第5話 封印されし魔物
「なん、だと...こんな物、この俺でさえ聞いた事がない!」
絶句したルナーダの脇でサエとエルムが恐怖に悲鳴を上げようとするがそれは声にならない。ドタンに至ってはいち早くファーマの陰に隠れてしまった。
「あれは古の魔法が生んだ殺りく兵器、ドラゴンゴーレムです。エルフ共め古の約定を違えあんな物迄復活させていたとは...滅亡させましょう!」
「えっ?ファーマちゃん、滅亡って?あの大きな奴を倒すって事?エルフさん達の事じゃないよね??」
エルムがパニックに陥ったがファーマは既に超高速で移動した後だった。
ドラゴンゴーレムの体を覆う岩の様にでこぼこした外皮に炎弾が撃ち込まれると、スターマインの様に彼方此方でパンパンと火花が飛び散った。
しかし煙の去った跡は傷一つ付けられていない。
だがファーマは気落ちするどころかブルブルと体を震わせる。
「ふっ!確かに完全に復活している様です、あの頃を思い出します!」
握る杖が小刻みに震え、杖先に光が灯りだす。
「バールムデ・エールト・ナディスクラータ・エムダーラムナ…」
「おい、お前ら逃げろ!マジ呪文だ!」
ファーマの事を一番よく知るルナーダの号令で、残りのメンバーは一目散に走りだした。
走る背中から信じられない光量の光が差してきたことを、灼熱の日射を連想させる後頭部の火照りに加えて、見る見る色濃くなる自らの影を前方に見ながらサエは全力で走った。
(怖い怖い怖いっ)
恐怖に背中を押され転びそうになる。
「地獄回廊!」
カッ
光の波が押し寄せ、まるで光が背中を押したかの様にサエは前のめりに転倒した。
岩だらけの山肌で、下手に転倒すれば頭を打って大けがになりかねない。だがサエは辛うじて顔を庇うのが精一杯であった。
ガシャン!
胸当て越しに衝撃が背中へ突き抜けた。
(ああ、すこし曲がっちゃったかも知れない...)
折角ルナーダに駆って貰った胸当てを傷つけてしまった事にサエは罪悪感を覚えた。
暫く起き上がれなかった。
しかし光が消えた後の世界は何時まで経っても無音で、およそ戦闘中とは思えなかった。
1分は臥していただろうか?
意を決して立ち上がり、振り返ったサエの目に飛び込んで来たのは、まるで海底にいる巻貝の様にねじれた動かないドラゴンゴーレムの姿であった。
「ふう~、ちょいとキツイ、この魔法は。」
そういってファーマはよろよろと尻餅を付く。
「ふぁっファーマちゃん、大丈夫?!」
慌てて開け寄ったサエの腕は岩肌にぶつけて傷だらけになっていた。
「サエちゃん、酷い怪我!今治癒の魔法を掛けてあげるからそのままじっとして。」
「私の事なんかより、あんな魔法を使って体は何んとも無いの?」
自分より他人を心配するサエを見てファーマは内心喜んだが、そんな素振りは見せずに淡々と治癒魔法を使う。
そこに、他のメンバーも戻って来た。
「凄いなファーマ、こいつ未だ生きてるのか?」
「生きて居るかと聞かれても、もともとゴーレムは生命ではありませんし..強いて言うなら動きは停止した状態です。」
「じゃっじゃあ、もう動かないんだな?」
ルナーダの陰に隠れるようにしてドタンが尋ねると、ファーマは断言する。
「いいえ、今回の様に誰かが意図して私のかけた魔法を解除すれば、また動きだします。」
「そんなぁ~、如何すれば良いんだよ~」
頭を抱えるドタンにファーマは冷酷に笑った。
「勿論、解除の秘密を知っている者達を滅ぼします、二度目は有りません。容赦はしません。」
■◆
ファーマ曰く、大昔に邪悪な呪術師がこの地を制圧しようとした時にエルフやノーム達森の民は呪術師に支配されており、制圧の先兵であった。
