第16章 兄弟の出会い
この章で、初めて双子の二人が出会います。
第1節
息長遼瀬依は中臣摩耶彦と別れ、濊人の鍛冶技術者を多家の里へ連れて行った。多家の里では、蘇我三千比古が木ノ山で500枚の三角縁神獣鏡の複製を作り終えていた。その後、開化天皇一行は、吉備国の高島宮(岡山県岡山市南区宮浦)に移る。この高島宮は、瀬戸内海の内海、児島湾の小さな島で、この地から小豆島から淡路島北端を航海して、河内湖まで船で行ける。また、吉備勢理比古がいる湯迫の里にも近かった。ここで、開化天皇が始めようとする倭国統一国家、ヤマト王権の軍備基礎を固めた。北部九州から出た開化天皇の一行は少人数であったが、三角縁神獣鏡を配って支持を得、吉備という大集団が参加したことにより、国家としての体裁が整ってきた。
息長遼瀬依は、多家の里から高島宮に移り、吉備勢理比古から譲って頂いた鉄鉱石と濊人の鍛冶技術者を船に乗せて、淡路島の群家の里に向かった。瀬戸内海に出て、東に向かい、淡路島が見える播磨灘。そして、右側に江井崎が見え、群家川の河口までたどり着いた。この群家川の河川敷に群家の里があった。
日本神話で、イザナキとイザナミが国産み・神産みを終えて、最初に国産みをした淡路島の幽宮(兵庫県淡路市多賀)に留まった。その幽宮の跡地に淡路国一宮の伊弉諾神宮が建てられている。この神宮を中心にしたのが群家の里です。
息長遼瀬依の船は、群家川の岸辺にある船着場に到着した。そこには、息長一族が集落で生活していた。
「リョウセイ、久しぶり」
「ミサシ(息長嶺佐士)じゃぁないか」
「瓜破の里から群家に来ている なんか、鉄器を作るので増員された」
「そうさ、ミカドがいよいよ動くらしい そこで、軍備を揃えるために 今、濊の鍛治職人を連れて来たところだ」
「ミカドのことは、噂で聞いた そのため、瓜破の里でも準備を進めている」
「そうなのか 瓜破には、母を残したままだけど、少し気にかけている」
「黄咲美姫のことか」
「母上はどうしている」
「この頃、体調が悪いみたいだ」
「この役目が終わったら、瓜破の里に戻って見るか」
息長遼瀬依は、濊人の鍛治技術者を群家の里から育波の港から五所の里(五斗長垣内遺跡がある兵庫県淡路市黒谷)まで連れて行った。そして、そこから船着場のある育波の港に出て、濊人の鍛冶技術者を乗せてきた船で、播磨灘から淡路島の先端、明石海峡を通って、河内湖に入り、黄咲美姫に会うため、瓜破の里に着いた。
「母上、ただ今戻りました」
「リョウセイか」
「はい」
「もう、あなたと会えないかと思っていた」
「母上、目が見えないのですか」
「もう少し、私の側に 死ぬ前にあなたに伝えたいことがあります」
「まだまだ、元気でいて欲しい」
「実は、あなたは」
「母上」
「私の実の子ではないのです」
「それは」
「東国のある方の子で、あなたには血を分けた兄弟がいます」
黄咲美姫は、息長遼瀬依にそのことを伝えて、息を引き取った。
第2節
息長遼瀬依は母親の葬儀を終え、遺体を甕棺に入れて、土を掘り、埋めた。そして、謎めいた話、今まで知らない話。兄弟がいる。果たして、兄弟がいるという話だけで、後は何も分からなかった。納棺する時に現れた老人がいた。彼は、昔、息長安操の下で働いていた人物で、西国から逃れて来た人達を東国に連れて行く役目をしていた。黄咲美姫の納棺に参加したのは、物部の里に10人程西国の人を運んできた時の一人で、墨ノ江の里から黄咲美姫を乗せた人物でした。その時、黄咲美姫が息長遼瀬依を誘拐した事を知っていた。
「リョウセイさんですね 私、アソウさんの下で働いていたものです」
「父上の」
「昔、黄咲美姫を知っているので、納棺に参加しました」
「母上を知っているのですか」
「西国から逃れてきた人達を東国に その時、墨ノ江の里で黄咲美姫と出会い、物部の里まで連れて行った それからの知り合いで、アソウさんの奥さんになった」
「そうだったのですか それで納棺に来られたのですね」
