野心家
この話は騙された人が損をし、悪人が幸せになります。世の中ってそんなものという話です。
グリーナウェイ伯爵家の跡継ぎガーフィールドは、最近、自分の婚約者に不満を持つようになっていた。
とはいっても相手が悪いのではない。ただ自分とは相性が悪いと感じ始めたのだ。婚約者マリス子爵家のアレクサンドラは、計算高い。二人で会っているときも、伯爵家で会っているときも、つねに嫁入りをしたら、なにを手がけたいかということばかり、話題に出す。伯爵家の将来や、子爵家がどんな役に立てるのかというアピールばかりだ。政治や事業の話ばかりで、うんざりしてしまう。
政略結婚なのだから仕方がないとはわかっているが、せっかくのデートも、いつもそんな話題ばかりで台無しだ。今日もアレクサンドラとお茶会だが、早めに行く気になれず、時間ギリギリまで隣のホテルのラウンジで時間を潰していた。
するとなんと観葉植物で見えない隣のテーブルから、アレクサンドラの声が聞こえてきたのだ。
「アレクサンドラ。この後、婚約者と会うのでしょう。どんなお方なの」
「グリーナウェイ伯爵家の、ご長男でいらっしゃるのよね」
「伯爵家ともなると、きっとお式は盛大なものになるのでしょうね」
友人に聞かれたアレクサンドラは淡々と答えた。
「人柄の良い方だと思います。伯爵ご夫妻も、四人のご兄弟も気さくな方々で、良くして頂いておりますわ」
「このお話しのどんな点がお気に召したのかしら」
意味深な問いかけにも、あっさりと答えた。
「伯爵家は海運業を大々的に営んでいらっしゃるので、子爵家も参加させてもらう予定ですわ。とにかくそこが魅力的ですわね。我が領地は生産物は良いものが多いのに、輸送にいつも苦労しておりましたから、道筋がつきましたらそこから販路を広げてゆこうと。それにご存じの通り我が領地はここ十年の間、不運な事故や天災が続きましたから、そこを補うための伯爵家からの経済的な援助も格段に魅力的ですわ」
それを聞かされて、ガーフィールドはショックを受けた。それではまるでこの婚約は金目当てではないか。
「確かに、そうですわね。アレクサンドラ。あなたの領地を立て続けに襲った不運。大変でしたわね。この婚約で一息つけるかと思うと、グリーナウェイ伯爵家に感謝なさらないと」
それ以上聞く気になれず、その日のお茶会も欠席し、自室でぼんやりと過ごした。
別にアレクサンドラの言っている事は、間違いではない。家を代表して嫁ぐ以上、そういった計算はするだろう。だがあんな風に、金、金、金と言われると、結婚とはなんだろうと思う。夫婦とはもっと愛情や、信頼を育むものではないか。子爵家という格下出身のアレクサンドラの、あからさまな財産目当てな姿に幻滅してしまい、関係を築こうという気持ちが萎えてしまってきていた。
◇◇◇◇◇◇
政略結婚の相手であるアレクサンドラの、財産目当ての姿勢に、ガーフィールドが幻滅した理由ははっきりしている。
流行の小説と、それを元にしたお芝居により、空前の自由恋愛ブームが起きているからだ。
十年前に第一巻が発売され、以降、毎年巻数を重ねているその恋愛小説は、政略結婚による冷たい家庭に育った主人公たちが、学校で麗しい少年少女と出会い、問題のある婚約者を振り切り、恋愛を成就させるという物語を描いている。
彼らが幸せになる過程を、丹念に再現したお芝居は大ヒットし、例え婚約者に不満を持っていない人たちですら、素敵な恋人に巡り会いたいと、目の色を変えて学生生活を送っていた。ガーフィールドだって、小説のような恋愛をしてみたいものだと思っている。
自分の事だけを見て、自分に尽くしてくれて、財産や地位に関係なく、自分を愛してくれる相手。無理だとわかっていても憧れるのに、自分の隣にいるのは、グリーナウェイ家の伯爵夫人の座を狙う相手ときては、失望するのは免れ得なかった。
そのためガーフィールドは、一緒に通っている学院にいるときですら、アレクサンドラと共に行動する事はない。