其の呪術師達を北の祠で滅ぼした後、ファーマは暴走状態に陥ったドラゴンゴーレムを鎮め、エルフ達の救世主として崇められる。
子々孫々ファーマに仕えると申し出たリトルエルフの長に、当時のファーマはドラゴンゴーレムを起こそうとする者達からゴーレムを隠す事を約束させた。
「ですが、どうやら長い年月の末、約束は忘れられてしまったようですね。」
ファーマがふっとため息を付くと、サエが慰めた。
「でも、古の約定ってエルフさん達ハッキリ言ってましたよ?忘れられてはいないと思います。」
密林の中でエルフを探す事は困難を極める。
なのでファーマは先を急ぐことにした。
「もうすぐ祠ですよ。」
ファーマがいたわる様にルナーダに囁いた。
ルナーダは慣れない登山で足はがくがく、膝はブルブルである。
「さあ、着きました!」
「やったー!」
着くなりルナーダとドタンは冷たい祠の地面に倒れ込む。
祠の奥は真っ暗で有ったが、ファーマが一つ指を鳴らすと魔力の渦が魔力を再構築し、魔力が籠った蝋の霧となる。霧は更に渦巻くと棒を形取り、テッペンには心棒が頭を出す。
魔法の蝋燭たちはまるで意思でもあるかのように空中をあるき祠の壁に張り付き、頭の心棒から火を放った。
ぱっと祠の奥が明るくなる。
事情を知らない者の目から見れば、突然壁に火のついた蝋燭が現れた様にしか見えなかっただろう。
「何者っ!」
灯りに照らされた祭壇には無数の武装したリトルエルフ達が息を潜めていた。
中央に一人の人間の騎士が座っている。良く磨かれたフルプレートアーマー姿だ。
ガチャンと立ち、シャーと抜刀した騎士の兜の中から声がした。
「信じられん、ここまでたどり着いたという事は女子供だけであの化け物を倒したという事になる。」
「事実だ、貴様も大人しく投降しろ、そうすれば命だけは助けてやる。」
ルナーダの勧告に騎士は無言で剣を突き出した。
小柄なエルフ達が一斉に跳躍し迫る。
サエとエルムが思わず抱き合うがエルフ達は二人に到達する前にバタバタと勝手に地面に落ちて行った。
「魔法か?なるほど強い。」
そう言って鎧の男は派手な音と共に倒れ込んでしまった。
「その男にはまだ攻撃して居ません。」
ファーマは男に駆け寄ると兜を剥がす。
中からは30代くらいの口髭を生やした金髪の顔が出て来た。
口から泡を履いており、既に脈は無い。
くんくんと男の口元を嗅いだファーマは近寄るパーティーメンバーを手で制す。
「猛毒です、危険ですからこの男に近づくのは止めて下さい。」
死体は祠の外へ投げ出され、気絶したエルフ達は皆縄で縛られた
「それでは目的の儀式を始めます。」
「えっと、私達ここに居ても良いんですか?」
「大丈夫です、直ぐ終わりますから。」
ファーマが祭壇の上に黒い漆器の小さな器を置くとそこには透明な液体が湧き出て満たされた。
「サエちゃん、ちょっとこっちに来て、所でルナーダ様に恨んでいる事無い?思い浮かべててね、ちょっと指を出して、ちくっとだけするから我慢して、はい終了。」
器の中にサエの血が一滴落ちるとそれは瞬く間で墨汁の様に黒くなった
「じゃあルナーダ様、飲んで?」
「おい、呪われたらどうするんだ?」
「でも効果を確かめないと。」
「分かったよ!」
ルナーダが杯を煽ると見る見る内に目から涙が溢れ、くしゃみを連発し始めた。
「あら、花粉症になった...」
「ええ~っ、最近ルナーダ君の目つきがいやらしいから何とかならないかなあって思い浮かべました!」
「じゃあ成功ね、あれじゃあ涙で何も見えないわ。」
「ぶえっくしょい、ばやく、だおせ~!」
「ではこちらが本命」
そう言いながらファーマはハート形の小杯を持ち出すと、再度器に充満した透明な液体を注いだ。
「はい終了!」




