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貧乏男爵家の調査官日誌  作者: 林はるる


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「褒美」


「セレスティーナ。婚約おめでとう」

「おめでとう。セレスティーナ」

「おめでとう」


「ありがとう。みんな」


「式はいつ頃の予定なの?」


「本当は二年後の学院卒業に合わせたいけど、この情勢下だから早まると思うわ」


「お相手はよくお見かけする、ラムレイ家の方よね」

「ボウエン伯爵家に重用されているとか」

「出世間違いなしね」


 公表された婚約について、セレスティーナは友人たちと、学院のサロンでおしゃべりをしていた。


「あの……、失礼に聞こえたら申し訳ないのだけど、男爵家の方なのよね。えっと、他家に養子に入ったりなさるの?」


 学究心旺盛で、他人が聞きにくいことを真っ先に聞くコルデリアが、申し訳なさそうに口にした。残りの二人は「よくぞ聞いてくれた」という顔をしつつ、セレスティーナが不愉快に感じないか心配そうに見る。


「そこは皆様もお気になさるだろうから、他の方に広めても構わないわ。ボウエン伯爵家に養子に入る話も、最初はあったようなの。でも、ほら、私の家が……難しい立場でしょう。しがらみがないほうがいいという話になって、ラムレイ家から直接、婿養子になるわ。ボウエン家は後見になる予定よ」


「まあ、それでも後見にはなるのね。それって……」

「よほどつながりが強いのね」

「ねえ、どんな方なの?」


「とても誠実な方で。それとすごく面倒見が良いの。妹さんがいらっしゃるせいかしら」


 アンスリーとベイリルは、なにかにぴんと来たようで、警戒心を抱いた。


「それって大丈夫なの? 妹さんが熱を出したから、デートを休むとか言われない?」

「あなたへのプレゼントを、妹さんに選んでもらったとか言われない?」


「妹が恋の障害になる小説って、案外多いのよね。でもね、もっと怖いのは結婚後、妹がライバルになるパターンで……」


 コルデリア一人だけは、なにか別の話題で盛り上がっている。


「そういえば言われたわ」


「「ええ!」」

「まあ、本当。参考までに聞かせて、セレスティーナ」


 先日、丈夫なシェリーがめずらしく、風邪を引いて寝込んだ。それを聞いたジュリウスが様子を見に行き、治った後も移らないよう二人して休んだ。そんなに強い風邪なら、セレスティーナは死んでしまうかもしれないと心配して。


「それで二人ともいなくて、しばらく静かだったわ」


「「……」」

「……ジュリウス卿は心配性なの?」


「そんなことないと思うわ。でも本人も妹さんも武芸を嗜んでいるせいか、なにもしていない私のことを、ひどく脆いと思っている節があるわ。以前、間違って刺客に襲われそうになった時……」


「そんな怖い」

「痛い話はいやよ」

「詳しく。詳しく教えて。お願い」


 怯えるアンスリーとベイリルに比べて、コルデリア一人だけ食いつきがすごい。


「ジュリウスがその刺客と知り合いで……」


「「え!」」

「まあすごいわ!」


「だから話し合いで収まったのだけど、その時、ジュリウスは右手を怪我して使えなかったのに、左手だけで夜会服を着た私を軽々と引き寄せて、ずっと離さなかったの。そんなに心配しなくて良いのに」


 つまりは自分に関してだけは、婚約者が心配性になるという話を、無自覚にしたセレスティーナを見て、一言、言ってやろうかとアンスリーとベイリルは大分、迷った。だが、やっと幸せになれそうな彼女に水を差す気にもなれず、奥歯を噛んで我慢する。


「夜会……そういえばダンスはお上手なの?」


 ダンスの上手下手は、女性としては気になるところだ。


「踊ったときに怪我していたからわからないわ。でも左手だけで支えてくれて、それなのに『もし妹だったらこのままくるくると回しますが、セレスティーナは危ないから禁止です』って言われてしまって……。私もシェリーのように武芸を習おうかしら」


