《Trip13ー⑦》
此度も御読み頂き有り難う御座います。
僅かでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
「おうおうおうおう………不細工な雁首揃えおってからに、女子供虐めて楽しいんかいな。ほんましょっぼい連中やのぉ。」
『赤龍団』の溜まり場に乗り込んだら、丁度ローザが取り押さえられとる所やった。
見ればリーダーかと思われる奴が、口元に赤い包み紙を持って行きおる。
まぁ、絶対碌でも無い事やわな。
せやさかい、咄嗟に腰から木の棒を抜き放つと、綺麗に回転して男の手から包み紙を弾き飛ばした。
おぉ、らっきぃ〜(笑)。
昔は結構なノーコンやった自覚があるだけに、得物を失ってもうたが結果には満足したわ。
んで、先程の啖呵に繋がるんやが、此処までくると全てのヘイトが俺に向かって来おる。
やからと言うて、やる事は変わらへん。
手元を吹っ飛ばしたったリーダー格ん男が、心配気に近寄っとった女どもを振り払いながら、クソ生意気に睨んできおる。
「何しに来やがったっ!」
痩せ我慢しながら………
さぞかし痛かったやろうに。
がっつり指先にぶち当たっとったさかい。
おそらくきっちり折れとるやろう。
やが、泣き言は言えんわのぉ。
今までさんざん偉そうな事ほざいてとんのに、そないにダサいこたぁでけんやろ。
嫌いやないんやがな、こんなアホ。
やが、今回はがっつり敵なんやさかい、遠慮のぉ潰したんねん。
「何しにもクソもあるかい。用事が有るさかいに来とんねやろが。」
そない呆れ溜め息混じりに告げ、あほなん?と言外に表現する。
途端に更にヘイトが高まるが、気にする様子も無ぉ感じで周りを見渡す。
「はっ。どうせ、この女を引き戻しに来たんだろうが、そう簡単には渡せねぇなぁ。」
得意げにクソ生意気に囀る男。
………………………。
そぅいや、名前知らんなぁ………………
まぁそないな事はどないでもええんやが、コイツからしたらそないに見えるらしい。
「そうかぁ………そう見えるかぁ………」
そらそやわな。
ローザの親父さんの知り合いが、わざわざこないな所まで乗り込んで来おったんやさかい。
やがここで、俺ん中のお茶目さんが目ぇ覚まして押さえられん。
「やが断わるっっ!」
「はぁぁぁ?」
………………ごめんなさい。
ほんまに場の勢いだけで言いました。
止めなアカンとは思てんけどね。
やけど………
やけどなんか、モヤモヤしとったモンが晴れて、頭ん中がスッキリとして行く。
そうやわな………
そう考えなアカンかってん。
「まさか、お前に感謝する事に成るとはのぉ………やが、御蔭さんで考えが纏ったわ。」
「何を言っていやがる。」
怪訝な顔しとるコイツは放っとくとして。
そもそもの考えが間違えとった事に気ぃ付いてん。
俺はベルグの胸ん中を察して、娘のローザを救い出さなアカンもんやと思い込んどってん。
「色々うだうだと考えとっても、考えが纏まらんはずやわ。方向性がまるっきりちゃうかってんから。」
間違うとる方程式から正解が出る訳ないんやさかい。
道を踏み外しとる友人の子が居るんやったら、助ける云々かんぬんやのうて、それをまず正したらなアカンねや。
そん子に恨まれても憎まれてもええ。
そんなもん、正道に戻したってからの話や。
………そん為やったら、手段も選ばへん。
「そうやねん。そないな甘い考えは、俺らしゅうないんやがな。クソ舐めた考えしとるクソガキは、基本的に拳で教育したらなアカンと思うんが俺やがな。」
今時の人等にゃあ理解はされんと思うけど、俺等のガキん頃は近所に口煩いジジイが居ってん。
特に銭湯なんぞにゃ必ず居って、見も知らんジジイに怒鳴られたもんや。
やが、そないな少し過剰な触れ合いん中で、ルールやらマナーなんぞを学んだんやと思う。
