《Trip14ー③》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「解かりました。その女性の借金は支払わなくても良い様に手配致しましょう。」
「いや、そぉやないねん。」
んな事にしてもうたら、俺ん所に相談にさえ来たら、借金がチャラになると考えおるアホが湧いてきおるやん。
せやさかいに、根本的な解決法を示さんとあかんねや。
「こん一連の騒動でな、ちょっとこん街の為になる事を思い付いたんや。やけども俺一人やと力不足でね。せやさかいに、是非ともベルグにも一丁噛んで欲しいねや。」
「それは吝かではないのですが………」
俺ん言葉に賛同しながらも、いまいちノリが悪いベルグ。
ここは何時もの『夜霧亭』やなしに、大人の社交場の方。
確か『銀狐館』やったっけ?
賑やかなホールの一角で、俺等は酒を酌み交わしつつ、俺の思いつきの話をしとる。
呑んどった方が、頭の回転が早いさかいな。
せやのに、ベルグの反応がも一つ悪い。
もっとノリノリで乗って来ると思とったけどなぁ。
「私の素性はご存じだと思いますが………私の様な裏社会の者が賛同すれば、何かと要らぬ勘繰りをされるのでは?」
なるほど。
前向きになれんかった理由はそれかい。
まぁ解らんでも無いけど。
一応裏稼業の人間が関わっと、あぁだこぉだ言う奴はでてきおるさかいなぁ。
せやけど、んな事ぁ………
「知らん。」
「知らんって………」
俺ん答えに言葉をなくすベルグ。
やって、しゃぁ無いやん。
何やったって、言う奴は言いおんねんて。
そんなんを気にするだけ酒が不味うなるわ。
「そっちも色々と知っとると思うけど、俺がこの街に来てからまだ極僅かや。その上只の酔っぱらいやさかいにな、力を持ってて気安く話せる友人が少ないねん。」
なんぼええ話を思い付いたって、バックボーンか無けりや絵に描いた餅やがな。
せやから、そん思い付いを形にしてくれる稀有な存在が、どんだけ心強うて頼りになるか。
「そこには私も含まれるのですかな?」
「当然やがな。どんだけ甘えさしてもうてると思とんですか。」
横合いからのゴーランドさんの茶々入れに、顔を見合わせてがはははと笑い合う。
まるでヘプバーンの名を冠した話芸の匠の様に………
俺が持つ最大級のコネや言うたら、やっぱりゴーランドさんは外されへんやろ。
この街でもかなりの顔役らしいし、難しい話をしても笑って受け入れてくれそうや。
こないな俺の何を気に入ってくれたんか、こん店でもちょいちょい一緒に呑んでたりする。
「いやしかし………やはり宜しくないかと。」
何をそないに気にしとんのか、今だにベルグがうだうだ言うとる。
そないに考える事かなぁ?
一昔前の日本やったら、ヤクザの大親分さんがCMにでて、社会福祉とかに協力してまっせと喧伝しとったで。
『一日一善』とか言うて………
規制が厳しなったからか見ん様になったけど、災害支援を積極的にしとったんは、行政よりもヤクザ屋さんやった。
絶対に報道されんけど。
勿論イメージアップ戦略でもあったやろ。
せやが、困っとるモンからしたら関係あらへん。
動かん能書きよりやる偽善。
外野は放っといたらええねん。
「知ったこっちゃないがな。お前ん事を悪ぅ言う奴居ったら、俺がきっちり説教したるわ。」
ホンマはシバクけどね。
当たり前やん。
人様の呑み友に理由も無うてやぁやぁ言うんやったら、張り倒されても文句言う資格ないやろが。
「でっ………ですから、そうでは無く………」
まだ言い返したいんか、少しどもりながらも何とか言い募りおる。
顔が少し赤い気もすんが………
何でか知らんけど、ゴーランドさんがニヤ付きながらベルグを見とる。
「それにな、誰彼なしに頼んどん訳やないで?俺なりの基準があるんや。」
そないなベルグを遮って、俺は話を続ける。
なんぼ俺でも、適当に頼んで回っとる訳やあらへん。
これっちゅう人しか頼まんわい。
「基準ですか………」
咳払い一つ。
何やら体裁を整える様にしながら、こっちの話を促しおるさかいに、俺も正直に答えたる。
「せや。こん街を好きかどうかっちゅうこっちゃ。」
ぷっ………
わははははははははは………
「いやいや、流石のベルグ殿も形無しですなぁ。」
「いやはや………参りましたなぁ………」
そない言いながら、ベルグは頭を掻いた。
「………託児施設ですか?」
俺ん言葉を理解しようとする様に、ゴーランドさんが呟く様に復唱した。
少し訝しげな顔をしながら………