「今の発言、どっち? ねえ、どっち? 妹のほうを大事にしているという意味?」

「ちょっと落ち着いて。婚約者の方を大事にしているとも取れるわ。肝心のセレスティーナがわかっていないし」


「これは妹さんが武芸を習っているという、めずらしいパターンね。庇護欲をそそるタイプか、兄と一緒に戦えますタイプか。どちらかで勝敗が……」


 コルデリアは、一人でうんうんと頷いている。


「そういえば私へのプレゼントは、いつも妹さんに選んでもらっているそうよ」


 その場に悲鳴が上がった。


「そんな」

「それでいいの?」

「……それ、本人が言ったの?」


「ジュリウスはどうやっても、長剣や細剣や短剣やカットラスしか思いつかないのですって。いつも妹さんが三十分くらい流行を選んで聞かせて、その中から選ぶそうよ」


「「……」」

「専門バカってことね。あ、ごめんなさい。悪い意味じゃないから」


 二人が心の中で思ったが口に出さなかったことを、コルデリアはもらしている。


「ところで面倒見がいいってどんな感じなの?」

「そうね。貴族令息と面倒見の良さは結びつかないわ」


 先日、本邸でロレンスと会った話の一部は伏せて、疲れ切っているところをジュリウスが面倒を見てくれた話をセレスティーナはした。


「……靴を脱がせてくれて、クッションを……」

「ずっと傷を冷やしてくれた……」

「まあ、ジュリウス卿はブラッシングがお上手なのね」


 先に毛先を入念にといてから、ブラシを入れた話を聞いて、コルデリアは感心していた。


「ずっと妹さんの面倒を見てきたせいか、私の面倒を見る時もてきぱきとしていて、頼りがいがあるの」


「「頼りがい……」」


 アンスリーがベイリルを見ると、ベイリルも同じことを考えているようだった。それは普通じゃないと。仮にそうだとしても、妹と同じように婚約者の面倒を見る必要はないのだ。だがセレスティーナ本人が気にしていないのなら、指摘してなんになるだろう。幸せそうならいいではないか。


 ちなみにブラッシングが上手なのは、ブラック号の世話で慣れているからだ。


「う、うーん。良くないよりは、いい」

「そうね。悪いよりは、いい」


 そこへグリス伯爵令嬢アイネズが、うっとうしく絡んできた。


◇◇◇◇◇◇



「セレスティーナ様。皆様。聞きましたわ。ご婚約の話。おめでとうございます」


 それまでの楽しい気分もどこへやら、凪いだ気持ちになったが、相手のペースに惑わされてはいけないと、セレスティーナは平常心を取り戻した。


「なんでもお相手は『男爵家』の方だとか。『男爵家』。さぞかし『優秀』なのでしょうね」


 同じことを天然のコルデリアが口にすると、褒め言葉になるのに、どうしてアイネズが口にすると嫌みに聞こえるのだろう。


「ええ、とても優秀な方で、ボウエン家が後見についておりますの」


「まあ、『あの』ボウエン家が。それはさぞや『優秀』なのでしょうね」


「……」


 会話を交わして、数秒で無の境地になった。相手がジュリウスのことを格下と見ていて、絶対にそれ以外を認めないのであれば、なにを言っても無駄なのだから。


(空しい会話だわ……)


「どんな方ですの?」

「それは……」


 適当にお茶を濁そうとしていると、向こうからジュリウスがやってくるのが見えた。会釈しながら、通り一遍の挨拶をその場でしようとしたところ、アイネズに席を勧められる。婚約者の顔を見て、どうやら受けてはいけないと察したようだが、しつこく勧められ、とうとう諦めたセレスティーナの隣に座った。


◇◇◇◇◇◇



「あなたがジュリウス卿でいらっしゃいますのね。……こう言ってはなんですが玉の輿ですわね。どんなお気持ちですか?」


「はあ」


 お気持ちと言われてもと思っていると、セレスティーナの手がそっと添えられた。答えなくていいと首を振っている。これぐらいあしらえるが、こういった場では盾になろうとするところが彼女にはあった。その点については彼女の能力のほうが上だろうが、なんだか申し訳ない気にもなる。


