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《Trip14ー②》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






「てめぇらぁっ!邪魔するんじゃねぇっ!」




 うっさいなぁ………




 酒場の入り口ってのは、基本的に開かれたまんまや。

 客からしたら店ン中の混み具合とか、様子が好みに合うかとかの情報が知れてええし、店からしても客を呼び込むんに都合がええ。


 元居った日本でもおんなじで、暑い寒いを除いたら開けっ放ししといて、匂いとか笑い声とかで客を誘き寄せたりしとる。


 覚えあると思うわ。


 鰻と焼き鳥と焼肉の匂いは、酒呑みやのぅても胃を鷲掴みにしおるさかいね。

 あれは辛抱でけん。


 せやけど空調が整備される様になって、そんな風情も見掛けん様になったなぁ。

 それでも排気が道側に向かったったりと、企業努力は見えたりすんねんけど。



 閑話休題。


 何時もと変わらん日常………日雇いの仕事をこなし、ひとっ風呂浴びてからいざ『夜霧亭』でぐわっと呑もうかと思とった矢先に、入り口付近で野太い怒鳴り声が轟いてきおった。


 折角盛り上がっとったのに、水差された気分やわ。


 かなりげんなりとしながら入り口を潜ると、何時も見掛ける常連連中と、如何にもなガラの悪い連中とが睨み合っとった。



 ………………………………。



 ほんまの事言うたら、両方共にガラ悪いねんけどね。

 そやけど、こん店の常連さんは女性が多いさかいねぇ。

 言うてしもたら、そこしか判別がでけんっちゅうこっちゃ。


 絶対に言わんけど。

 たぶん殺される。



「っ!おじさぁぁんっ!」

「あっ、旦那ぁ。」

「………何の騒ぎやねん?」


 いち早く俺に気付いたミアが駆け寄って来よると、それに気付いたトマスが人垣を掻き分けてやって来おった。

 そん奥にルミルさんが抱きしめ支える、幼子を抱えて泣き崩れる女性の姿が見えた。


 うわぁ………

 完璧に俺がキレるシュチュエーションやんかいさ。



 ぴきぴきとしとる俺ん足元で、服の裾を摘んで不安な顔しとるミアの頭を撫でながら、トマスの方を向いて現状の説明を待っとったら、横からガラの悪いんの頭(カシラ)らしい奴が、図々しい面で割り込んで薄ら笑いを浮かべやがる。


「そちらさんがあ(・)の(・)『名無しの旦那』で?………こりゃぁどうも。御噂はかねがね………」

「………あ(・)の(・)がど(・)れ(・)かは知らんけど、お前等みたいなんのに知らん所で噂されとんのは嬉しないなぁ。」


 どうせ碌でも無い事噂やろうし。


 不機嫌を隠す気もなく、寧ろ開けっぴろげに眼の前の男にぶつけてみるが、相手も海千山千、薄ら笑いを浮かべてやがる。


 こないな手合いは面倒くさい。


「ご挨拶な事こって………で?どうされるおつもりで?」

「………まぁ取り敢えず、こん騒ぎの理由が知りたいかなぁ………幼子抱えた女性に、無駄にデカい声上げとる理由を聞こかぁ。」


 俺は愛想良ぉしとるつもりやで?