「せや。こん街の人手不足の理由は女性が働けん事。そん理由が育児ん為やと言うんやったら、そん部分を肩代わりしたったらええやん。」
ガルストンさん所で聞いた話。
寿退社は喜ばしいねんけど、それで女性の離職率が高なってもうて、人材確保に苦労しとるってやつ。
解決法はめっさ簡単。
さっきも言うたが、子育てが就業の障害になるんやったら、そこん所を肩代わりしたったら万事解決やがな。
「それはそうなのですが………その施設を我等で経営致すのですかな?」
「せやないんよ。経営となったら儲けを出さなあかんやん。それやったらやる意味あらへんねや。」
家庭の懐事情が苦しいさかいに借金こさえとるモンまで居るんに、金取る施設に子供を預けようたぁ思わんやろ。
「では、どの様にお考えで?」
ここで今まで黙っとったベルグが、俺の真意を問い質しおる。
そん顔少し恐い。
解らんからこそ疑っとるんやろう。
俺がいらん事考えとりゃせんか。
せやから………………
「こん街で運営すんねや。」
「公共事業に為さるので?」
俺の返答にゴーランドさんか驚愕しはる。
まぁそぉやわな。
商人のゴーランドさんからしたら、一銭の得にもならん事をしようとしとる事が信じられんのかも知れん。
やが、こんな事で儲けようたぁ思わん。
正直めんどい。
「そうそう。こん街の予算にある程度組み込んでもうて、後は持ってはる方からの融資で賄うねや。」
「………どの様な方々からを想定されておられるので?」
一定の理解を示したゴーランドさんが喰い付いて来た。
確かこん街の名士やったと思うし、少しは興味を持ってくれたんかも。
「主に商人さんらからやな。お貴族さんも含んだってもエエねんけど………あんまエエ印象ないからなぁ。」
「商人が無闇に金を出しますかね?」
ベルグも興味が出てきたんか、口を出してきおった。
ええぞええぞ。
こん二人に乗ってきてもらわんと、そもそも話が進まんさかいなぁ。
「そやから『旨味』を出したんねん。」
「『旨味』………ですか?」
「そうそう。例えば………子供を預かる条件として、出資している所で働いている家庭の子供に限るとか?」
提案の一つを上げると、二人共に驚いた顔しおる。
そないに以外な話か?
自分所の従業員を確保しときたったら、それなりに金出せぇって話やんかいさ。
逆に言うたら、それ位の利点が無うたら金出す気にもならんやろう。
「そん他を言やぁ………ちなみに働きに出れる最低年齢って幾つぐらいなん。」
「………明確ではありませぬが、概ね十の歳位ですかと。」
次は何を言い出すのかと、訝しむ様にゴーランドさんが答えてくれる。
こっちは気にもせんと次の案を出してみる。
「ほな十歳までの子を預かるとして、その間に最低限の読み書き算学を教え込むねん。で、その後は最低数年間は投資先で働く事を義務付けるとか………」
「この街で学園を経営させるのですかっ!?」
俺の提案にゴーランドさんは声を上げ、ベルグは椅子から腰を浮かした。
「そない大層なモンやあらへん。働くんに必要な最低限の教養を教えるってだけや。」
最低限の教育をする事って、そないに驚かなあかん事か?
そーいや何かで読んだけど、支配者階級は市民が学を付ける事を良しとせなんだとか。
民衆が頭が良うなると、政策の不備に気ぃ付くからとからしい。
やが、個人的にぁそないなるかは甚だ疑問やわ。
元ん日本は教育が行き届いとると思うけど、腹黒い政治家や官僚にええ様にされとるさかいなぁ。
昔の大阪みたいに、暴動があったらええのにと思うわ。
閑話休題。
「確かに………その辺りは、雇った後に商家が補っていた部分ですが………」
ゴリゴリの商人のゴーランドさんが、話を噛み砕いて吟味しはる。
おそらく一番手ぇ掛かる所を肩代わりしたんねんから、商家からしたら決して損は無いはずや。
「せやろ?それに足してどの子を雇うかは、投資金額によって優先順位を付けたんねんや。」
言うたらドラフト制みたいなもん。
ようけ金出してくれんのやったら、優秀な人材が囲えまっせぇってやったんねん。
もちろん雇われる側の意思も有るけど、金回りのええ所やったら給金もええやろうし、よっぽどの事がないと断られへんやろ。
「………そういう話ならば、商家にも魅力が御座いますなぁ。」
腕を組んで考え込むゴーランドさん。
この制度を導入した際のメリットだけやなく、自身の利点まで考えとるんやろう。
下手したら、もう投資金額まで考えとるんかも知れん。
「でな?預かる子供にも条件を付けんねん。」
「子供にもですか?」
以外そうにベルグが言いおる。
俺が預かる条件を子供に求めるが予想外やったんか?