「そういえばグリス伯爵令嬢の婚約者は、ガルシア侯爵令息でしたね。いやはや伯爵家と侯爵家の縁組みなど、私には恐れ多い。おまけに美男美女揃いで……」


 水を向けるとアイネズは、ぺらぺらと自慢話を話し始めた。言いたくて仕方がないようだ。その場はすっかり平和になり、ただ規則正しく相づちをうつ会になった。


 セレスティーナは伝統あるブラックウェル伯爵家出身で、当然、ラムレイ男爵家のジュリウスとは身分差がある。おまけにただの婚姻ではなく、伯爵家に婿養子となるのだから、婚約は注目され、一躍、時の人となっていた。


 ジュリウスは学院でも活躍していたことから、見ている人は見ていたのだが、身分しか自慢できない人種には格好の餌食だ。そういった人種は、これ幸いとそのまわりにも攻撃の輪を広げていった。その旗頭がアイネズだ。そういった付き合いに慣れているとはいえ、繰り返される格下認定にはさすがに鬱憤がたまる。今だって、目の前の敵はアイネズ一人だが、サロンで交流している周囲には、意味深な視線を送ってくるものが一定数いる。


「影響を見ていたけど、そろそろ具体的な対策を打つべきかしら」


 婚約に対する反応は思ったより、好印象だったため迷うが、アイネズのような人間も絶えないものだ。婚約者が侯爵令息であること、そして自身は伯爵令嬢であることを、アイネズは何度も繰り返し、二人合わせた爵位の高さは、この場にいる誰よりも高いことを自慢し、まわりを貶め悦に浸っていた。


 ちなみにジュリウスはこういった令嬢を見ると、「可愛いものだ」と思う。自慢したり、馬鹿にしたりしている必死な仕草が一生懸命で、幼い子どものように感じるのだ。


(なんの利益もないことを……)


 利益どころか、周囲に悪印象を与えて、自分の評価を下げているが、それをせずにはいられない精神性の未熟さが、妹の小さい頃を思い出して「微笑ましい」と感じるのだ。


『スザンヌちゃんより、シェリーのほうが一杯、お魚釣れるのよ。とってもお上手なんだから。それに上段回し跳び蹴りだってできるし、それに、それに、それにね。木登りだってうんと得意なんだから』


 ぴょんぴょんと跳ねながら体全部を使って、自慢する姿の愛らしかったことといったら。


(…………スザンヌちゃん。懐かしいなあ。今どうしているだろう)


 目の前で鼻高々と自慢するアイネズを見て、昔を思いだし懐かしんでいた。幼少期に苦労したためか、ジュリウスにはそういった斜に構えた部分があった。


◇◇◇◇◇◇



 手持ち無沙汰になったセレスティーナは、出された小さな飴細工の菓子に手を伸ばした。ぎりぎりで止められる。


「王都で流行している菓子だそうですが、アルコールが使われていますよ」

「まあ」


 社交の場ではセレスティーナはなるべくアルコールを取らないようにしている。アイネズが来てしまったこの場では避けたい。しかし食べないで残すのは、用意してくれた友人に申し訳ない気がした。


 隣のジュリウスが自分の皿から一つ口に入れたのを見て、セレスティーナは自分の飴を一つ彼の皿に移した。二つ目を口にしたジュリウスの皿に、もう一つ入れる。


「……減らないのですが」

「だって……」


 結局、飴をすべて食べてもらったセレスティーナを見て、アンスリーとベイリルはまたしてもいろいろ思うところがあったが、幸せそうならいいかと切り替えた。甘える人がいなかった彼女が、自覚なく自然に甘えている光景は、友人からすると嬉しいものだ。その時、アイネズが少し大きな声を出した。


