《Trip13ー⑧》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「私をパパの所へ連れて行くの?」
一通り泣き倒したんか、少しづつ………ホンマに少しづつ力を取り戻した瞳で、俺を睨んできおったローザが言い放った。
「そんな事をしても、私はパパを許すつもりは無いし、あの人の元に居るつもりも無いわよ。」
「………………お前、救えんアホやのぉ。」
得物を腰に戻すと、ローザの前にしゃがみ込んで視線を受け止めたる。
「なぁ………お前に何ができんねん?お前が親父さんを否定するんは好きにしたらええがな。やが、今関わっとる罪とはどないするつもりやねん。」
「………………」
淡々と今置かれている状況を告げてやる。
どんだけどん詰まっとるんかを………
「お前は爪弾きにされとる連中とつるんで、お前に優しかったこん街の人等に迷惑掛け倒した上に、お前は知らん処なんかも知れんけど、最悪な薬物と関わった。」
「わ、私は関係ないわっ!」
「知らんがな。その言い訳を、世間様に信じて貰えるかどうかやんけ。んで、お前に信じて貰えるだけの背景が有るかどうかや。」
冷たい現実を突きつけたる。
わがまま放題やりたい放題、庇護しとる親の苦労も見ようともせんと、若さゆえの勘違いと言うにぁ取り返しのつかん処まで来とる。
そん事実を理解せんと、こん娘は先に進まれへん。
「何も嘘を言っていないのに、どうして………………」
今だに作り出した殻に閉じ籠もり、今を受け入れようとせんこのバカ娘は、まるで悲劇のヒロイン気取りでおる事で、現実から目を背けようとしとる様にも見える。
………………なんや呆れてきたわ。
「何くそ甘えた事言うてんねん。お前の言葉を信じる奴が、こん世の中にどれだけ居るっちゅうねん………………手前勝手に家を飛び出して、不良連中とつるみながら、世間様に迷惑を掛ける事しかしとらん奴の言う事を、どこの誰が信じてくれると思とんねん。」
「わ、私は何もしていないわ。」
知らんがな。
ええ加減相手すんのが面倒くそぅなってきた。
「あぁ、そうかも知れん。で?………せやからそれをどないして証明すんねやと言うとんのやがな。」
ええ加減しゃがんどんのもしんどなったんで、立ち上がると腰に手を当てて伸びをする。
齢取ると足腰にくんねん。
「私はっ!私は私を理解してくれる仲間と居たかっただけなのに。」
哀れな位に縋り付いてくるローザが、いっそ滑稽にみえて笑えてきおる。
「………んで?結果はどぉやねん?仲間やと思とった連中は心ん中で舌出して、お前をええ様に利用しとっただけやがな。お前が踊らされとんの見て、影で笑いもんにしとっただけやろが。道化もええとこやんけ。見る目無いのぉ。」
呆れ果てて、薄ら笑いが零れて………情けのうて、ベルグの奴が哀れでならんわ。
甘やかした罪はあるやろうが、此処までアホになってもうた娘の責任を………全てを背負わしたらアカンやろ。
「うるさい。うるさぁいっ!」
「………救いようが無いやっちゃなぁ………」
現実逃避で幼児退行までし始めたローザは、耳を塞いどった手を後ろに回し、鞘に納められとる短刀を持ち出しおった。
………………こんバカ娘が………
「………………解っとんのやろうなぁ、こんバカ娘が………それを抜いたら、殺されたって文句は言えんねんぞ。」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!私を馬鹿にするなぁっ!」
窮鼠、自暴自棄に身を落とす。
此方の忠告を無視して、凶刃を抜き放って俺に向かって突っ込んで来おる。
「こんぼけがっ!」
片足を引く事で軽々と剣線から身を避けると、短剣を握る手を掴むと捻り上げ、短剣を取り上げ捨てた上で張り倒した。
「オノレが選んだんやさかいなっ!こっから先は命のやり取りじゃボケぇ!」
腰から獲物を抜き放ち、大股で蹲るローザに近付くと、怒りのままに遠慮のぉ一撃を放つ体勢に入った。
こんだけ言うたったのに最悪な選択をした以上、最早救い様もあらへんのやさかい、身を持って教え込んだらなアカン。
そない考え、得物を振り下ろした。
やが………慌ててそん手を止める事になる。
「なっ………………ボケぇっ!………何しとんねんっ!」
誰かが俺とローザとの間に割って入って来たさかいに………
「………………パパ。」
力一杯目を瞑って、来る衝撃と痛みに耐えようとしとったローザが、訪れない事を訝しみ恐る恐る目を開けると、見知った小さく………やが大きい背中が己を庇っとった。
「許してやってください旦那ぁっ!この子はまだ解っていないんでございますっ!」
「俺は警告したぞぼけぇっ!そんでもこっちに踏み込んで来たんやさかい、オノレで責任は取らなアカンやろがっ!」
多分、俺は鬼の様な形相やろう。
ムカついた。
どんだけ愛されとるか知ろうともせず。
どんだけ甘やかされとるか気付きもせん。
せやのに罪には向き合わず。
薄っぺらな主張だけしやがって。
責任逃れだけに必死になって。
回りの迷惑にぁ知らん顔。
自分だけが可哀想なふりをしやがる。
許せるかぁっ!
