第1話 花嫁大会
「ファーマ様!ご無事で、その女は?」
探索村の入り口で、エルムがファーマを目ざとく見つけて駆け寄った。
ファーマはルナーダと共にリトルエルフの一群と彼らが担ぐ縄で縛られた女を引き連れている。
「ルナーダ君大丈夫だった?」
再会を喜びサエがルナーダに抱き着いた。
デレデレと鼻の下を伸ばしたルナーダの所にドタンがやって来ると呟く。
「いいなあ、兄貴は...」
「いやあ、良かったわ~正直、マジで。」
しゃがんでドタンとルナーダがこそこそ話をしていると、耳をつねられ引き挙げられた。
「いててて、ってココルの婆じゃないか?」
「王都で青髪の我が君が首を長くしてお待ちだよ、さっさとワイバーンに乗りな!
お嬢ちゃんが買った服の乗った馬車? 後で届けてやるよっ!」
スカイブルーの大空高く舞い上がる黒い影。
「わあっ凄いっ!ねえ、ルナーダ君、私達空を飛んでるわっ!」
「サエ、喋るな!今から早くっなるから!ぐっ!」
力強い筋肉が躍動し一瞬で収縮すると、それは飛翔するワイバーンに圧倒的な加速度を与え、腰縄でワイバーンの首輪と繋がれていなければ一同空高く放り出されていたであろう。
「婆~、手加減しろ~!」
半目を剥きながらドタンが叫んだ。
ルナ―ダも叫んだ、何か叫んでいないと意識が飛びそうだった。
「くそっ!なぜファーマが乗りたがらなかったのか今分かったぞ~!」
◇■
王都の群衆は突如空から飛来した黒く凶悪な飛竜におののきパニックになった。
しかし、一番に逃げ出すべき国の重鎮は屋外に準備された黄色い天蓋の中で椅子から一歩も動かなかい。
「おーい、連れてきたよ~。」
「ご苦労、ココル。さてサエよ、以前申し渡した様に大会に参加して貰おう。」
「そんな、事は...俺が...許さ...ん...。」
「救護班、少年が二人泡を吐いている。連れて行けっ。」
ルナーダ達が担架で運ばれて行く中、サエはふらつく脚で踏ん張りながら深々と礼をする。
「王様、私は孤児です!そのような大会に参加するなど...」
「孤児で結構、連れて行け!」
有無を言わさず連れて行かれた登録所は仮設テントにあり、外は女性の長い列が出来ていたが、近衛兵達はずかずかとテントに踏み込んで行くと強引にサエの手続きを済ませてしまった。
大会のプログラムを片手に戻って来たサエは衛生所から戻ったばかりのルナーダ達と遭遇すると情けない声をだす。
「とほほほ、参加する事になりました。」
「ちょっとプログラムを見せろ。何々1日目は洗濯?その後、掃除・育児・料理だと?はーはっはっはっ、ドタン見ろこれ。」
見せられたドタンも一緒に大笑いを始める。
「ちょっと!そんなに笑う事ないじゃない?見てなさいよ、明日びっくりさせてあげるから!」
翌日の大会は総勢8000人の参加者が王都の郊外に設けられた特設会場に一堂に集められた。
未婚女性で年齢が15~30歳までは自由に申し込が出来るいう触れ込みだったが、会場の都合で人数には上限があったらしい。
しかし集まった見物人の数はその数倍。会場は人で人を洗うような状況であった。
ルナーダもドタンと一緒に見物に行ったが、人垣が厚くとても観戦できるような状況では無い。
「おい、無理だぜ帰ろうぜ兄貴。」
「むう~、折角来たのに。」
だが試合結果は会場に設けられた巨大拡声器で実況されると聞き、二人はその場に座り込んだ。
「なあ、拡声器ってなんだ?」
「声を大きくするんだ、魔法だな。」
最初の種目は『洗濯』。
「なあ、ルナーダ、王様の妃ってのは洗濯もするのか?」
「王妃が洗濯なんぞ一生縁があるまい。それは下女の仕事だな。」
「じゃあ、何で審査するんだよ?」
「知るかっ!そもそもこんな大会など不必要だ。」
そこへ放送が始まった。
並べられた水の入った桶の前に並んだ8千人は配られた汚れ物を一斉に洗濯し、終わった順番に審査員の前に並ぶ。結果を見て審査員が言う番号のゲートをくぐり振るい分けされるという。
『さあ、皆一斉に洗濯を始めました、おっと早い早い凄い速さで手が動いています。おやもう立ち上がって走り出した人がいるようです...いけませんね、終わったら水を捨てて桶を持って審査員の前に並ばなくては行けません。』
『そんな事をしたら会場が泥沼になってしまうんじゃ無いですか?』
『そうなりますね~、そうすると折角洗った衣類を移動中にまた汚してしまう恐れがあります。』
『なるほど~、そこに気が付いた賢い女性が急いでいる訳ですね?』
「なあ、これ...聞いてても今一だな」
「ああ、選手が多すぎて真面な実況なんて無理だ。」
文句を言いながら、寝そべって放送を聞いて居るといつの間にか終わった様である。
二人が宿に戻るとサエが先に戻っていた。
王都の孤児院にやっかいになる、と言った彼女に王が直々に宿を取ってくれたのだ。
更に王はルナーダとドタンの分も部屋を確保してくれていた。
所で、サエは何やらご機嫌である。
「何だ、ニコニコして? 上手く洗濯出来たのか?」
「えへへ、聞いてよ、洗濯桶貰えたんだよ!これ買ったら結構するよ?王様って気前良いわよね~。」
「ちっ税金の無駄使いだ...」
翌日、王都中をお触れが練り歩き、ゲート番号が8番の受験者が合格だという。
「うっ受かっちゃった...私のゲート殆ど人が居なかったから絶対落ちたと思ってたのに~」
ルナーダはおたおたするサエを見ながら提案した
「なあ、こっそりバックレちまえよ、あれだけ居たんだ、審査員もお前の事を特定なんて出来ねえって。」
「そうね、私孤児院に泊めて貰って王都で仕事探しでも始めようかな?時々はルナーダ君に会いに行っても良い?」
「それはならん!」
良く通る声。
おそるおそる振り返ると戸口に青髪の王が立っていた。
「王がホイホイ街中に出現するんじゃねえっ!」
「うむ、正論じゃが、不敬罪で牢屋に入れてやろうか?」
「済みませんでした!」
「ルナーダの兄貴、かっこ悪いぜ。」
どうやら監視されているようなので逃げる訳にも行かず、第二種目である『掃除』の会場に向かったサエは初めて郊外のコロシアムに足を踏み入れた。