そんな彼が、一人の女子生徒と仲良くなった。
シガニー男爵家の令嬢ユースレイラだ。華奢で線が細く、美しい黒髪が絹糸のようにたなびく少女で、一目見て自分が守ってやりたいと思った。ユースレイラはその美しさから、男性に強引に迫られる事が多く、出会ったときも誰かに追いかけられていたらしい。怯えた顔で助けを求められ、一も二もなくかばってやりたくなり、それからは彼女を守るために、ずっと一緒にいるようになった。
「こんな風に安心して、学院で過ごすのは初めてです。ガーフィールド様と一緒にいると怖くありません」
「もっと僕を頼ってくれたまえ。君のためならなんでもするよ」
ユースレイラは細やかな気配りをする女性で、いつも静かに側に控えてくれるのが、居心地が良かった。なんでも話を聞いてくれて、ただ黙って頷くお淑やかなところが良かった。だがガーフィールドには婚約者がいるからと、ユースレイラのほうからは近づいてこなかった。いつも人がいる中庭のベンチに座っていて、こちらから近寄るのが、奥ゆかしく感じられて良かった。
外国のめずらしいお菓子をあげると、素朴な手作りのお菓子が返ってくる。貴重な花を贈ると、野の花が返ってくる。なにもかもが慎み深くて好ましい。ユースレイラへの気持ちはどんどん高まっていった。
「僕は、伯爵家の嫡子だけど、もしそうじゃなくなったら、アレクサンドラはきっと、僕のことを捨ててしまうだろう」
「そんな……」
「ユースレイラはどう? 自分の好きな人が、身分や財産をなくしたら、どうする」
「関係ありません。その方を愛しているのならついていきます」
ユースレイラはゆっくりと首を横に振り、ガーフィールドの目を真っ直ぐに見て、穏やかに微笑んでいる。自分への遠回しな愛の告白に感激し、すぐにアレクサンドラと婚約解消する事にした。
家族全員とアレクサンドラが集まった席に、ガーフィールドはユースレイラを連れていって紹介したのだ。
「アレクサンドラは悪くないかもしれないが、その計算高いところが、どうしても受け入れられないんだ。打算で僕との結婚を考え、いずれ伯爵夫人の座を手に入れるつもりだろうが、そうはさせない。僕は僕を愛し、僕だけを見てくれる、ユースレイラと結婚する。少しはユースレイラを見習って欲しい。財産も地位も求めないこの清廉な姿を」
「待て、待て、待て。なにを言っておるのだ」
ガーフィールドの父親、グリーナウェイ伯爵は、立ち上がって頭を抱えた。じっくりとガーフィールドの話を聞き、ユースレイラにも質問する。そしてアレクサンドラのほうを向いた。
「アレクサンドラ。これが君の報告にあった、ガーフィールドとその片思いのお相手か」
「そうです。お義父様。この方がユースレイラ嬢で、なかなか優秀です」
「片思いなんかじゃない。僕たちは愛し合っているんだ」
ガーフィールドが、怒りを込めて表明した。
「ガーフィールド。お前とアレクサンドラは政略結婚なのだから、愛情は関係ないだろう。将来の伯爵夫人になるために呼んでいるわけだし、第一計算高い事のなにが悪いのだ?」
不思議そうに言った伯爵の、アレクサンドラの汚さを擁護する発言は、ガーフィールドの正義感を刺激した。
「なんですって。悪いではないですか。なにもかも。僕の事を財産や地位込みでしか見ていないし、…………そう、野心家なんです。結婚したら我が家の運送業に、加わるつもりなんですよ」
胸を張って糾弾した息子を、心底理解できないとばかりに、伯爵は頭をひねった。
「伯爵夫人になるのだから、野心家でないと困るだろう。我が家の規模が、どれだけあると思っているのだ」
話がまったく通じず、長引きかけたところへ、アレクサンドラと、ガーフィールドの弟で、グリーナウェイ伯爵の次男ウィンストンが口を出した。
「父上、以前話したあの恋愛小説のせいで、学院で自由恋愛ブームが、起きているのです」