そんなクソガキはしばいたらなアカンねん!
「そこをなんとか………………なんとかお許しを願えでしょうかっ!」
文字通り血の滲む様な………俺に向かって土下座して擦りむいた額から、一雫の血が流れとる。
友となったもんの、んな血を見たとしても赦せん話もあんねや。
そん友の為にも………
「ぼけぇっ!なんぼお前との仲でも赦せん話があるんじゃっ!」
「解っておりますっ!解っておりますが、そこをっ!そこを曲げてお願いしてっ!」
「でけるわけねぇやろがっ!」
「ですからっ!ですから私の身を如何様にして頂いても宜しいのでっ!」
がばりと顔上げたベルグと視線が合うた。
「………………お前、何を言うてんのか解ってんのか?」
「勿論でございますっ!子の罪は親の罪でございますっ!」
それはまともな親という生きもんの、悲痛すぎる慟哭なんやろう。
「私はっ!私はこの娘の父親でございますっ!」
「………………………………………パパ。」
父親の挑む様な視線に二の句を失う。
その隙をつく様に、娘を頭から抱きかかえる様に庇いながら、必死の訴えを轟かせる。
「この子にはっ!この子には、親は私しかおりませぬ。ならばっ!その罪を肩代わり出来る栄誉を、私めに与えて貰えませぬか?」
縋り付くベルグに俺の視線を絡め取られ、周囲の喧騒とは掛け離れた沈黙が支配する。
なんか一気に身体の熱が奪われて行きおる。
身体ん中の熱も吐き出す勢いで、深く深く溜め息を吐いた。
なんか一気にアホくさくなったわ。
「………………もぉええわ。さっさとそんバカ娘連れて帰りぃ。」
「………………………旦那ぁ。」
強いなぁ………………父親という生きもんは。
そんだけ罪深いんかも知れんけど。
やが………やからこそ、多分俺は勝たれへんのやろう。
「親子の絆を持ち出されたら………………なんもでけるかぁ。」
「旦那ぁ………ありがとうございます。」
涙ながらに俺に頭を下げるベルクに、幼子の様に縋り付いとるローザ。
絵に描いた様な、父と子の構図やった。
「もうええから早う連れて行き。野暮な連中が乗り込んできよんで。」
促されて立ち去ろうとするが、力が抜けたのかふらつくのを御互いに支え合う姿は、理想の父と娘の姿みたいで、少しだけ羨ましくもあるわ。
「………良かっのぉ。お前ん事を大事にしてくれる人がおって………………」
ふと溢れた言葉は、ローザに届いとらんかも知れん。
やが、んな事はどうでもええ。
もう一つ………今度は小さめな溜め息を付きながら、控えめに言うても綺麗やない天井を見上げる。
二人とも幸せになったらええなと思いつつ………
「メルリアぁっ!ほどほどに暴れたら、帰って呑み直すでぇっ!」
「………………わかった。」
こん話は終いや。
やる事やったら、後は呑むだけやろ。
そないな事を考えながら、俺もあと一人二人しばいたろとしたタイミングで、厳つい男達が傾れ込んできて、赤いベストを着たアホ共と乱闘が始めよった。
なん事やろうかと、手を止めて戻って来たメルリアと見合わせとると、一人の男が近付いて来て、両膝に手を置いて頭を下げてきおった。
「………お初に御目に掛かりやす。禄に仁義も切れねぇ無作法で真に恐縮ではございやすが、どうかこの後のこの喧嘩、ノスフェラトスに譲って頂きとう御願い致しやす。」
どうやらノスフェラトスのもんらしい。
どっかで見覚えがある様な気がしたら、多分ベルグと話した時に居った若もんやと思う。
「官憲が迫って来ておりやす。ここは我らに譲って頂き、後は心お平らやかにして頂く方が宜しいかと、伏してお願い申し上げやす。」
………なるほど。
おそらく自警団の連中が、まもなく此処へ突入してきよんのやろう。
そないなったら、俺らも纏めてしょっ引かれるさかいに、ノスフェラトスが肩代わりしてくれるっちゅう事かいな。
ノスフェラトスの連中にしても、今までローザを盾にされとったフラストレーションが溜まっとるさかい、ちったぁ発散したいっちゅう目論見も有るんやろうけど。
俺んしてみたら、面倒事から逃れられるさかいに願ったり叶ったりやし、こん連中も憂さ晴らしできんねやからええ事なんやろう。
それにおそらくやが、自警団にもナンボか話が通じんのやろうから、然程大きい事にもならんか。
「………………わかった。ほな預けるわ。」
メルリアは暴れ足らん雰囲気やったが、了承を伝えると出口へと向かおうした。
裏口がええかなぁとか考えとったら、さっきの若もんが旦那ぁと改めて声を掛けてきおった。
なん事かいなと振り返ると、さっきと変わらん姿勢で一層深く頭を下げとった。
「………此度は御骨折り頂き、真に有難うございやした。一同に成り代わりやして、厚く御礼申し上げやす。」
………やっぱり、あん親子は愛されとってんなぁ。
そん声に小さくあぁと返すと、さっさとこん場から立ち去った。
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