今時やないんは解っとる。
やが、そないにしょうも無い気ぃ使とるさかい、アホなんが量産されたんちゃうかなとも思う。
何でもかんでもハラハラ言うんは、どぉ〜も好かん。
で、アホがガキ育てたらもっと酷いアホが出来上がるっちぅ、負の連鎖が出来上がるっちぅ訳やな。
そんなん見苦しいさかい、俺はそん流れに乗りとぉない。
「せやさかい………俺はそん娘ん頭を張りにきたんや。」
「なっ、何を言ってやがる?」
何って、アホにゃ解らんやろうなぁ。
パワハラ上等で頑固オヤジになって、そん娘の曲がった性根を叩き直したるちぅてんねや。
よっしゃ、腹括ったでぇ。
「まぁ、信じんのかどうかは勝手やけどね。やが………邪魔すんねんやったら、オノレ等もシバクで。」
まぁ、コイツ等は叩いた処でマシになるたぁ思われんさかい、世間様の迷惑にならん様に張り倒すだけやな。
「うるせぇっ!やっちまえっ!」
救いようの無い自己都合の塊共か、ちっぽけなプライドを守る為に、暴力という名の思考放棄に走りおる。
リーダー格の声に暴徒と化した反社の連中が、一斉に凶器を向けてきおった。
その数ざっと20と数人。
逆にこっちは無手のおっさん俺一人。
圧倒的な戦力差やが、俺に不安は一切あらへん。
信じとるからな。
「メルリアぁっ!」
俺が上げた声に応える様に、入り口の扉が蹴破られて影が踊り込む。
銀の髪の影が………
行き掛けの駄賃とばかりに数人を吹っ飛ばした影は、文字通り俺を飛び越えて守る様に木剣を構えた。
「任したでぇっ!」
「………任されたっ!」
少ない言葉を交わしただけで、俺はそっちの方向から意識を外した。
メルリアが任されたっちゅうたんや。
なんの問題があんねん?
なんか人間が吹っ飛ばされとるけど、まぁ気にしたら負けやな。
んで、改めてリーダーっぽいのに向き合う。
「さてさて………………これで後ろの憂いは無くなった事やし………オノレの相手に専念できるなぁ………」
そない言う俺に、残っとった取り巻きの一人が刃物を翳して突っ込んできおる。
やさかい、俺は右足を引いて剣線から外れると、捻りから溜めを作って、相手の水月………胸の中心辺りに右の掌打を叩き込むと同時に、肘が上を向くように捻り上げた。
所謂少林寺拳法でいう所の『螺旋拳』、またはボクシングのコークスクリューの様な一撃は、相手の動きを一瞬止める。
気分は初めての一歩なH.B.ショット。
そん一瞬の隙を見逃さんで、左の掌打をななめ下から顎に突き上げる。
人間は斜め下からの力にゃ弱いもんや。
軽く吹っ飛ばされた相手は、受け身も取れんと後頭部から落ちて沈黙する。
相手が動かん事を確認すると、残ったリーダーっぽいのに視線を移す。
「オノレが計画的にローザを取り込んだんやと、俺はふんどるんやがな………」
周りに盾となるもんが居らん様になったさかい、あからさまに狼狽えとる。
そりゃまぁそうか。
見た感じ、小賢しさだけで成り上がっとる様やしね。
俺の様なもん相手でもびびっとんねやろ。
「………だったら、どうだと言いやがるんだ。」
「いやぁ、よぅやったと思うで。マジで。」
こっちの腹を探るような問い掛けに、普通に賛辞を送ったる。
弱っとる相手の望むもんの紛いもんを準備して、ええタイミングを演出してから、甘言を含めて与えて夢を見さす。
相手は途中から自分が見たいもんだけを見て、勝手に真実から目を逸らすさかい、後は逃げ出せん様にガチガチにしたったら出来上がりっちゅう訳やな。
「せやさかいにな、オノレだけを責めようたぁ思われへんねん。何やかや言うたって、詰まる所は騙される奴も悪いんやさかい。」
要は、騙される側にも問題が有るっちゅうこっちゃ。
都合のええもんしか見んかったら、そら騙されるっちぅねん。
それで被害者ヅラされてもなぁ………
