↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
78/78

《Trip14ー④》

此度も御読み頂き有り難う御座います。


僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。






ーーー《sideーB》ーーーーーーーーーー




「まさか、この様に話せる時が来ようとは思いもせなんだなぁ。」


 それが偽らざる私の本心であった。




 あの御仁と楽しく歓談した後、所用があると申し訳無くも早々に切り上げさせて頂き、馬車で『夜霧亭』に送り届けてから表通りを一回りし、またこの『銀狐館』に戻って来たのだ。


 理由は唯ひとつ。

 彼………ベルグ殿と落ち着いて話をする為にだ。


「………戻って来られるとは思いませなんだ。」


 『銀狐館』の前に着くと既に迎えの店員が立っており、そのまま奥の離れに通され、そこでベルグ殿が待ち構えて居られた。

 言葉と裏腹に、私が戻ってくる事を予見していたかの様に。



「折角、かの御仁が繋いでくださった縁ですからな。それに、以前より話してみたいとは思っておりました。」


 進められるままに席に付き、給仕の女性にワインを頼むとベルグ殿に向かい合った。

 ベルグ殿はその様子を眺めながら静かに微笑んでおられたが、給仕が下がったのを確認するすると尋ねてこられた。


「………私の様な裏稼業の者とですか?」

「これでも長らく商いをしている身ですからな。多少は裏を覗く事も御座いますよ。」


 彼は驚くほどに表との接触に敏感だ。

 身の程を弁えていると言わんばかりに。


 しかしながら、私もこれでもそこそこには名を知らしめた商人。

 綺麗事だけでは商いができない事など重々承知している。

 その様な事に躊躇する様では、商いで大成する筈もない。



「………評議会では、幾度か顔を合わせる事も御座いましたが?」

「御手前が避ける様にされておりましたからなぁ………」


 給仕の女性が戻ってきて、ワインを注ぐのを眺めながらも会話を続ける。


 この街は辺境伯領ではあるが、市民によ自治もある程度認められており、そこでベルグ殿とも知己を得る事もあった。

 その時の彼は裏の顔ではなく、経営者としての肩書であったが。


 だが、禄に言葉を交わした事がない。

 それは偏に、彼が私を避ける様にしていたと思える。



「………憂国の士であられる貴方が、足元をすくわれる元凶には成りたくはなかったですからな。」


 少し照れた様に、そう答えたベルグ殿。


 正直驚いた。

 裏社会の者ならば、下心を持って近付いて来るであろう所を、此方を慮って距離を取ってくれていたと言うのだ。


 なんと………

 なんという考えを持つのだろう。

 あの御仁が気に入る筈だ。


「貴殿程の方に、そこまで言っていただけるのは光栄ですな。」


 感謝の意を込めて持ったワインを掲げると、彼も答えてくれたので乾杯をする。



 暫し軽く当たり障りの無い談笑を交わすと、すぐに本題に切り込んだ。

 