「あ、アイザック様だわ。こっちよ、こっち。ああ、『こんな所』にいらしてどうしよう。紹介できなくてもごめんなさいね」


 アイネズに帰ってもらえるのなら、なんでもいい。そう思っているところにガルシア侯爵令息アイザックがやってきた。


「なんだ。こんな所にいたのか。友だちか?」


 アイザックは卓を見回して、ジュリウスと目が合うと驚きの声を上げた。


「……ジュリウス卿。ちょっと、アイネズ。知り合いだったのか? 教えてくれよ。というか紹介してくれ」


「なにを仰ってるの? この場にいるのはそんな……」


「頼むから。一度でいいからお話ししてみたかったんだ」


「でも……」


「頼む」


 アイネズは心底嫌そうに、だがそれがアイザックに見えないように紹介した。


「ラムレイ卿。こちらは婚約者のガルシア侯爵令息ですわ。わきまえて卿と読んで頂け……」


「お目にかかれて光栄です。是非、アイザックと。呼び捨てで構いません。お噂はかねがね。一度でいいから、あなたとお話しがしたかったんです」


「初めまして。ジュリウスと申します。噂というのは……?」


「お父上の剣豪オルダス卿のことや、ジュリウス卿のご活躍のことを聞き及んでおります」


「オルダスって誰……」


 アイネズは知らないのだろう。茫然としている。そしてサロンにいた似たような人々も、あてが外れて言葉を失ってる。


「私はただの学生で、活躍など……」


「またまた。この学院ではあなたの潜入捜査に、お世話になったものは多いんです。時々、前線で負った怪我をお見かけますし、不謹慎ですがかっこいいって思っていて」


「……」


 潜入捜査とは機密なのだから、秘密のはずだ。だがこの学院に通うものはそういった機密を扱う立場であり、知っていてもなんともいえなかった。


「それが愛用の剣なんですね。見たい。見ても、いいですか」


 椅子に立てかけてあった剣を見て、妙に興奮しているようだ。


「いや、ここでは危ないからして……。鍛錬場ならいいが」


「いいなあ。鍛錬場。憧れの場所だ」


 アイザックの家は教育方針で、跡継ぎに必要以上の鍛錬は認められていなかった。そのため乗馬などをのぞいては、令嬢のように育てられているらしい。


「ジュリウス」


 物陰から突然、ひょいとルーク第三王子が顔を出した。


 学院のサロンにいた人々は、反射的にざっと音を立てて立ち上がり、礼を執る。アイネズはなぜこんな大物が現れたのかわからず、挙動不審に陥っている。同じように、あちらこちらから「なぜ」「どうして」と声が上がり、同時に当然と受け止めている人も多かった。まるで友人に声をかけるように、ジュリウスに話しかけてくる。


「急にクリケットで勝負することになってな。来られないか?」


「恐れ入りますが、今は立て込んでおりまして」


 あっさりと王子の誘いを断った、婚約者への忠義一杯の男爵令息に、周囲は声にならないどよめきをあげる。よくボウエン家三男のグリフィンの警護をするジュリウスは、一緒に行動するルークとは顔見知りであり、年齢の近さは身分を超える力があった。


「えー。頼む。強い奴に来て欲しいんだ。なあ、頼む」


「そうは言われましても。……この後でよろしければ」


 身分を絶対的なものとしているアイネズは、事態を受け入れることができず、「そんな馬鹿な」とつぶやいている。アイザックはジュリウスを、きらきらとした尊敬の目で見つめていた。


「本当か。是非来てくれ。場所は鍛錬場だ」


「……お待ちください。鍛錬場は遊び場ではありません」


「固いこと言うな」


「いいえ。殿下といえどもなりません。このことを責任者はご存じなのですか」


「あー、多分」


 ルークは目をそらした。


 押し問答をしている間に、息を切らしたダロンが現れ、「騎士団長だ」と声が上がる。騎士団長という肩書きは、少年たちにとって絶対的な憧れの的だ。


「私はなにも知らされておりません。殿下」


 そうだろうなと思いながら、逃げだそうとしたルークを、ダロンと二人でつかまえる。まるで小型犬のようにじたばたするルークを、二人は軽々と持ち上げた。


「殿下。遊ぶこと自体は構いませんが、もう少し手続きや段取りを踏んでください。それと学院内での賭け事はなにがあろうと禁止です。これは絶対です」


「わかったよ。ジュリウス」


 しぶしぶ、おとなしくなったが、どうせまた悪巧みを考えているらしく、どこ吹く風と言った風情だ。ルークを探して方々を走り回ったらしいダロンが、懐から食券を取り出した。


