度会うことになったが、結局彼とまともに会ったのは一回きりだ。話を聞いたヴィヴィが、目にも止まらぬ早業で彼を手に入れたからだ。
カロー侯爵家はすでにサンドラとヴィヴィ母娘が掌握しており、そこへ来る客をどうするかは、彼女ら次第だ。母親ゆずりのか弱げな外見を生かして、跡継ぎのユージェニーヌにいじめられている、可哀想な身の上だと囁いたらしい。それはユージェニーヌだって手を尽くした。事前にレニエに会って、ヴィヴィの件を注意したり、カロー侯爵家の特殊な環境を説明したりもした。
だが二人が、ほぼ同時にレニエに説明し、その上でヴィヴィの方を信じたのであれば、どうしようもないと感じる。仕方がないと諦めていた頃、父セヴォールがとんでもないことを言い出す。
「カロー侯爵家をヴィヴィに継がせる?」
「ああ、レニエ殿に自分が選ばれてしまったことに、責任を感じてな。彼は侯爵家に婿養子に入り、爵位を継ぐ予定だったから、そのままヴィヴィが、侯爵家を継ぎたいと言っている」
自分の父親はどこかおかしいとは、ユージェニーヌも思っている。だが仕事面では優秀だし、自分より目上の者の前ではきちんと振る舞えるので、ヴィヴィに関してだけだと思っていた。どうやらそれは勘違いだったようだ。だが口を出すことでもない。
とくとくと、ヴィヴィとレニエが婚約を結び直す話をしていたセヴォールは、以前、そのことでユージェニーヌの言葉遣いに、いちゃもんをつけたことを思い出したのだろう。一瞬、気まずそうな顔をした後、ちらちらと彼女を伺った。
「その、本人同士の問題だから……」
言わなくてもいい言い訳を、なにやらつぶやいている。
どちらにしても婚約者も継ぐ家もなくなるということなら、返ってさっぱりした気持ちにユージェニーヌはなった。
婚約が不自然な早さで解消されたと思ったら、ヴィヴィとレニエの婚約が締結され、彼女はわざわざやって来て鼻高々と自慢した。そのこと自体は、ユージェニーヌはなんとも思わない。そもそも一度しかまともに会えていないのだから、レニエに思い入れもなにもないからだ。
だが侯爵家と伯爵家の婚約が、こんなにも早く解消されたことは不思議だった。そのことを時間がある時に、聞こうと思っていた所、カロー侯爵である祖父が急死したのだ。
愛する祖父の死に茫然とし、ユージェニーヌは葬儀では泣くことができなかった。そして母親の勧めで母方の祖父レイコル伯爵家を、住まいとするようになる。
カロー侯爵位は息子のセヴォールが継ぐことになり、サンドラとヴィヴィの専横化は一気に進み、ヴィヴィとレニエは、まるですでに侯爵夫妻になったかのような、発言をするようになった。伯父が侯爵位になったことで、ヴィヴィは家の中では侯爵令嬢、社交の場でもそれに準じた扱いを受け、おまけにいずれ侯爵夫人になる。
このことは彼女の自尊心を、大いに満足させた。
だがどこまで行っても、ユージェニーヌには敵わない。学院でも社交の場でもユージェニーヌの下であり、大事に扱われるほど、その矛盾がどうしても受け入れられず、ヴィヴィの態度はますます過激になっていった。