 やが、これが怖いらしい。


 俺からしたら不本意やが、それが相手に効果的やちゅうんやったら、あえて利用せん手はないやろう。


 ………まぁ、それが通じるかどうかは別の話やが。


「コチラとしても穏便に行きたいんですけどねぇ………返してくれる物を返して頂ければねぇ。」


 薄ら笑いを崩さん男が、舐め腐った態度で事実を告げてきおる。


 ………なるほどね。

 こん男等は借金取りかい。


 揺るがん訳はそこか。

 ツメる理由がそれやったら、そりゃ引かれへんわな。


「せやから言うて、きったないダミ声で脅し掛ける様な真似はせんでええんちゃうの?他所の店ん中まで追い掛けてきて、営業妨害も甚だしいがな。」


 理由は解ったが、せやから言うて納得でけるかは別やわな。

 更に言うたら、嫌いなもんは嫌いなまんまや。


「そちらの御婦人を渡して頂ければ、無駄な遣り取りをする事も無かったんでやすが。」

「………渡したらどないすんねん?」

「無論、借金返済の為に割(・)の(・)良(・)い(・)仕(・)事(・)を紹介しますよ。このままでは埒が明かないんでね。」


 ………まぁそやわな。

 女が返せん借金あんねやったら、そないな話になってくんが自然やわ。


 それは解っとる。


 やが………

 納得でけるかは別問題や。



「………………おのれ………今の話やと、この幼子ん事は眼中に無さそうやなぁ。」


 やらかしてもうた大人の事なんぞ知らん。


 やが………

 今、こん幼子から母親を取り上げて、どないしてまともに生きてけんねん。

 親とか親戚、ダチとかに頼れるんやったら、端からこないな事になっとらんやろが。


 そないな事も理解した上で、コイツ等は追い込み掛けとんねん。


 それは、俺をキレさせる理由にぁ十二分やわ。



「勘弁してくださいよ、旦那ぁ。あんたと揉めるつもりは有りやせんよ。」


 俺を怒らした………つまり周りのモンの抑えが無くなるんかも知れんのに、余裕なんか消えん薄ら笑いのままで………それでも反射なんか一歩距離を取りおった。


「そない思うんやったら、それなりに考えた方がええんちゃうんか?お?」

「こっちも商売ですからね。借りた金を返さない者の都合など、こっちが考える必要がありやすかい?」


 そりゃ………そぉやが………


 痛い所を突いてきおる。

 

「それとも………旦那は借金は返さなくても良いと仰るつもりで?」


 ………せやわな。


 薄ら笑いの意味が解ったわ。

 コイツは、己が間違った事をしとらんって理解しとんねん。

 法律ギリッギリん所やろうけどな。

 せやさかい、俺等群衆の暴威に晒されとっても、開き直ったかの様に毅然としておれんねや。


 いや、仕事に対する矜持なんかも知れん。


 無念やが、俺にゃそれを否定する気になれんわ。


「借りる時にはこっちに頭を下げて、人目も憚らす頭を下げて感謝をするクセに、いざ約束通りに取り立てられると、まるで魔族の様に扱って罵詈雑言で罵りやがる………旦那もそんな目で見られるんで?」