「それに影響されたガーフィールドが、地位や財産ではなく、自分だけを見てくれる女性と恋愛結婚をしたくて、騒いでいるのですわ」
二人の説明で、なんとか事態を把握したグリーナウェイ一家は、呆れた顔つきでガーフィールドを見た。
「ガーフィールド。お前はこの伯爵家の跡継ぎなのだから、結婚相手を好きに選ぶ事はできない。アレクサンドラは、将来の伯爵夫人になることを見越して選ばれたんだ。そういったこと……政略結婚という制度そのものに納得できないなら、跡継ぎの座から下りるしかない。ユースレイラ嬢と自由恋愛したいなら、そうしなさい」
「え?」
思わぬ展開に驚いたユースレイラの、間抜けな声が室内に大きく響いた。そしてその驚きを、その場にいた全員が理解できた。だが一人だけ愛する人のその様子が、わからなかったガーフィールドが宣言する。
「アレクサンドラとは結婚できません」
「待って下さい。ガーフィールド様」
焦ったユースレイラが体を張るように、ガーフィールドの前に立ち塞がった。それを力尽くで押しのけると、目を輝かせてその場にいた人々に言った。
「地位や財産目当てのアレクサンドラとは、結婚できません。僕は僕だけを見てくれているユースレイラと結婚します」
「待って下さい。お願いです。ガーフィールド様。今のを訂正して下さい」
ユースレイラは遮るように必死に訴え、すがるようにガーフィールドの手を握った。だがガーフィールドは自信満々に胸を張り、まるで安心させるようにユースレイラを見ている。
「ユースレイラ。僕がすべてのものから君を守るからね」
「守るって……、なにから? 跡継ぎの座から下りた後にどうやって?」
「大丈夫。僕に任せて」
「……」
ガーフィールドが引き起こしたとんでもない事態に、ユースレイラは顔に恐怖の感情を浮かべている。助けを求めるように、グリーナウェイ伯爵を見た。
「無駄だよ。ユースレイラ嬢。息子は政略結婚という制度を否定したんだ。跡継ぎに戻す気はない」
伯爵のはっきりとした言葉に、ユースレイラは強いショックを受けて、へなへなと崩れ落ちた。アレクサンドラとウィンストンが手を貸し、椅子に座らせる。
「大丈夫? ユースレイラ嬢。はい、お水。……ショックよね」
常識的に考えて、貴族令嬢が自由恋愛を行うなんて、誰が考えるだろうか。つまり伯爵令息ガーフィールドに、男爵令嬢ユースレイラが地位と財産目当てに近づいたことを、誰もがわかっていた。
ところが、その結果、ガーフィールドが暴走し、招いた突拍子もない結果に、ユースレイラはただただ茫然としていた。
アレクサンドラが見たところ、ユースレイラは優秀だった。だがちょっと常識的で、ガーフィールドの非常識さを甘く見ていたのだ。だが誰だってそうだろう。伯爵家の跡継ぎの座を、勢いで捨てる人間がいるなんて、誰も思うまい。ガーフィールドのたがが外れた行動に、ユースレイラは貴族令嬢として戦慄すら覚え震えていた。
「ではグリーナウェイ伯爵家の跡継ぎは、ウィンストンにする。ウィンストン。婚約者はアレクサンドラだ」
「はい。父上。アレクサンドラ。よろしくお願いします」
アレクサンドラもウィンストンも、最終的にはこうなるような予感がしていた。一緒にいて波長が合うことが多いので、上手く行くだろう。
だがガーフィールドが横から口を出してきた。
「ウィンストン。正気か? アレクサンドラは我が家を乗っ取る気なんだぞ」
「頼もしいですね」
「我が家が支配されても良いのか」
「望むところです」
「こんな女の子どもを次の後継者にする気か」
「…………あのう、兄上。我々の母親も嫁いできた女性です。この家を支配し、牛耳り、我らを統治しています。なんの違いがありますか」
ガーフィールドは絶句して、口をぱくぱくさせた。
「いや、母上は違うだろう。だって私たちの母親で……、信頼できるし、そんな……支配なんて」