「よくこの悪ガキ……覇気あふれるお方を、捕まえて置いてくれたな。礼だ。ジュリウス」


 ジュリウスは喜び勇んで、風のように素早く受け取る。男所帯の長であるダロンは、団員たちを動かすのは金よりも食であることを心得ていた。流れるように隠しに仕舞う姿を見たまわりの人々は、それがなんなのか気になって、色とりどりの夢を抱く。


「ジュリウス。クリケットはしような。また今度な。約束だぞ」


「仕方がありませんね。お付き合いいたします」


「絶対だぞ」


 ルークはダロンに連れられていった。


「ジュリウス卿。今の、今のなんなんですか。なにか秘密の符丁ですか。それとも……」


 ただの食券にあんなに喜んだとはとても言い出せず、アイザックとは目を合わせることができなかった。


「大したことではない」


「気になる……」


 その時、ジュリウスはなぜこんなにアイザックに憧れられているのか、わかった気がした。潜入捜査やら秘密、理由の言えない怪我というものはそれだけで、人の好奇心や想像力をかきたてるのだろうと。まあその視点もあながち間違いではないが……。




「なにやらあわただしかったですね」


 茫然としたアイネズを連れたアイザックが名残惜しげに去り、ジュリウスはセレスティーナの隣に座り直すと、なぜかアンスリーとベイリルからじっと見られていることに気が付いた。不思議に思い横を見ると、コルデリアが満面の笑みを浮かべている。セレスティーナに視線を戻すと、彼女は当主の顔をしていた。


「セレスティーナ?」


「ジュリウス。褒美をつかわす」


「は?」


「ジュリウス卿。私からも褒美をだすわ」

「私も」

「そうね」


「褒美って……なんでですか?」


「なんでもいいわ。なんでもあげる。なにがいい? ジュリウス」


 四人はまるで、これまでの鬱憤をすべて吹き飛ばされたような、晴れやかな笑顔を浮かべていた。


 金にセコ……倹約家のジュリウスはこの機会を逃さなかった。セレスティーナとはよく話し合い、「これくらいならがめついと思われないかな」という線をぎりぎり狙うと、ずっと欲しかった領地の測量図の作成に取りかかった。もっと男爵家の資金に余裕が出てから、数年かけて実行に移そうと思っていたもので、自分で頼むのなら、それは安価な業者を選ぶし、支払いはけちる。なにせ莫大な金額がかかるものだから。しかしそんな心配をする必要がないのだと思うと、心に余裕だって生まれるものだ。


「お兄様。お金がある生活っていいものですね」

「うむ」


 アンスリーの出資で、本格的に増改築している男爵家を眺めながら、ジュリウスは激しく頷いた。コルデリアには、その道では名が知られている刀鍛冶を紹介してもらい、欲しかった新しい剣を作ってもらう予定だ。


 ベイリルからは名馬の血を引く子馬を譲り受けることになり、ブルーベルと名付けたが、それを聞いた祖父のゲイアスはまたなにか言いたげだった。


「そんなに可愛いの?」


「はい。母馬に似て、毛並みがとても美しい子なんです。性格はすごく慎重で、頭が良く、将来が楽しみです」


 セレスティーナに聞かれ、例のごとくでれでれになりそうになるのを、手で押さえ必死に隠すが、まったく隠せてない。それを見て、彼でもあんなにだらしのない顔をするのだと、意外に思いながら、セレスティーナは「ちょっとみっともないような……」とがっかりもした。そしてそんな風に感じた自分を、心が狭いとたしなめる。


 その様子を見ていた家令のハンプソンが、立ち去る間際に独り言のように呟いた。


「子馬であれなら、ご自身のお子様が生まれたら、もっとすごいことになるでしょうね」


 ハンプソンがいなくなった後、セレスティーナはしばらく驚きで茫然としていた。


「…………そういうこと?」


 そして目の端に映る、たった今がっかりしたみっともない顔を、いつのまにか可愛いと感じている自分に気が付いたのだ。


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