第2話 二頭身
最近サエは自分がちやほやされている事に気づいていた。
(もて期ってやつかしら、でも二人とも未だ子供なのよね~)
「サエさん、なにかお悩み?」
野営の焚火でこんがりと焼かれた旨そうな野兎の腿肉を差し出したのは案内人のエルムだ。仕留めたのは弓の名手であるエルムである。
「いやぁ~大した事じゃないのよ~」
そう言ってサエは暗い森を見た。
先ほど男子共が小人を見かけたと言って慌ただしく駆けて行った方向だ。
「ああ~、心配なのね?大丈夫よ、あの大魔導士様が付いているんですもの。」
後先考えずに走り出した子供達を慌ててファーマが追いかけて行った。
「うふふ、そうね、きゃっ!」
何かにくるぶしを撫でられた気がしてサエは思わず悲鳴を上げる。
「きゃあー!」
エルムは後ろからのしかかって来た暖かい何かを払いのけると腰の短剣を抜いた。
その姿を見て思い出したかのように背中の長剣に手を伸ばしたサエは剣を抜く前に何かに足を取られ転倒する。
その拍子に一瞬目を瞑ってしまった。
直ぐに目を開けるが、顔前には今までお目にした事のない二頭身半の小さいな小人が髭をしごいていた。
「なななな...うぐっ!」
鼻の両穴をクルミ程の両こぶしで塞がれた弾みに息を大きく吸い込むと、なにやら妙な粉が喉に絡んだ。
見ると目の前の小人は口をすぼめて息を押し殺している。
拙い!と思ったが急に眼の前が暗くなって意識が落ちて行った。
■□
「ドタン、テメー、猫くらいの小人なんてどこにもいねえじゃないか?」
「何て言ったらいいんだろうなぁ~、ずんぐりむっくりというか、顔が妙にデカいと言うか。」
プチン
何かの糸を足に引っ掛けた様だ、蜘蛛の糸にしては弾力が有り過ぎだった。
そう言えば、先ほども1本そんな糸に足を掛けられた気がする。
もしかして糸を吐くモンスターでも近くに居るのだろうか?
「気持ち悪い小人だな? 7頭身くらいの羽の生えた美少女とか居ないのかよ。」
「そりゃ小人じゃ無くて妖精だ...」
ぎゃあぎゃあ煩い二人の後ろを、杖で辺りを照らしながらファーマが付いていたが、突然彼らの背後から悲鳴が聞こえた。
「サエちゃんの声だわっ!」
三人が急いで焚火の場所に戻ってみると、そこには眠らされたエルムと踏み散らかされた焚火だけが残されていた。
ルナーダが燃えた炭の様に真っ赤になって叫ぶ。
「なんでアイツは何時も攫われるんだっ!」
「あれじゃないですか?ルナーダ様、大勢でキャンプに行っても一人だけやたら蚊に刺される人っていますよね?多分体質的な...」
「そんな体質など有って堪るかっ!」
「エルムっ!エルムっ!目を覚ませ!サエを攫った奴は何処へ行った!」
ドタンがエルムを激しく揺さぶるが全く起きる気配はない。
「仕方が無い、ドタンお前はここでエルムを守っていろ、俺とファーマはサエを追う」
「じょーだんじゃないっ!俺がサエを探すから、ルナーダがエルムの番だっ!」
争う二人にファーマは近寄ると彼らのベルトに何か小さな紙片の様な物を押し込みこう言った。
「もう、二人でいってらっしゃいな?私はここでエルムちゃんを介抱しているから。」
◇■
夜月の微かな光を掻き分ける様に二つの松明の炎がジグザクに進む。
「サエ―!どこだー!返事をしろー!」
「おいドタン、大声を出すと敵に気づかれてしまうぞ?」
「じゃあお前、どっちに行けば良いのか分かるのかよ?」
立ち止った二人は顔を見合わせた。
「おい」
「ああ、いつからだ?囲まれている...」
それは2頭身の小人達の群れだった。
皆揃いの木の帽子を被っている。
目をこらすと、鉛筆の先の様な円錐形の帽子には彼方此方キノコがこびりついていた。
「くそっ!小人相手なら10匹くらいなら行けそうな気がするんだが!」
ルナーダは手に持った木の棒を握りしめた。
「おいおい、お前そんな物で戦う気か?」
「お前じゃ無くてルナーダの兄貴だっていってるだろう。そういうドタンだってなんだそのチンケなナイフは」
ドタンの護身用ナイフは刃渡りが親指程しか無かった。
「“#&%$”!」
突然、早回しのテープの様な甲高い声と共に100は超える小人達が襲って来る。
二人は獲物を闇雲に振り回すが、直ぐに小人達の津波に飲み込まれてしまった。
「¶ΘΨ!¶ΘΨ!」
縄で捕縛された二人は勝どきを上げる小人達によって連れ去られてしまった。
その頃、キャンプ地ではエルムが目を覚ましていた。
「ファーマ様!ノームが出ました!」
「ノーム?奴らは基本的に人には襲い掛からん筈じゃが?」
「最近ノームの王になったカンタウと呼ばれる男が戦争を唱えているのです、しかし小競り合いは有っても向こうから積極的に仕掛けてくるなんて事は聞かなかったのですが...」
「奴らの住処を知っておるのか?」
「ご案内出来ます。」
二人が向かった先には木で巧みにカモフラ―ジュされた砦があった。
「もの凄い数の警備ですね。」
月明かりに照らされた広大な砦の周辺は至る所に三角帽子が蠢いている。
「仲間を攫ったのですからそれ相応の罰を受けて貰いましょうね、アラレンプンテー!」
魔法は夜空にこぶし大の雹を無数に呼び、雹が小さな雲を形どると杖の一振りで一斉に地上目掛けて落下した。
「#$!」「#$!」「#$!」
バリバリバリバリ!
彼方此方で小さな叫び声が上がったが、雹が木の枝を引きちぎる音の大きさにかき消される。
轟音は砦の中に捕らわれていたサエの耳にも届いた。
目覚めて直ぐに天井が見えたので首を左右に振ろうとしたが髪の毛が引っ張られて動かない。
どうやら体を固定されているらしい。
それに、左手の指先が何やらチクチクする。
何かがどすんと胸当ての上に乗った。