まるで自分たちの母親は、生まれたときから、グリーナウェイ伯爵家にいたかのような、錯覚をしていたらしく、口をもごもごさせている。アレクサンドラを強く否定するその口で、同じ立場の母親を擁護し、その違いを説明する事ができず、目を白黒させていた。
その時、幽霊のようにゆらりと、ユースレイラは立ち上がった。
「私はこれで失礼します。ガーフィールド様。伯爵家の跡継ぎでなくなった方とは、ご縁は結べません」
「どういうことだい? 僕たちやっと結ばれるのに」
「ガーフィールド様に誤解させたり、気を持たせたりするような事をしたのは謝罪します。伯爵家の跡継ぎに、振り向いてもらうために必死でした。私は父のシガニー男爵に、地位や財産のある男性を落とすように命令されていて、結果を出さないといけなかったのです」
ユースレイラの誰もが予想していた、わかりきった告白に、ガーフィールドただ一人が激高した。
「ふざけるな!」
部屋の中にガーフィールドの怒声が響いた。それはまあ当然でもある。愛する女性のために地位も財産もなにもかも捨てたら、その場でお金目当てだったから別れてくれと言われたのだ。
「お金がなくてもいいって言ったじゃないか。豪華なプレゼントはいらない。好きな人と一緒なら散歩しているだけで幸せだって。地位も財産もいらない。愛する人だけいればいいって。
全部、全部、嘘だったのか。いつも質素にしていたのは、欺瞞だったのか。詩集ばかり読んでいたのは、演技だったのか。やっと理想の女を手に入れたと思ったのに。この、この嘘つきめ」
ガーフィールドは憤りのあまり地団駄を踏んだ。
「どうするんだよ。どうするんだ。全部、君のためにやったのに。君のために、地位も財産も捨てたのに、裏切りやがって」
部屋にいたグリーナウェイ伯爵夫妻や、使用人たちは、ガーフィールドが怒気を発する姿に声を失い、目を見張り微動だにしなかった。全員、なんの説明もいらない当たり前の事を言われて、腹を立てた彼の気持ちがわからなかったからだ。
怒鳴り続けるガーフィールドの前で、味方は誰もいなく、自分の非を認めているユースレイラは下を向いていた。自分がきっかけで、跡継ぎの地位を失ってしまい、そして自分は代わりになるようなものを、なにも持っていないのだ。
だが悪いとは思っていても、なにも感じない訳ではない。男性の怒鳴り声を浴びて恐怖を感じ、目から涙がぽろぽろとこぼれでた。それが余計に怒りをあおり、彼がなにか言った瞬間、自分の両耳がふさがれたのがわかった。
顔を上げると、心配そうな顔をしたアレクサンドラが、ユースレイラの耳をふさいでいた。ガーフィールドはグリーナウェイ伯爵に連れられて、ソファやテーブルの向こう、部屋の奥に立たされていた。
手を離したアレクサンドラが、心配そうにのぞきこんでくる。
「どうして、その女をかばうんだ」
ガーフィールドがいらいらと叫んだ。
「ねえ。政略結婚の婚約者が、計算高かったり、野心家だったりするの。そんなにいけないこと? 男爵令嬢が伯爵令息を落とすのに、気に入られるように振る舞ったり、嘘をつくのって、そこまで責められる事?」
「当たり前だ! そいつは嘘をついたんだぞ。僕を騙して、地位を捨てさせたんだ」
「…………だったら、私は最初から、最後まで正直にしていたわ。ガーフィールド。あなたに対して誠実に振る舞った。それなのに、野心家だと私の悪口ばかり。ユースレイラだって、目標に正直だったわ。常識的に考えれば、彼女があなたを目的としているのなんて、ばればれだったし、すがすがしいほどのあからさまな接触だったわ。あんなことされて気がつかないなんて……。
ねえ、正直にしていても悪く言われて、次は嘘をつかれたからって、こんなにまで責めるけど、結局の所、自分にとって都合の良い事しか聞きたくないんでしょう。あなたって、そうやって人を評価して、非難ばかりするけれど、やっていることは、女性に二股かけた浮気男じゃない」
ガーフィールドは、嘘をつかれて、騙され、地位を失ったにもかかわらず、人前で責められる理由がわからなかった。指摘されて混乱する頭で、ぼそりと言い返す。