息長遼瀬依は、突然現れた人物が父親の部下だったことがわかった。
「リョウセイさんの本当の母は」
「それはどう言うことですか 母上が息を終える前に、それらしきことを告げたらました でも、本当の母が誰だかわかりません」
「黄咲美姫の最後のお言葉でしたか リョウセイさんの本当の母は 物部の里に連れて行ったとき、阿木沙都姫と物部伊那部さんとの間に双子が産まれていました その双子の一人がリョウセイさんです」
「物部伊那部という人が私の父」
「そうです」
「では、何故、母上が私の母親になったのですか」
「物部の里の屋敷で黄咲美姫があなたをさらった」
息長遼瀬依は、生誕の真実を知ることになった。
「物部伊那部さんは、何処におられる」
「そこまでは、私には」
物部伊那部は物部大綜麻杵命に付いて、大倭国に移っていた。息長遼瀬依はその方に会いたいと思った。兄の物部日向馬はそのことを知らない。兄弟の出会いはもう少し後になる。
その頃、物部日向馬は、物部大綜麻杵命の下で中心的な立場に成長していた。そして、開化天皇が吉備国の高島宮に滞在していることが、大倭国にも伝わっていた。
「ヒュウマ、ミカドがいよいよ動かれて、今高島宮におられる それで、大倭国の状態をミカドに伝えて欲しい」
「ミカドにどのように伝えればいいですか」
「纒向の里にミカドの一行を迎えるために、広大な土地を確保しましたと伝えてください」
纒向の里には、大きな宮殿が立てられた。現代のJR巻向駅の側にあり、大型の建築跡があり、纒向の里は東西2.5km、南北1.5kmに及んだ。
一方、息長遼瀬依は黄咲美姫の納棺を終えて、淡路の五所の里での軍用品の状態を視察した後、高島宮にいる開化天皇のもとに戻った。
第3節
息長遼瀬依は高島宮に着いて、開化天皇に会うため、宮殿に入った。その時、大倭国からの来客が来ている事を聞いた。
「リョウセイ、いい時に帰ってきた 今、大倭国の物部大綜麻杵命から使者が来ている 物部日向馬と言って、以前、日向にいているときに、伊香色謎命を連れてきた物部伊那部の子だ その使者の話を一緒に聞こう」
息長遼瀬依は物部伊那部と聞いて、心が動転した。
「是非とも」
開化天皇と皇太子(後の崇神天皇)が居間の正面に座った。その居間の左側に、蘇我三千比古と葛城沙兎比古が座り、その横に息長遼瀬依が座った。そして、使者が居間に登場。
「ミカドもご健在でなりよりと存じます さて、私の主からの趣意書をお持ちしました 主によりますと、大倭国に東征に当たりまして、準備が整いました 纒向の里を開墾して拡大させ、その中心部に宮殿を建て、いつでもお越しになりましても」
「それはありがたい こちらも準備はしているものの、道半ばで そうだな、リョウセイ」
「はい、五所の里で軍備を整えているところです」
「軍備が整い次第に、大倭国に参ろう」
「我が主人にそのように伝えます」
「リョウセイ、いつ頃、軍備が整うか」
「あと2年か3年は掛かると思います」
「3年ぐらいですね 主人にそう伝えます」
物部日向馬は使者の役目を終え、高島宮の宮殿を出ようとした時、後ろから声を掛ける者がいた。それは、息長遼瀬依でした。
「物部日向馬さま、少しお話があります」
「あぁ、先ほどの」
「私、息長遼瀬依と言います 今、淡路の国で鉄器の武器や鎧を作らせています」
「そうですか それで、私に何か」
「あなた様に兄弟がおられたことをお聞きになったことがありますか」
「う~ん、私は一人っ子だと父上から聞いています」
「父上さまは、ご健在ですか」
「はい、歳が言っていました 物部一族の業務から引退していますが、元気です」
「母上さまも元気にされていますか」
「元気にしていますが 何故、そのようなことを聞かれるのですか」
「それは、私が大倭国に行きましたら、その時にお話します」
物部日向馬は、何のことか解らなかった。でも、息長遼瀬依は、この人が兄弟であることを確認した。
物部日向馬と息長遼瀬依の兄弟は、ヤマト王権の土台を作るために働きます。