「や・が・なぁ………………せやから言うて、騙す奴が赦されるちゅう筋は無いやろが?オノレは自身の罪と向き合うべきやな。」
それに加えて、コイツは俺にやったらアカン事をしやがった。
さっき言うた大前提をすっ飛ばしても、俺の友の娘を的に掛けるたぁ、許されざる暴挙や。
それが例え私怨やと罵られようとも、そやから何やねんと言い返したる。
悪い事やったら、絶対に恨みを買うもんや。
悪党が枕高こうして寝れるなんぞ、想像しただけで反吐がでるわ。
「手ぇ出した相手が悪かったと、骨ん髄まで教え込んだるさかい、覚悟せぇ!」
「うるせぇっ!」
予想外に怒りを向けられたリーダーっぽい奴が、脇下のホルスターからナイフを抜きおる。
もう片方の脇の下にもナイフがぶら下がっとるさかい、きっと両の手で扱いおるんやろうけど、さっきの一撃がきいとんのか、左手だけしか抜いとらん。
そんなんで俺をどないか出来る訳無いやろがと、思う俺はこっちの世界に毒されとんのやろう。
………ま、ええけど。
「ちったぁ静かにしぃ。アホなん?」
すっかり小物に成り下がった相手に同情する気にも成らず、白けた空気が辺りを覆いおる。
「今まで頭良さそうなフリしとったのに、すっかり地がでとんで。んなんで、立派な詐欺師になれるんか?小物のクセして。」
「黙れっ!俺を馬鹿にするんじゃねぇっ!」
なんやコンプレックスが有るんか知らんけど、過剰に反応したリーダー擬きが、俺に向かってナイフ片手に突っ込んできおった。
「やっぱりアホやのぉ………」
一撃二撃と鋭い踏み込みでの斬撃が放たれるが、所詮は素人に毛が生えた程度のもんや。
そないなもんにヤラれる訳あらへんがな。
こちとらこっちに来てから、どんだけ修羅場潜ったと思とんねん。
程良い処で内側に大きく弾くと、そんまま肩から体当たりを食らわす。
体重差も加味して、軽く吹っ飛ばした後、踏ん張っとる足に踵から蹴りを入れる。
所謂ヤ◯ザキックや。
狙ろた蹴りは、紛うことなく膝を破壊する。
前屈みで崩れ落ちる相手に、右腕で顎を掬い上げる様な一撃を放つ。
これで決まりかとも思たけど、やっぱり最後まで気ぃ抜いたらアカンよな。
手負いの相手は、土壇場で手持ちのナイフを俺ん顔に向かって投げつけてきおった。
ちょっとヤバい。
そないに考えとったら、どっかから弾き飛ばされて来おった木の棒が、丁度振り上げた俺の右手に収まった。
おぉ、らっきぃ〜(笑)。
それを使ってナイフをはたき落とすと、帰す手で水平に振り払い、相手の顎を打ち砕いた。
盛大に吹っ飛ばされた相手は、激痛に耐えかねたのかのたうち回り、顎の痛みを訴えとった。
「これで自慢の嘘も言えんやろう。」
そない告げると、これから立ち向かう最大の問題ん事を考えた。
そりゃぁ地回りヤクザの縄張り問題なんかも知れん。
ややこしい薬が絡む話なんかもややこしい話やろう。
んな事よりも、家庭の問題………しかも父と娘の微妙な距離感みたいな問題は、俺もほんまやったら関わりとうは無い。
娘が居ったためしもねぇのに、何が悲しゅうて悩まなアカンねん。
………………どっかに居らんかったんかなぁ。
俺ん娘。
前世を思い返せば、それが心残りやったわ。
自分の過去を振り返り、夢物語に想いを馳せとっても詮無いし、現実逃避は程々にこっちに目を向けるか。
今だに打ちひしがれ、床に広がっとる赤い髪。
あれだけ強い光を湛えとった瞳は、どろどろの涙で汚れとる。
………………何故に泣く?
そん理由が、己の為だけに流されとるんなら許したらん。
悲劇のヒロイン気取りは要らんねん。
そないな事を考えながら、青い顔しとるローザに向きおうた。
《See you next trip》
如何でしたでしょうか。
次作も粉骨砕身務めますれば、
感想等を頂けたら望外の喜びです。