「この起案は、是が否でも通さねば成りませんな。」


 これが成されれば、間違いなく富が生まれる。

 先行投資等の問題も有りはするが、軌道にさえ乗りさえすれば、恒久的に財を成す事ができるのだ。


 それなのに………


「えぇ。彼が娘の事を考えてくれている事を抜きにしても、今後この街にとっては途轍もない救済となるでしょうから。」


 そう。


 かの御仁は、その富をいとも容易く手放された。


 我等が助力すれば間違いなく成功する、彼一人ならば持て余す程の富を得れる起案を、まるで興味が無いがの如くに我等に投げなされたのだ。

 我等ならばと信じられて。

 全てはこの街の………この街に暮らす人々の為に。


 その期待に応えねば商人の………いや、男が廃るというものだ。



「御助力願えますか?」

「微力ながらも。」


 心から握手したのは何時ぶりか。

 あの無欲な御仁が、私達を結び付けたのだ。


 ならば、後は具体策を練り上げれば良い。



「他の票の取り纏めはどうとでもなりますが………障害と成るのは、やはり貴族上がりの者共ですかな。」


 この国では、学術を修めているが領内では日の目を見ない令息達(無駄飯喰らい)を、治世に役立てるために各地で登用している。

 しかし、知識のある者が何時の世も品行方正とは限らない。

 特権意識に固まり、街の民を見下し、己の利にのみ走る事しか考えていない。

 全てがそうだとは言わないが、その様な人間ができた人物ならば、中央の政局から離される事はないだろう。


「なるほど………ならば、そちらの方は私が受け持ちましょう。」


 私のわずかな苛立ちを察せられたのか、ベルグ殿が引き受けてくださると言う。


「………………よろしいので?」

「なに………………今まで散々放って置いた『貸付け』が御座いますので、それを少しばかりチラつかせてみると致しましょう。」


 なるほど………

 あの者共が身綺麗なままでいるとは思ってもいなかったが、既に彼等に影を踏まれているとは。

 これは案外、彼等が中央に引き戻される日も近そうだ。

 ………その後、二度と日が当たる事はないだろうが。


「それに………私の様な者が『旨味』が有る様に演じますと、愚か者共は喜んで踊ってくれますからな。」


 ………彼は、自身の持つ影響力を正しく理解し、その使い方まで熟知している様だ。

 彼の代で組織を盤石なものにしたという話は?決して誇張されたものでは無さそうである。


 しかし、それは同時に悪名を被るという事でもある。

 それを彼は悪戯好きな子供の様に、照れた様に笑って受け止めて居られる。


「ありがとう御座います。」


 まさに頭の下がる思いだ。


「いやいや………その様な事よりも、この話を教会側が受けてくれるかですな。」

「その点は御心配なく。フェルメンス神父は話の解かる御方ですからな。私の方から話を通しておきましょうぞ。」


 この話は教会側の利が大きい上に、あれだけ個人で寄付をしているあの御仁の発案を、あのフェルメンス神父が断るとは想像だにできない。

 ………………時折、我々には想像だにできない世界を覗かれているかの様で不安になるが。



「しかしながら………この起案が叶いますれば、あの問題が加速しそうではありますが………」


 少しばかりの不安を払う様に、少しだけ大きめの声で別の懸念を口にする。

 近々の問題でもないが、埋み火の様に消え去る事なく、いずれ大火と成す可能性を秘めている。


 私のため息交じりの呟きを聞き止めた彼が、あぁと合点がいった様子で答えを呟かれた



「移民マフィアですか………」






『と言う訳で、協力を求められましたよ。』


 『姿見』の向こうの友がそう告げる。



 薄暗く整えられた部屋の中、唯一明かりを灯す鏡の向こうで、如何にも神職な顔をした旧友があらましを語って告げてきた。


「面白い事を考え出したものだな………確かに教団に利するものでは有るし、断る理由も有りはしないが………」


 その政策の提案を吟味してみるが、特に問題が有る様には思えない。


 が。


 彼がわざわざ連絡を寄越してきたという事は、絶対に何かが有るのだろう。


 その考えに至り、頭の奥で閃くものがあった。

 


「………あの者の発案か?」


 言葉にしてみて、やがて納得がいった。

 この様な先進的な考えが、急に降って湧く筈もなし。

 ならば、あの男が関わっていると考えるのが自然であろう。


『明確にはされておらなんだが、間違いなくそうだと………』


 笑いを含んだ声で答える彼に、幼き頃の姿が重なる。

 そういえば、こういう性格であったなぁ………



「………それで、如何に対応するつもりか?」

『断る理由がありましょうか?』


 儂の問いかけに、迷う事なく答える旧友。

 確かにその通りだ。

 彼が手掛ける孤児院にも収入が入る上に、若手の育成にも繋がると利点が大きい。

 こう言うと歳を取ったと思われるだろうが、今時の若者には奉仕精神を身を持って体験させれる。


 まぁ幼子と触れ合う事で、還俗を望む者が一定数出できそうではあるが。


『それはそれで致し方無いでしょう………人の営みとしては、そちらの方が自然なのですから。』


 確かにな………

 鏡の向こうで微笑む友の声に、儂は肩をすくめて答える。

 望まぬ者に強いても、正しく教義を理解し得るとは思えぬからな。



『まぁ、少なくともこの街の為に考えられた事ではあるし、我らに如何様にとっても不利益になる事でもなし………後日、改めて正式な手続きで話を回す事になるでしょう。』

「そうだな………」


 正式に申し込まれれば、断る理由を探すのに苦労しそうだな。

 まぁ、あの干物(長老会)共は良い顔をしないだろうが。

 良くも悪くも変化を望まぬ考えは、常に衰退の恐れを孕んでいると気付こうともせぬ。


 まぁ、後先考えぬ改革も碌な物ではないが。



 己の考えが段落を打ち、改めて姿見の方を向けば何やら考え込む様子が伺える。


「ラディ。如何した?」

「………………なぁリグ………君でも還俗を考えた事は有るかい?」

「はっ!馬鹿馬鹿しい。」


 その様な事、幾度だってあるわい。


 教義を深く知るにつれ、その矛盾点を見つけた時。

 純粋である筈の祈りの影で、私欲に走る愚か者を見た時。


 祈りだけでは救えぬ命が在ると知った時。



 じゃが、儂も歳を喰った。


 その様な青い衝動も鳴りを潜め、自制心とそれを利用する術を身に付けた。

 それを老獪と胸を張るつもりは無い。

 ただ、若さと情熱に陰りが差しただけ。


 そこまで考えてから、ふと鏡の向こうの友を見た。

 そこには慈愛に満ちた笑顔の、儂じゃから解かる疲れた顔の友が居た。


「………………リグ。」

「ははは………………心配性ですね、ラディは。」


 その笑顔が、まるで泣いているかに見える。

 市井にて救済活動に努め、孤児達の面倒をみている彼には、儂以上に不条理に絶望した事もあるじゃろう。


 じゃが、それ以上は何も言わん。

 今、そこに立つ友を侮辱する気はない。


 

『ただ………懸念事項も提示されている様ですが。』


 笑顔を崩さぬ友が………それでも話題を変えようと、話の道筋を元にもどす。

 勿論、その先も気にはなるので先を促す。


『いえ………貴族の令息を含む評議会の取り纏めに問題は無さそうなのですが………いずれ埋み火に風を送る結果になりそうとの事ですよ。』


 ………なるほど。


 今は然程表面化しておらぬ問題が、発展の先に顔を出すてきおると………



 あぁ………………





「『偽(ギ)教徒』どもか………………」






《See you next trip》

如何でしたでしょうか。


今回のおっさんは地味でしたね。

まぁ毎度暴れまくってたら変ですし。

バトル物の方が読み応えは有るんでしょうが、

あまり不自然にはしたくありません。

たまにこんな回も有ります。


まぁ次作は暴れますが(笑)。


次作も粉骨砕身務めますれば、

感想等を頂けたら望外の喜びです。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。