「それは、アレクサンドラが悪いのだから、ユースレイラに癒やしを求めたのは仕方がないではないか。それに嘘をつくのだって、よくないのは間違いないだろう……」
「ガーフィールド」
グリーナウェイ伯爵が、まるで幼い子どもに言い聞かせるように言った。
「アレクサンドラや、ユースレイラ嬢に誠実に振る舞えと求めるのなら、お前自身も周囲に誠実であらねばならない。別の女性に心を移すのは浮気だろう」
「それは、でも」
「ユースレイラ嬢のせいで、地位を捨てさせられたと怒っているが、ユースレイラ嬢を選ぶと宣言したとき、そのことを彼女にたったの一言でも相談したかい? あの時、彼女は驚いてお前を止めようと必死だった。真横にいたのにその姿が目に入らなかったのか」
「……でも、僕が騙された事には変わりありません。この責任は取ってもらいます」
ユースレイラの顔色が、どんどん悪くなっていった。そんな責任はとれない。
「ガーフィールド。その責任とやらをとってもらったところで、地位や財産は戻ってこない。そして今回の事を反省し、己を顧みないのなら、また同じことを繰り返すだろう」
「……僕が悪いのですか?」
グリーナウェイ伯爵は、まるで目の前の品物が使えるか、もう使えないかを、値踏みするような目でガーフィールドを見た。
「今回の事を反省し、誰にどんな謝罪をするか整理し、私に報告する事。それをしない限り、アレクサンドラや、ユースレイラ嬢にかかわることは一切許さない」
ひどい目に遭った自分を、どうして父親がかばってくれないのかがわからず、ガーフィールドは途方に暮れた。
◇◇◇◇◇◇
グリーナウェイ伯爵家の跡継ぎウィンストンに決まり、野心家だからよせと、あれほど止めたのに婚約者はアレクサンドラになった。
父親に厳しく叱られたガーフィールドは、しばらくおとなしくしていたが、ある日、学院内でユースレイラを見かけて、腹が立って仕方なく、こっそりと後をつけた。
ユースレイラは新しい男と付き合っていて、人の気も知らず楽しそうにしていた。痛い目に合わせてやろうと、相手の男にこう言ってやった。
「あの女が言った事は、全部嘘だ。君を落とすために騙しているのだ。そうやって男を落とす彼女の手口だ」と。
そう言われた男は、ひどいショックを受けると思ったのに、不思議そうな顔で、「そうですか」と言ってただ立ち去ろうとした。伝わっていないのかと、もう一度繰り返した。だが男は立ち去ってしまった。
そして中庭にいたユースレイラの隣に座って、楽しそうににやにやとなにやら話しかけている。
「ねえ、ユースレイラ。君の話が全部嘘って、本当? 俺を落とすための手口だって。へえ。俺は狙われていたのか」
するとユースレイラが茹で蛸のように、真っ赤になった。男はその様子を見て、嬉しそうにしている。
「そんなに俺を落としたい? どんな嘘が効果あるか教えてあげようか」
真っ赤になったユースレイラは口をぱくぱくさせていたが、相手の目を見る事ができず、そらしたままうわずった声で言った。
「……教えてクダサイ」
二人の様子は、どうみても、両思いの恋人同士が、いちゃいちゃしているようにしか見えなかった。ユースレイラが父親に新しく指示された獲物は、彼女の好みド真ん中な男性で、ユースレイラはこの時、初めて一目惚れを体験したのだ。
あらゆる手段を使ってでも手に入れようと、男性や、その家、その周辺の情報を収集し、分析し、計算し、気合いを入れてたぶらかしてやろうと、毎日会いに行っている。
だがユースレイラの本心を見透かしたのか、余裕ぶった男性から、ちょっと遊び心ある話題でからかわれると、どうしたらいいのかわからず赤くなってしまい、翻弄される日々だった。
本気で相手を好きになったユースレイラは、その身すべてを計算に使い、好きになってもらおうという野心を抱いて、必死に策略を練る日々を送っていた。