 男の不満が堰を切る。

 そりゃそやわな。

 なんで借金した側が被害者ヅラすんねん。

 元の世界でも勘違いしおるアホは多かったけど、借りたんを返すんは当たり前やろ。


 そーいや話はズレるが、夜の遊びにトチ狂った女共が借金したんを、国が助けろと言うとったアホ共も居ったけど、何が悲しゅうて俺等の税金から出さなあかんねんって思たわ。


 せやさかい………


「そうは思わん………そやから今日ん処はこれ持って去んどき。」


 男に向かって、俺は革袋を投げて渡す。

 俺の今日1日の稼ぎや。


 受け取った男は中身を確認し、勝ち誇ったかの様に笑みを濃くした。


「へへへ………すみませんねぇ旦那ぁ。だけど、これじゃぁ数日分の利子にしか成りやせんぜ?」

「手ぶらで帰るよりもましやろが………それとも何か?こっちの顔を潰しやがったって、思いっ切し難癖付けたろかぃ?」


 ほんまに難癖や。

 道理を引っ込めさせて無理を通すにゃぁ、無茶な難癖付けるんが効果的や。

 勿論、こっちにも少しぐらいは理がないとあかんが。

 それは、さっき渡した金が物を言いおる。


「勘弁してくださいよぉ………解かりやした。今日の処はこれで引かせて頂きやす。」


 即座に引いたんは、流石に商人といったところか。


 俺ん言葉に反応して、再度周囲に膨れ上がった暴威に対して即座に撤退を決めた男は、手下を率いて返って行った。




 今だ騒然とする店内で、見知りの客を落ち着かせながら、定位置と成りつつある席に座った。


「トマス………酒奢って。」

「………………いや、良いけど………」


 苦笑いを浮かべながら、どっかで呑んどったんか、グラスを持って隣ん席に座るトマス。


 やって、今日の稼ぎは消えてったさかい。

 素直に言うと、金ないねん。


 んな間の抜けた会話を楽しんどると、ハルア婆ちゃんが俺ん前にエールのジョッキをどんっと置いてった。


「………店からのオゴリだよ。」


 振り返らんと立ち去った婆ちゃんを追い掛ける様に視線をやると、視界に入ったルミルさんが微笑みながら小さく頭を下げてきた。

 なるほど。

 そん心意気に俺も会釈を返しながら、お預けになっとった喉ん渇きをごっごっごっと勢い良く潤した。

 くはぁっと溜まった息を吐くと、落ち着いたんでやっとトマスに向き直ってんけど、その奥にメルリヤが何時ん間にか席について呑んどりやがる。

 ………まぁエエんやけど。

 やが、敢えてそれに触れんとトマスに視線を戻した。


「で?何でこんな騒ぎになっとんねん。」


 改めて問い掛けた。


 あん女性が借金があって、ルミルさんに助けを求めて来たんやろうが、そこに取り立てのヤカラが乗り込んで来たんはなんとのぉ解かった。

 やが、なんでそん騒ぎに皆して首突っ込んどんのかが解らへん。


 多分、そん辺りが話の肝なんやと思うさかい、ちゃんと確認しとかなあかんやろ。


 そしたらトマスが内緒話をする様に顔を近付けてきて、視線で一方向を指し示しおる。


「あそこの女性………ルミルさんの顔見知りらしいんですけど………旦那さんを亡くされてから、女手一つであの幼子を育てていたらしいんですが、結局頼れる所が無くてあんな所から金を借りたみたいで、どうにも行かなくて頼って来た様ですね。」


 ………………知らんがなと言いたいけどなぁ。


 こん世界やと保険とかもないやろうし、実際大黒柱が居らん様になったら、そりゃ女手一つやと大変やろ。


 気の毒にもなるし、幼子に同情もする。

 やが、それでも俺等が首突っ込む話や無いやろう。


 やが、トマスの次の言葉が俺ん考えを否定しおった。


「それが………………あの『魔剣騒動』の被害者遺族なんですよ。」



 ………………………はぁぁ?


 以外な話が出て来おったぞ。


 『魔剣騒動』っつうたら、ちょっと前にあった辻斬り事件の事で、犯人の何処ぞの貴族のあほボンを俺等で取っ捕まえて、人通りの多い所に晒したった騒動ん事やわな。

 そないなると、俺もまんざら無関係やねぇわな。


 ん?

 ちょっと待ちぃな。

 確かに痛ましい事やけどさぁ。

 んな話やったらヤラシイ話、向こうの貴族からええ金取れるんちゃうんかいな?


「まぁ確かに………本来は加害者側に賠償金を支払わさすんですけどねぇ………」


 そうやんな。

 前にゴーランドさんが、んな事を言うとったと思う。

 なんやねん。

 奥歯に小骨でも挟まっとる様な物言いしおって。

 やな予感しかせんがな。


 案の定、予想を覆さんトマスが口を開く?



「覚えてます?あれの犯人………公式には魔(・)剣(・)なんですよ。」



 ………………はぁ?


 ………………………あぁ、そない言うたらそんな発表が有った様な気が………


「ですので、賠償を求める相手が居ないんですよ。相手はへし折られた剣ですから。」


 え?

 やけど、皆そないな巫山戯た話を誰が信じんねん。


「あの衛兵団の正式発表ですよ?信じる信じないじゃぁないんですよ。どうやったって文句言える訳無いじゃないですか。」


 いやいやいやいや。

 そんなん赦されるんけ?

 被害者、殺され損やんけ。

 んな事が堂々とまかり通るんか?


「どっちにしても、御貴族様が俺等の様な平民如きに、素直に賠償金を払うとは思えないしね。」


 なんやと?

 上級国民やとでも言うつもりか?


 前の世界でもんな話が取り沙汰されとったけど、そんなんよりも俺は犯罪被害者の補償や権利が蔑ろにされとんのが納得いかんかった。

 やって犯罪者の権利の方が大事にされとんねやで?

 信じられるかぁ?

 鉄格子ん中で、じっと座らせれとるんが苦痛やとかほざいて、国に賠償を求めるとか言うてんねんで?

 何様やねん。


 んなモンより被害者やそん遺族に寄り添って、心のケアも含めて補償したらなあかんやろが。


 そない思うんが普通やと思ててんけど、前世も今世もそない考えんみたいやわ。

 ムカつく事に………


「あの女性も働く事ができたのなら、仕事はとても出来る人らしいんで、借金位なら何とかできるんでしょうけどねぇ………」


 トマスの呟きが突き刺さる。



 ………………………………。



 はぁぁぁ………



 こん世界にぁ、あんまし干渉するつもりは無かってんけどなぁ………



 せやけど………それよりも苛立ちの方が上回ったわ。




「………………ちょっと呑んでくるわぁ。」


 そない告げた俺に、トマスが不思議な顔をしおる。

 それがどないな感情なんか判らんで、俺が戸惑っとたらメルリヤがいらん事を口にしおる。

 いつものカクテルを飲み干して………



「何時も呑んでるよ?」



 ………………………………。



 まぁ、そうやねんけどよぉ………






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

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