第6話 黒蛇と女
帰り支度の指示をするファーマにエルムがリトルエルフをどうする心算なのかと尋ねた。
「森ごと焼き払おうかしら?」
「どうかそれだけはお辞めください、私達まで暮らせなくなってしまいます」
「裏切り者を放っておくことは出来ないんだけど~」
「...助けて下さい。」
床に転がされた小さな体から声が上がった。
「お前達の王の所まで案内するというなら考えんでもない。」
「..分かりました、ご案内します」
「返事が素直過ぎるから信じられないわ。」
ファーマが杖を構えたので哀れなリトルエルフは涙を流しながら許しを請うた。
「本当です、誓います!王はあの人間の女が来てからおかしくなってしまったのです。」
「人間の、女?」
「はい、彼らは突然現れ、貢物があると何日も森の中で叫んでいました。怪しかったのですが、王の命令で使者が出向くと実際に貢物を渡したのです。」
「胡散臭いな、何が目的だ?」
「はい、王もそう考えましたがそんな事が数年も続き、とうとう王は使者と会うことをお許しになったのです。」
「そして会ったらおかしくなった?洗脳の類か?」
「分かりません、献上物の中に王のみが飲むことを許された不思議な液体がありました。毒見をしたものが酔っ払った様になって王に暴言を吐いたのでその場で殺されましたが、その液体が怪しいです。」
「麻薬の類か?それで判断力を奪い、麻薬欲しさに従わせている...」
「魔女様に逆らうなど決してしてはいけない事だったのです、どうか王を討って下さい。」
ルナーダとファーマは視線を合わせると頷いた。
「では案内して貰おう、但し正面からは入らん。こっそり中に侵入する手助けをして貰おうか?」
皆で行っては目立つというので、ファーマとルナーダの二人で侵入する事になった。
「エルム、二人を案内所まで無事届けてくれよ?」
「はい、戻るだけなら何とか大丈夫だと思います。」
別れた三人は道々語り合う。
「なあ、あの秘薬何に使うんだろうな?てか、そう言えばお前、ノームに血取られてなかった?」
「何かしらね~?別に私のでなくても良い気がするんだけどね~」
「サエさん、もしかして特別な血を持っているとか?」
「無い無い無い、だって私は孤児だよ?それをいうなら侯爵家のお坊ちゃんのドタン君の血の方が高貴で希少じゃないかなあ?」
「えっ?ドタン君ってお坊ちゃんなの?3年したら私と付き合わない?」
「ちっ、元な...父と母の悪行がファーマに暴かれて二人とも牢屋行き、領地は没収された。」
「じゃあいいや、頑張って生きてね?」
「エルム、この野郎~」
彼らが森を南下する中、ルナーダ達は寝返ったエルフの案内でリトルエルフの城を目指していた。
エルフの名前はヘテと言った。
「あの~、この鎖取っては頂けませんか?」
エルフの細い右手首には鉄の錠が取り付けられていた。
錠はルナーダの左手と鎖で繋がっている。
「逃げたら探すのが面倒だから駄目だ!」
「でもお城に着いたらどう説明すれば良いんですか?鎖につながれていたら皆怪しみます」
「お前が繋がれているんじゃない、俺達がお前に捕まった事にすればいい。」
ルナーダは右手にも鎖を掛けるとそれをファーマの細い腕に縛り付けた。こうして捕まったフリをしたルナーダは切り立った崖沿いの森を行く。
「ここだ、今開ける。」
突然立ち止ったヘテは崖の石を掴むとぐるりと回す。
すると崖だと思っていた岩肌が音を立てて後ずさりを始めた。
「森のエルフというからてっきり木の家に住んでいるものと思っていたが、これは見つかない筈だ。」
ルナーダの呟きは中から出て来た無数のエルフ達によって遮られた。
人間を捕まえたというヘテの言葉は王に伝わり、王の間に連行される。
そこには胸元が大きく開いた真珠色のロングドレス姿の人間の女が、小さな王にしだれかかる様にして座っていた。
女の白い腕には黒い蛇が2匹絡み合い這っている。
「黒蛇...では我が君を暗殺しようとしたのはお前か?」
ファーマは鎖を鳴らしながら女を指差した。
「ほーっほっほっ、残念ながら死ななかった様だけど誰か解毒したのかしら? でも残念だったわね、私の毒は致死性と呪いの二つが合わさっているのよ。片方が失敗してももう片方が確実に発動するわ。まあ青髪の王が破廉恥王に変わるとは予想もしていなかったけど、毎日昼間っから女どもを侍らしているそうじゃないの?ねえ、狂乱の大魔女ファーマ?」
「ほほう、若いのに儂の名を言い当てるとは大した者じゃ。差し詰め貴様は聖王国のお抱え魔女と言った所かのう?」
「おほほほ、しれた事。ダナールにお抱えの魔女は一人だけ。つまり王を主と称するお前は厄災の魔女。それで、何をしにここまで?まさか私に呪いの解き方を乞う気かしら?」
「ふんっそんなもの鼻っから知っている。貴様が使った毒は南方に生息する赤いハブの毒、そして呪いの方は王を呪った本人の血と北の祠で取れる聖水を混ぜた物だから解毒剤は同じく王を呪った一族の血と聖水から作成可能。」
「おーほっほっほ、誰が呪ったかも分からないのに?」
得意満面な女の脇でエルフの王は焦点が定まらぬ目のまま無言で座っていた。
「呪ったのは聖王国第一王女、フェリーナだ!」
「何?このガキンちょ?大魔女同士の話に割り込んで来るなんて不愉快。」
「何が大魔女だ、この厚化粧婆め!お前程度の魔女が伝説のファーマと同じ立ち位置とは大笑いだ。いいか?解毒剤はもう手に入れた、ダナール王国は聖王国に宣戦を布告する!」
「おーほっほっほ、戦争ごっこは外でおやりなさい。そろそろファーマも動けなくなったかしら?」
「麻薬の...蒸気か...?」
「ご明察。」
女は立ち上がると両手を高く上げたので驚いた片方の蛇が慌てて首元に巻き付いた。
そして床にもう一匹、どさりと落ちた蛇に続いて女も無言で崩れ落ちる。
「気絶させました」
「よし、連れて帰って牢に叩き込んでおけ。」
この期に及んで慌ただしくなった王宮内のリトルエルフ達に対してファーマは大声で宣告する。
「我は古の約定の魔女!誓いを破った疎かな王を斬首する。」
鎖をほどいたファーマが杖を水平に振ると離れた王座で王の首がポンっと飛ぶ。
「後継者は誰か!?再び私に誓いを立てよ、さもなくばこの森毎全てを焼き払います!」
小人のエルフ達の中でも一際小柄なエルフが走ってきた。
裾の長いドレスは彼女が女性である事を物語っている。
「約定の魔女様!私が王女のモーリです。大魔女様にお誓いします、我ら森のエルフは貴方様とのお約束通り岩の怪物を世間から隠し、封印を守り続けます!」
「その言葉、決して違える出ないぞ!その女を連行するので連れて参れ!」
こうして狂乱の大魔女は去って行った。