せやけどな………どん子供も真っ当に育っとるたぁ限らへん。
頭んネジが緩んどる大人が量産されとんねやさかい。
「さっきも言うた、どっちかの親が出資しとる商家で働いとる事。一定年齢に達したら、真面目に学ぶ事。他人を貶める様な行為はしない事。不当な暴力行為はせん事。」
親の鏡でもある子供が、しょうも無い偏見や要らん考えに染まっとる可能性もあるやろ。
そん時にアホらしい身分制度に振り回されん様に、他ん子供を守る為にも必要な制度やと思う。
これだけは絶対守って欲しいわ。
「なるほど………魅力的な提案ですな。勿論、議論や改良の余地は御座いますが。」
乗り気になってくれはったゴーランドさんの鼻息は荒い。
たしか『商業ギルド』とかのエライさんやったとか言うとったさかい、きっとこの問題も気にしてはったんやろう。
もしもそうやったら………ちったぁ恩返しできたかなぁ………
ほんなら、もう少し突っ込んでみっか。
「んでな………もう一つ、巻き込みたい所があんねや。」
そないに言い出した俺に、二人共怪訝な顔しはる。
そないに心配せんでもええと思うんやが。
………どやろ?
「………教会や。」
………ヤバい。
二人とも目ぇまん丸や。
やっぱり公共事業に宗教が絡むって、一般的にゃ考えられんのやろか?
やが、人材の確保の為の政策が人材不足で進まんとか、本末転倒過ぎて笑えんやんか。
そしたら使えるもんが有るんやたら、さっさと使うんが正解やろが。
こんなもんはスピードが命やねんで?
聞いてるか?
無駄飯喰うとるおエライさん。
「巻き込みたい理由としちゃぁ、奉仕活動の一貫として使える点や。ある程度教養のあるモンも多いやろうし………教会側の利点としたら、一定の収入がある。布教活動ができるとかかなぁ。」
たしか国が保護しとるしゅうきょうやったら、国庫の予算からナンボか出とるやろ。
それにちょっとプラスしたるさかいに、国民の為に尽力せぇって言うてもええやろうが。
宗教に思う所はあらへんのやが、税金をつこてんのやったら、なんかを国民に還元せぇとは思うわ。
目に見える形でね。
話がそれたが、それ以外にも隠れた目的があんねん。
「それに………還俗もしやすいやろ?」
己が信じた宗教に殉ずんのも個人の勝手やと思うけど、俗世でも信仰はでけるし、人の営みも自然の一部やさかいに、神さんの教えに沿うとると思うんやが。
などと小賢しい理由を並べ立てたんやが、詰まる所は友達の娘を連れ戻す道筋を作ってやりたいっていう、只のお節介や。
「………………旦那ぁ。」
言いたい事を正しく理解したベルグが、言葉を詰まらせながらも俺を呼び、ゆっくりと頭を下げおる。
そん姿は見たぁないさかいに、知らん顔をしとく。
愛娘を思う男親の気持ちは解らんでもないわい。
娘は居らんけど。
「んな話やねんけど。恥ずかしい話、俺は口は出せんねんけど、実際に手ぇ出す事はでけへんさかい、そっちで話を詰めてもらわなあかんねんけど、頼めるかなぁ。」
そない言うて頭を下げる。
俺にでけるんはこんなもんまでや。
どんだけこん街の事を思ても、所詮俺は他所モンやさかいに。
「………承知致しました。確かにこの街の問題の解決法と成り得ましょう。損得感情や利権等が挟まれば、色々と横槍が入る事は予想できますが、必ずや御要望に沿ったものにしてみせましょう。」
そない言うて、ゴーランドさんが自信満々に請け負ってくれはった。
これで一安心や。
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




